2024年に始動した新NISA。将来の年金不安を背景に、「働かなくても入ってくるお金(配当金)」という果実を求めて、多くの投資家がこの荒波に飛び込みました。
しかし、初心者が最も陥りやすい、そして最も致命的な罠があります。それは、「配当利回りランキングの上位から順に買う」という行動です。
実は、表面的な数字の高さだけで投資家を誘う銘柄の裏には、将来的な「減配」や「株価の大暴落」という牙を隠した「罠銘柄」が数多く潜んでいます。せっかくNISAの非課税枠を使っても、元本が溶けてしまっては本末転倒です。
本記事では、そんな罠を論理的に回避し、時間が経つほど配当が雪だるま式に増えていく「累進配当(減配をしないという誓い)」と「連続増配」の極意を解説します。
「今の利回り」よりも「明日の成長」を。
目先の数字に惑わされず、10年後、20年後のあなたを支え続ける「真に長期保有に耐えうる優良な日本株5銘柄」を、セクター(業種)分散の観点から厳選してご紹介しましょう。
今の利回りより「Yield on Cost(買値に対する利回り)」を見よ!
多くの投資家は、銘柄選びの際に「現在の株価に対して、今いくらもらえるか(現在の配当利回り)」しか見ていません。しかし、長期配当投資において最も注目すべき真の指標は、「自分が買った値段に対して、将来いくらもらえるか」。すなわち「Yield on Cost(以下、YoC)」です。
YoCは「自動で金利が上がる預金」
YoCの計算式は非常にシンプルです。
YoC(%)= 現在の1株当たり年間配当金 ÷ 株式取得時の1株単価 × 100
投資した元本は固定されている一方で、配当金は企業の成長や還元方針によって増え続けます。つまり、増配株を長く持つことは、実質的に「年利が勝手に上昇し続ける魔法の預金」を持っているのと同じ状態なのです。
最初は利回り3%台という「普通」のスタートであっても、5年、10年と増配が積み重なれば、あなたの買値に対する利回りは5%、10%……と、驚くような高利回りに育っていきます。
KDDIのデータで見る「時間の魔法」
実際に、24期連続増配を予定している情報通信の雄・KDDIのデータで、その成長性を確認してみましょう。10年前に投資を始めた人と、今から始める人とでは、同じ株を持っていても「景色」が全く違います。
【表】KDDIの10年間(2016年〜2026年予想)YoCシミュレーション
※2015年・2025年の株式分割を考慮した「分割後ベース」で算出
| 項目 | 2016年3月期(実績) | 2026年3月期(予想) | 変化率 / 倍率 |
| 1株当たり年間配当金 | 35.0円 | 80.0円 | 2.28倍 |
| 想定取得単価 (2016年時) | 1,500.0円 | 1,500.0円 (固定) | – |
| Yield on Cost (YoC) | 2.33% | 5.33% | +3.00%ポイント |
| 市場の配当利回り(各時点) | 2.33% | 3.10% | – |
2016年当時に「利回り2.3%程度じゃ物足りないな」と見送った人は多いかもしれません。しかし、当時購入して信じて持ち続けた人の手元には、今や「利回り5.33%」という超優良なキャッシュマシンが残っているのです。
保有期間が長くなるほど、配当金の累計額が投資元本を上回る「元本回収(ペイバック)」の状態に近づきます。ここまで来れば、もはや株価の多少の変動は気にならない、真の意味での「最強の不労所得」が完成します。
絶対に買ってはいけない!高配当「罠銘柄」3つのレッドフラッグ
「利回り5%超え!」「ランキング1位!」――そんな甘い言葉に誘われて投資した直後、減配発表で株価が奈落の底へ……。高配当投資の世界には、こうした「罠(トラップ)」が至る所に仕掛けられています。

資産を守り、右肩上がりの配当金を受け取り続けるためには、投資前に以下の「3つの危険信号(レッドフラッグ)」を必ずチェックする癖をつけましょう。
🚩 レッドフラッグ1:配当性向が「無理」をしている(タコ足配当)
配当性向とは、「企業が稼いだ利益のうち、何%を配当に回しているか」を示す指標です。
- 警戒ライン:配当性向 70%以上
利益のほとんどを配当に回している企業は、将来の成長のための投資や、不況時の備えができていない証拠です。特に注意すべきは、利益が赤字なのに配当を出す「タコ足配当」。自分の足を食べて空腹をしのぐタコのように、企業の資産(純資産)を切り崩している状態であり、長続きするはずがありません。
🚩 レッドフラッグ2:業績が「お天気」任せ(景気敏感株)
海運、鉄鋼、一部の化学セクターなど、世界景気や市況によって業績が激しく上下する企業には、細心の注意が必要です。
市況が空前の絶好調な時に算出された「10%近い超高利回り」に釣られてはいけません。景気が後退局面に移った瞬間、利益とともに配当も「無配」や「大幅減配」へ転落するリスクがあります。この場合、「配当がなくなる」と「株価が暴落する」というダブルパンチを食らい、数年分の配当を吹き飛ばす含み損を抱えることになります。
🚩 レッドフラッグ3:株価の「悲鳴」が聞こえる(見かけの高利回り)
配当利回りの計算式を思い出してください。
配当利回り = 年間配当金 ÷ 株価
配当金が変わらなくても、「株価が下がる」だけで利回りは上昇します。 つまり、利回りが異常に高いのは、市場がその企業の将来に絶望し、株価を叩き売っている結果であるケースが多いのです。
過去1年で株価が30%以上も右肩下がりを続けている銘柄は、市場が「近いうちに悪いニュース(減配や業績悪化)が出る」と予見している警告サインです。そこには、初心者が気づかない「安さの理由」が必ず隠れています。
新NISAで一生持ちたい「累進配当・連続増配」最強5銘柄
特定の業界の不況リスクを相殺するには、異なる性質を持つセクター(業種)を組み合わせ、ポートフォリオを強靭化することが不可欠です。
ここでは、中期経営計画で「累進配当」を明言しているか、あるいは15期以上の「連続増配」という盤石の実績を持つ、まさに日本株の「精鋭」5銘柄をピックアップしました。
① 通信:KDDI (9433) —— 配当投資の「絶対王者」
- 強み: 7,200万契約を超えるauなどのスマートフォン契約から生まれる「継続課金(サブスク)」モデル。景気が悪くてもスマホを解約する人はおらず、毎月安定したキャッシュが自動的に入ってくる最強のインフラ事業です。
- プライド: 2026年3月期において24期連続増配を達成する見込み。20年以上、一度も減配をせず右肩上がりを続けてきた実績は、もはや「増配は企業のアイデンティティ」といっても過言ではありません。
② 総合商社:三菱商事 (8058) —— 累進配当の「先駆者」
- 強み: 天然ガス、銅、食品、産業インフラなど、世界中のあらゆる事業に投資。この多様なポートフォリオが、特定の市況悪化をカバーする「究極のリスク分散」を実現しています。
- プライド: 業績が市況に左右されやすい商社の宿命を克服するため、日本企業でいち早く「累進配当(減配せず、維持または増配する)」を導入。利益が多少減っても配当は維持・増配するという強烈な意志を株主に示しています。
③ メガバンク:三菱UFJフィナンシャル・グループ (8306) —— 金利上昇の「覇者」
- 強み: 国内最大の預金基盤とグローバルな金融ネットワークを誇ります。長らく続いたマイナス金利時代が終わり、金利上昇局面に入った現在の日本において、貸出利ざやの拡大による「利益増」の最大の恩恵を受けます。
- プライド: 「配当性向40%以上」を宣言。かつての保守的な姿勢を捨て、世界水準の株主還元企業へと変貌を遂げました。
④ リース:三菱HCキャピタル (8593) —— 日本の「配当貴族」
- 強み: 航空機、鉄道車両、不動産など世界各地で多様なアセットを保有。一度契約を結べば長期間安定した賃料収入が入る「ストック型ビジネス」の典型です。
- プライド: 27期連続増配という、日本株の中でも突出した記録を持ちます。ITバブル崩壊、リーマンショック、コロナ禍といった未曾有の危機をすべて「増配」で乗り越えてきた、信頼の塊のような銘柄です。
⑤ 保険:東京海上ホールディングス (8766) —— グローバルな「リスク管理者」
- 強み: 利益の約半分を海外事業で稼ぎ出すグローバル企業。世界各地に事業を分散することで、日本国内の巨大自然災害リスクを分散し、安定した収益を維持しています。
- プライド: 「原則として減配しない」という累進的配当を明言。予測可能な配当を提供することを経営の最優先事項の一つに掲げています。
【保存版】最強5銘柄の比較まとめ表(2026年3月期予想ベース)
読者の皆様がポートフォリオを考える際の参考にしてください。この5社を組み合わせるだけで、強力な分散と増配の恩恵を同時に受けられます。
| 銘柄名 (コード) | セクター | 予想配当利回り | 連続増配年数 / 配当方針 | 配当性向 |
| KDDI (9433) | 情報通信 | 3.10% | 24期 / 持続的な増配 | 約43% |
| 三菱商事 (8058) | 総合商社 | 2.20% | 累進配当の導入 | 約40% |
| 三菱UFJ FG (8306) | メガバンク | 3.0% | 総還元性向を50% | 50%以上 |
| 三菱HCキャピタル (8593) | リース | 3.6% | 27期 / 連続増配維持 | 40%以上 |
| 東京海上HD (8766) | 保険 | 3.5% | 累進的配当を明言 | 約50% |
「時間」を味方につける者だけが、配当投資の勝者になる
投資初心者はどうしても「今日、目の前でもらえる高い配当」に心を奪われがちです。しかし、配当投資の世界における真の勝者は、「5年後、10年後に大きく育っている配当」を静かに狙っています。
たとえ現在の利回りが3%であっても、毎年10%の増配を続ける企業であれば、約7年で配当額は2倍になり、あなたの買値に対する利回り(YoC)も2倍へと跳ね上がります。この「時間の経過」を味方につけ、複利の魔法を最大化することこそが、インカムゲイン投資の本質です。
経営陣が「累進配当」や「連続増配」を明文化している企業は、たとえ景気後退の苦境に立たされたとしても、株主の期待を裏切らないための努力を惜しみません。それは単なる数字の約束ではなく、企業としての「プライド」の証明でもあります。
新NISAという非課税の「最強の盾」を持ち、日本を代表する優良株という「研ぎ澄まされた剣」。この装備さえ整えば、市場の荒波を恐れる必要はありません。
まずは1単元、あるいは「ミニ株」や「S株」を使って1株からでも構いません。あなたを一生支えてくれる、自分だけの「配当金製造マシン」を作り始めてみませんか? 10年後のあなたは、きっと今の決断に感謝しているはずです。
(※投資は自己責任でお願いいたします。株価や配当利回りは執筆時点のデータを基にしており、将来の成果を保証するものではありません。)