【累進配当】減配リスクを最小限に抑える銘柄選定3つの基準

「累進配当を掲げているから安心」……そう思って買った銘柄で大損していませんか? 2024年のあおぞら銀行の例が示す通り、「公約」は業績悪化の前では無力です。 

本記事では、看板倒れの累進配当を見抜き、一生持ち続けられる「真の鉄壁銘柄」を数字で選別する3つの基準を解説します。

まず、早速3つの基準をまとめてご紹介します:

  1. 営業CFが10年連続で黒字であり、配当支払額の数倍の現金を抱えているか。
  2. 配当性向が30〜50%の「余裕」を持ち、DOEという客観的な指標で補完されているか。
  3. 不況下でも顧客が離れないストック型の事業構造と、高い利益率維持できているか。

累進配当の現状:加速する「還元競争」の正体

現在、日本市場では配当方針を刷新する企業が急増しています。2024年下半期に方針変更を開示した企業は123社に達し、これは2009年以降の同時期として最多の社数です。

特に「累進配当」の導入件数は顕著な伸びを見せています。2023年上半期にはわずか7社だった導入企業が、2024年下半期には33社へと、1年半で約5倍にまで膨れ上がりました。 東証の「PBR1倍割れ改善要請」などを背景に、企業側は株主還元を強化せざるを得ない状況に置かれているといえます。

投資家はこの流れを歓迎しており、増配を伴う方針変更が行われた場合、株価がTOPIXを大幅に上回るケースも多く見られます。しかし、ここで冷静に考える必要があります。「この公約を掲げた企業のすべてが、10年後、20年後も今と同じ利益を維持できる保証はどこにあるのか」という点です。

安易な累進配当の導入は、将来の業績悪化時に自らの首を絞める「諸刃の剣」にもなりかねません。配当利回りという表面的な数字のみに目を奪われるのは、投資初心者が行う重大なミスです。我々投資家に求められるのは、その支払いを支える「キャッシュの創出力」と「事業構造の優位性」、すなわち「出口(財務基盤)」の強固さを検証することにあります。

基準1:営業キャッシュフローの継続性と「現金余力」

累進配当の持続性を測る上で、最初にして最大のフィルターとなるのが「営業キャッシュフロー(CF)」です。損益計算書上の「利益」は、会計上の判断によってある程度の調整が可能ですが、キャッシュフロー計算書に記載される「現金」の動きは、企業の実態を映し出す鏡であり、嘘をつくことができません。

なぜ利益ではなく「現金」が重要なのか

企業の倒産は利益がなくなった時ではなく、支払うべき「現金」がなくなった時に起こります。配当も同様です。どんなに会計上の利益が出ていても、その利益が帳簿上の売掛金として眠っているだけであれば、株主に現金を配ることは物理的に不可能です。したがって、本業で安定的に現金を創出し続けているかどうかが、累進配当の生命線となります。

【合格基準】過去10年間、営業CFが一度も赤字に転じていないこと

10年という期間には、パンデミックや原材料高騰など、複数の経済危機が含まれます。これらを乗り越え、一度も現金の創出力(稼ぐ力)を失わなかった事実は、その企業のビジネスモデルが極めて強靭であることを証明します。

「現金余力」を可視化する指標

営業CFが黒字であることに加え、その「厚み」も定量的に評価する必要があります。ここで重視すべきは、手元のキャッシュ(現預金+短期有価証券)が、年間の配当支払額の何倍あるかという「配当支払余力」です。

  • 合格ライン:配当支払額の3〜5倍以上 この水準を超えていれば、万が一業績が悪化して1年間の営業CFがストップしても、内部留保を切り崩して数年間は配当を維持できる「体力」があるといえます。

※リース業などは事業構造上、拡大期に営業CFがマイナスになることがありますが、これは将来の収益源確保(貸付金の増加)による前向きなものです。一般的な事業会社においては、営業CFの安定性こそが累進配当という公約を支える物理的な基盤となります。

参考リンク:日本経済新聞:バランスシートで企業の「健康」と「利益の種」見抜く 投資に役立つバランスシート読解術(1)(2025年10月1日)

基準2:配当性向の「天井」と「余裕度」の推移

第二の基準は、算出された利益のうち、どれだけを配当に回しているかを示す「配当性向」の管理状況です。累進配当を掲げる企業が、その公約を守るために「無理」をしていないかを監視するための重要な指標となります。

配当性向30〜50%という「安全圏」

投資家にとって高い配当性向は一見魅力的に映りますが、累進配当においては、高すぎる配当性向は「将来の減配リスク」と表裏一体です。

【合格基準】配当性向が30%〜50%の範囲で推移していること

この範囲が「鉄壁」とされる理由は、以下のシミュレーションでも証明できます。

  • 配当性向30%の企業: 利益が半分(50%減)になっても、配当額を維持した際の配当性向は60%に上昇するだけで済みます。これなら「累進配当の継続」は十分に可能です。
  • 配当性向80%の企業: 利益がわずか20%減少しただけで、配当額が利益を上回る「タコ足配当」の状態に陥ります。

現在の配当利回りが高くても、配当性向がすでに「天井」に近い銘柄は、累進配当の持続性が極めて低いと判断すべきです。

DOE(自己資本配当率)の導入と評価

近年、日本企業の間で急速に普及している「DOE(自己資本配当率)」という指標は、累進配当の信頼性を補完する強力なツールです。DOEは、単年度の利益ではなく、過去の蓄積である「自己資本」に対して何%の配当を出すかを決める指標です。

DOEを採用する最大のメリットは、配当額が単年度の利益の変動から切り離される点にあります。赤字を出して自己資本を毀損しない限り、配当額は構造的に「維持」または「右肩上がり」になりやすいためです。

2024年下半期に配当方針を刷新した企業の多くが、このDOEを新たに導入しています。「累進配当」という言葉に加え、「DOE 3%以上」といった具体的な制度的裏付けを持つ企業は、投資家に対してより強いコミットメントを示しているといえます

参考リンク:日本経済新聞:配当性向にDOE 知っておきたい配当投資の基礎知識 ここからの配当株戦略戦略(下)(2022年2月12日)

基準3:事業構造の「景気耐性(ディフェンシブ性)」

財務指標がどれほど優れていても、その数字を生み出すビジネスモデルそのものが「砂上の楼閣」であっては意味がありません。第三の基準は、不況下でも顧客がサービスを利用し続け、利益が削られない「構造」を持っているかどうかです。

ストック型ビジネスと高いスイッチングコスト

累進配当の継続に最も適しているのは、売上の多くが「ストック型(継続課金)」で構成されている企業です。

  • 通信・公共インフラ: 生活必需品であり、景気後退を理由に解約されるリスクが極めて低い。
  • IT保守・ソフトウェア(SaaS): 基幹システムなどは入れ替えコスト(スイッチングコスト)が膨大で、不況時でも継続利用される。
  • 保守・消耗品: エレベーターのメンテナンスや医療用消耗品など、稼働が続く限り安定収益を生む。

これらに共通するのは、「景気が悪くても、顧客が支払いを止めにくい」という特性です。

これに対し、鉄鋼や海運などの「景気敏感(シクリカル)産業」は、好況時には莫大な利益を上げますが、不況時には需要が蒸発します。こうした企業が累進配当を維持するには、不況時にキャッシュを吐き出し続ける必要があり、長期的な資本効率が悪化するリスクを孕んでいます。

【合格基準】営業利益が過去10年、大幅な赤字(または激減)を経験していないこと

営業利益率と価格決定権

また、営業利益率の高さは、その企業が持つ「堀(Economic Moat)」の深さを象徴します。高い利益率は、原材料価格の高騰を顧客に転嫁できる「価格決定権(プライシング・パワー)」の裏返しです。インフレ局面においても利益率を維持できる企業こそが、真の意味で累進配当を完遂できる「強者のビジネス」を営んでいるといえます。

実践編:基準を体現する銘柄「三菱HCキャピタル」の徹底分析

これまで解説した3つの基準を、極めて高い次元で満たしている代表的な銘柄が、三菱HCキャピタル(8593)です。同社は三菱UFJグループと日立グループのリース会社が統合して誕生し、その還元姿勢は日本市場でもトップクラスの評価を得ています。

26期連続増配の実績と背景

三菱HCキャピタルは、2025年3月期に「26期連続増配」という驚異的な記録を達成しました。2026年3月期も年間40円への増配(27期連続)を予想しており、その姿勢は盤石です。

決算期1株当たり配当金(円)前期比増配率
2021/325.5
2022/328.0+2.5+9.8%
2023/331.0+3.0+10.7%
2024/337.0+4.0+19.3%
2025/3 40.0+3.0+8.1%
2026/3(予)45.0+5.0+12.5%

財務健全性と制度的余裕の検証

同社の財務データを「鉄壁基準」に照らし合わせると、その堅牢性が浮き彫りになります。

  • 現金余力: 2025年3月末時点の現預金は約3,134億円。年間の配当支払総額(約561億円)に対し、現預金だけで約5.6年分、投資有価証券を含めれば20年分以上の支払能力を保有しています。
  • 配当性向の安定: 2025年3月期は42.9%、来期予想も42.5%と、基準である「30〜50%」のど真ん中に収まっています。
  • DOEの推移: DOEは約3.3%で推移しており、自己資本の蓄積に連動して配当が自動的に積み上がる「仕組み」が完成しています。

事業構造の多角化と耐性

同社の強みは、事業ポートフォリオの圧倒的な広さにあります。航空機、海運コンテナ、物流機器、環境エネルギーなど、グローバルかつ多様な資産(アセット)を保有しています。

特定の産業が不況に陥っても、他のセグメントがカバーする「分散の効いた構造」があるからこそ、四半世紀にわたる連続増配が可能となっているのです。

参考リンク: 三菱HCキャピタル:配当情報(公式IR)

累進配当が破綻する瞬間(あおぞら銀行の教訓)

累進配当という方針がいかに脆弱になり得るかを知るために、「あおぞら銀行(8304)」の事例を分析することは有益です。同社はかつて高い配当利回りと安定的な還元を誇っていましたが、2024年3月期において事実上の無配転落という事態を招きました。

なぜ公約を維持できなかったのか

あおぞら銀行の事例には、投資家が反面教師とすべき教訓が詰まっています。

  1. 一極集中したリスクの顕在化: 同社は米国を中心とした海外不動産(特にオフィス)融資に注力していました。米国の金利上昇に伴う市況悪化により多額の損失を計上。これは基準3で述べた「景気耐性」の欠如に相当します。
  2. 利益の消失: 巨額の引当金計上により、会計上の利益は赤字に転落しました。配当の原資となる利益そのものが消えてしまったのです。
  3. 規制による制約: 銀行業において、自己資本の維持は配当よりも優先されます。赤字によって資本が毀損するなか、累進的な還元を継続する余地は完全に失われました。

この事例から学べるのは、「特定のセクターやリスクに依存した収益構造を持つ企業は、そのリスクが顕在化した瞬間に公約を投げ出さざるを得ない」という冷徹な事実です。

どんなに経営陣が「安定」を謳っていても、基準1で述べた「営業CFの安定性」と、基準3で述べた「事業の分散と耐性」という裏付けがなければ、累進配当はただの努力目標に過ぎないことを、この事例は証明しています。

参考リンク: 日本経済新聞:あおぞら銀行株価3年ぶり安値圏 「無配」で個人失望売り(2024年2月6日)

結論:「看板」を疑い「数字の裏付け」を信じよう

累進配当は、投資家にとって「夢の不労所得」を約束するように見える魅力的な言葉です。しかし、現在の日本株市場において、累進配当はすでに「差別化の手段」から「当たり前の装備」へと変わりつつあります。

多くの企業がこの方針を掲げるようになった今こそ、私たちは「どの累進配当が本物で、どれが偽物か」を見極める選別眼を持たなければなりません。

本記事で提示した3つの基準は、その選別を行うための強力なフィルターです。

三菱HCキャピタルのように、これらを全て満たし、四半世紀にわたって実績で証明し続けている銘柄は、真に信頼に値します。一方で、言葉だけの累進配当を掲げ、その裏で財務が疲弊している銘柄は、次の景気後退局面で「あおぞら銀行」の二の舞になるリスクを秘めています。

投資において最も恐ろしいのは、変化を見逃すことではなく、根拠のない約束を信じることです。累進配当という甘い言葉に酔いしれることなく、キャッシュフロー、配当性向、そしてビジネスモデルの深淵までを、冷徹な数字の裏付けを持って検証し続けること。

それこそが、減配リスクを最小限に抑え、強固な配当ポートフォリオを築き上げる唯一の道なのです。

※株の取引はすべて自己責任でお願いいたします。本記事は特定の銘柄を推奨するものではなく、情報提供を目的としたものです。投資判断はご自身の責任で行ってください。