2026年2月、日本の資源開発史に消えることのない新たな1ページが刻まれました。国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)が誇る地球深部探査船「ちきゅう」が、水深約6,000メートルの海底からレアアース泥を連続的に引き揚げることに世界で初めて成功したのです。
これは、長年「資源小国」という宿命を背負い、輸入に頼らざるを得なかった日本が、自立した「資源大国」へと変貌を遂げる歴史的転換点(パラダイムシフト)の号砲です。
投資の世界には「ツルハシ理論」という有名な格言があります。19世紀の米ゴールドラッシュで最も巨万の富を築いたのは、一攫千金を狙って金を掘った人々ではなく、過酷な環境で働く彼らに「ツルハシ」や「ジーンズ(リーバイス)」を売った商売人だった、という教訓です。
今回の舞台は、水圧600気圧という極限の深海。南鳥島周辺の排他的経済水域(EEZ)には、日本の年間需要の数百年分に相当する1,600万トン超のレアアース泥が眠っています。
第二次高市政権が強力に推し進める「国産資源開発プロジェクト」において、三井海洋開発などの大手企業が主役(メインプレイヤー)となるのは間違いありません。しかし、抜け目ない投資家として注目すべきは、その巨大プロジェクトの足元で、代えの効かない「不可欠なツルハシ(独自技術)」を提供する時価総額3,000億円未満の中・小型株です。
本記事では、特定のニッチ分野で世界屈指の技術力を持ち、本業で安定して稼ぎながらも、「国産レアアース」という特大のカタリスト(株価上昇の引き金)を秘めた有力企業を厳選して紹介します。
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以下が、今回紹介する銘柄の一覧です:
| 区分 | 企業名(証券コード) | 重要指標(2026年2月時点) | レアアース事業における強み |
| 探査 | 応用地質 (9755) | PBR: 0.87倍 / 利回り: 3.7% | 【深海の眼】 600気圧に耐える自社製機器で海底を3次元可視化。環境評価も担う。 |
| 採掘 | 古河機械金属 (5715) | 時価総額: 約480億円 | 【深海の腕】 地上鉱山のドリル技術を転用。関連特許保有数は国内トップクラス。 |
| 揚鉱 | 酉島製作所 (6363) | 時価総額: 約1,200億円 | 【動脈】 泥混じりの液体を6km上へ押し上げる「超高圧スラリーポンプ」の世界権威。 |
| インフラ | 岡野バルブ製造 (6492) | 時価総額: 約100億円 | 【守護神】 原発技術を応用した超高圧制御バルブ。足元の業績も232%増。 |
| インフラ | 東京製綱 (5981) | PBR: 0.6倍 | 【命綱】 自重で切れない「炭素繊維ケーブル」。錆びない・軽い・強いで深海の常識を覆す。 |
| 精製 | アサカ理研(5724) | 時価総額: 約40億円 | 【機動力】 リサイクル事業で磨いた高度な分離技術を転用。パイロットプラント等の初期実証で真価。 |
【探査・採掘】深海の「眼」と「腕」となる企業
深海6,000メートル。そこは静水圧が約60MPa(1平方センチメートルあたり約600キログラム)に達する、太陽光の届かない暗黒の極限環境です。この過酷な舞台で「どこに、どれだけの泥があるか」を正確に把握し、効率的にかき集める技術こそが、プロジェクトの成否を握る出発点となります。
応用地質 (9755):深海底を透視する「眼」
- 役割: 海底地形・地盤の3次元可視化
- 投資指標: 時価総額 約780億円 / PBR 0.87倍 / 予想配当利回り 3.7%
地質・地盤調査の国内最大手である応用地質は、暗黒の深海底をデジタル技術で「見える化」するプロフェッショナルです。
同社は、エベレストの高さに匹敵する水圧下でも動作する独自の耐圧仕様・物理探査機器を保有。3次元音波探査を用いた高精度な計測によって、レアアース泥の層をミリ単位で特定する「海底の精密地図」を描き出します。
さらに、商業化に不可欠な環境影響評価(EIA)においても、国内唯一無二の「深海コンサルタント」としての地位を確立しています。3.5%を超える高い配当を受け取りながら、国家プロジェクトの進展を待てる「負けにくい」銘柄の一つです。
古河機械金属 (5715):岩盤を切り拓く「腕」
- 役割: 海底解泥・集泥システムの開発
- 特徴: 足尾銅山から続く鉱山技術の結晶と、圧倒的な特許数
「足尾銅山」をルーツに持ち、100年以上にわたり地上の過酷な現場で「岩盤を砕き、運ぶ」機械を作り続けてきたのが古河機械金属です。
同社の強みは、その圧倒的な知的財産にあります。深海採掘に関連する特許保有数は約20件と国内トップクラス。海底に堆積した硬い泥をほぐす「解泥(かいでい)」や、効率よくかき集める「集泥」のプロセスは、同社のドリルや破砕技術の独壇場です。
地上で磨かれた「最強の腕」が、いま日本の未来を切り拓くために深海へと送り込まれようとしています。
【揚鉱・インフラ】6,000mを繋ぐ「動脈」と「命綱」
海底で集めた泥(スラリー)を、垂直に6キロメートル上の船上まで吸い上げる。この工程は、機械工学においてもっとも困難な「極限の挑戦」と言っても過言ではありません。この過酷な垂直輸送を支える、代えのきかない「ツルハシ銘柄」たちがこちらです。
酉島製作所 (6363):泥を押し上げる「最強の心臓」
- 役割: ハイテク・スラリーポンプの提供
- 時価総額: 約1,200億円
ハイテクポンプの世界的メーカーである酉島製作所は、砂や泥が混じった研磨性の高い液体(スラリー)を、超高圧下で安定して送り出す技術において世界屈指の実力を持ちます。
6,000メートルの揚程(液体を押し上げる高さ)を克服するための多段ポンプ技術や、高圧下でも液漏れを防ぐ特殊シール技術は、まさにプロジェクトの「動脈」です。本業の水インフラ事業が絶好調であることに加え、積極的な株主還元(自社株買いやDOEの採用)にも意欲的。資本効率の改善とレアアースの夢を両取りできる、バランスの取れた優良銘柄です。
岡野バルブ製造 (6492):600気圧を制御する「守護神」
- 役割: 超高圧・極限環境用バルブ
- 時価総額: 約100億円(超小型株)
揚泥システムにおいて、流体の制御と安全を担保する最後の砦がバルブです。同社は原子力発電所向けの超高温・高圧バルブで培った、国内右に出る者のない信頼性を誇ります。
600気圧近い圧力がかかる環境下で、泥の流量をミリ単位で制御し、緊急時には確実に遮断する。この「極限の制御技術」は他社の追随を許しません。特筆すべきは足元の業績で、2026年9月期・第1四半期の営業利益は前年同期比232%増と文字通り「爆発」しています。時価総額がわずか100億円規模であるため、レアアース関連のニュース一つで株価が数倍に跳ねるポテンシャルを秘めた、本命の小型株と言えるでしょう。
東京製綱 (5981):鋼鉄の常識を覆す「未来の糸」
- 役割: 超高強度・軽量炭素繊維ロープ
- バリュエーション: PBR 約0.6倍(極めて割安)
深海開発において、従来の鋼鉄ワイヤロープは「自重」が最大の敵となります。6,000メートル分ともなれば、自身の重さで破断する恐れがあるからです。
そこで革命をもたらすのが、同社の炭素繊維複合材料(CFCC)です。鋼鉄の5分の1の軽さで同等の強度を持ち、かつ錆びない。この「魔法の糸」が、深海機器を吊り下げる安全な命綱となります。現在、解散価値を大きく下回るPBR 0.6倍という水準で放置されていますが、世界で唯一の技術が再評価された際の上値は、計り知れません。
【分離・精製】泥を「黄金」に変える錬金術
海底から引き揚げられたレアアース泥は、船上に上がった時点ではまだ、ただの「泥」に過ぎません。そこからハイテク製品の心臓部となる特定元素をミリグラム単位で抽出する工程こそが、文字通り泥を「富」へと変える最終段階です。
アサカ理研 (5724):都市鉱山で磨かれた「精鋭技術」
- 役割: 特定元素の高純度回収
- 特徴: 回収困難な希少金属を抜き出す専門性
「都市鉱山」のリサイクルで培ったアサカ理研の技術は、深海レアアース泥という新たなフロンティアでもその真価を発揮します。
特にEVのモーターや防衛装備に不可欠な「ネオジム」や「ジスプロシウム」を、極めて高い純度で取り出す技術に長けています。大規模プラントが稼働する前段階の、機動力が必要とされるパイロットプロジェクト等において、同社の専門技術は「代えの利かないピース」となるはずです。
同社の技術の凄みは、エマルションフロー法という「従来の設備に比べ、コストを5分の1以下に抑えられる」という圧倒的な経済性にあります。商業化において最大の壁となる「採算性」をクリアするための切り札といえるでしょう。現在は半導体向けの超高純度材料が絶好調で業績を牽引しており、「半導体の成長」と「レアアースの国策」という、最強の二兎を追えるポジションにいます。
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「オールジャパン」の底力が、株価を押し上げる
南鳥島レアアースプロジェクトは、もはや遠い未来の「夢物語」ではありません。2027年度には日量350トン規模の連続採鉱試験、そして2028年度以降にはいよいよ商業生産へ――。そこには、国策として描かれた具体的かつ着実なロードマップが存在します。
この巨大プロジェクトの心臓部を支えているのは、華やかな主役の影に隠れた「下町ボブスレー」のような、世界に誇る日本のニッチトップ技術集団です。
今回紹介した企業たちの多くは、既存のインフラやプラント事業で手堅く利益を出し、安定した配当を継続しています。その盤石な土台の上に「国産レアアース」という国家的プロジェクトの受注が加わったとき、時価総額の小さい中・小型株が受けるインパクトは、計り知れないものになるでしょう。
投資家の皆さんは、今後次々と発表されるであろう「実証試験への参画」や「深海関連機器の受注」というニュースを、ぜひ注視してください。
2026年を「国産レアアース元年」と捉え、ポートフォリオの一部にこうした「夢のあるツルハシ銘柄」を仕込んでおくこと。それは、あなた自身の資産形成を加速させるだけでなく、資源自立を目指す日本の未来を、投資という形で後押しすることでもあるのです。
(※投資は自己責任でお願いいたします。株価や配当利回りは執筆時点のデータを基にしており、将来の成果を保証するものではありません。)