米国の原子力回帰を支える「日の丸」技術:三菱重工・日立が拓くAI時代の新戦略―原子力シリーズ②

2026年現在、世界のエネルギー情勢は、これまでの「脱炭素」という環境文脈に「産業競争力」という新たな軸が加わり、全く異なる様相を呈しています。その最大の原動力は、人工知能(AI)の爆発的普及に伴うデータセンターの電力需要急増と、カーボンニュートラルという二律背反の課題に対する、現実的な解としての「原子力再評価」です。

Amazon、Google、Microsoft、Metaといったビッグテック各社は、安定したクリーンエネルギーを「24時間365日」確保するため、原子力への巨額投資に舵を切りました。しかし、ここで世界が直面したのは、「高度な原子炉を設計・製造し、実際に動かせる企業は、世界でも極めて限定的である」という厳しい現実です。

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そこで白羽の矢が立ったのが、日本の三菱重工業(7011)日立製作所(6501)です。

かつては「斜陽産業」とも揶揄された両社の原子力事業は、いまや単なる機器サプライヤーの域を脱し、次世代エネルギー市場の覇権を握る「プラットフォーマー」へと変貌を遂げました。なぜ世界は日本を頼るのか。そして、その「受注の爆発」は投資家にどのような景色を見せてくれるのか。2026年現在の、日本重電大手の「真の逆襲」を深掘りします。

三菱重工業(7011)——「原子力フラッグシップ」の全方位戦略

三菱重工は、国内インフラの更新需要と海外の爆発的な成長市場の両方を手中に収める「全方位戦略」を展開しています。2026年3月期のエネルギーセグメントは、もはや同社の収益の柱どころか、世界最強の「キャッシュカウ(稼ぎ頭)」へと変貌しました。

■ 「SRZ-1200」と「SMR」:国内・海外の二段構え

同社の強みは、大型炉と小型炉の両方で世界トップクラスの技術を保持している点にあります。

  • 国内の守り:SRZ-1200(革新軽水炉) 福島第一原発の教訓を反映した、安全性と出力(120万kW級)を両立させた「2030年代の日本の主力電源」。基本設計を完了し、国内リプレース需要の独占を狙っています。
  • 海外の攻め:30万kW級SMR(小型モジュール炉) データセンター直結や水素製造など、高い機動性が求められる産業需要に対し、工場生産可能なSMRの開発を加速させています。

■ ビル・ゲイツとの同盟と、Meta(メタ)との巨大契約

特筆すべきは、米テラパワー(ビル・ゲイツ氏設立)との「鉄の同盟」です。三菱重工は、同社の次世代高速炉「Natrium」において、日本が長年培ったナトリウム冷却技術を武器に、「マスター・マニュファクチャラー(主製造者)」としての地位を完全に固めました。

さらに2026年1月、投資家を驚かせたのがMeta(旧Facebook)との巨大プロジェクトです。

  • 契約規模: 最大8基のNatrium炉開発支援および電力購入。計2.8GW(原発約3基分)という未曾有の規模。
  • 三菱重工の役割: このプロジェクトの主要コンポーネント供給を独占。

これにより、同社の原子力関連を含む受注残高は11.5兆円(2025年実績比10%増)という異次元の水準へと押し上げられました。同社にとって原子力はもはや「リスク」ではなく、数十年の収益を保証する「確約された成長」へとその姿を変えています。

日立製作所(6501)——デジタルとSMRの融合で北米を制圧

日立製作所は、米GEとの合弁会社「GE日立・ニュークリアエナジー(GEH)」を軸に、次世代原子炉SMR(小型モジュール炉)の商用化レースで世界の最前線を走っています。

■ BWRX-300の躍進:「世界標準」への最短距離

日立の主力SMR「BWRX-300」は、西側諸国で最も商用化に近い「現実的な解」です。

  • カナダ・ダーリントンの衝撃: 2025年5月に建設が開始されたカナダのダーリントン原子力発電所向けプロジェクトでは、2026年現在、日立が製造する中核部品の納入が本格化しています。これは「SMRの社会実装」が、もはや計画ではなく、収益を生む実フェーズに入ったことを意味します。

■ 原子力×Lumada:仮想空間で発電所を動かす「原子力メタバース」

日立の真の強みは、ハードウェアの製造だけではありません。独自プラットフォーム「Lumada(ルマーダ)」を通じたデジタル技術と現場技術(OT)の高度な融合にあります。

  • 高精度デジタル・ツイン: 仮想空間上に発電所を完全に再現。現場作業をシミュレートすることで、これまでの原発建設の宿命だった工期遅延を劇的に抑制し、高効率なメンテナンスを実現しています。
  • 生成AIによる保守支援: 過去数十年分の膨大な記録を学習したAIが、不具合発生時に最適な対処法を瞬時に提案。熟練技術者のノウハウをデジタル化し、世界中の拠点で均質な運用を可能にしています。

■ 唯一無二の「垂直統合」:AI時代のインフラを独占する

日立は、エネルギーの「源泉(原子力)」だけでなく、それを届ける「血管(送配電グリッド)」、そして全体を制御する「脳(デジタル)」をすべて自社で提供できる、世界でも唯一無二の企業体です。

2026年、同社は米国での変圧器生産拠点拡大に10億ドル超(約1,500億円)を投じるなど、グリッド部門も爆発的な成長を見せています。「発電して、運び、制御する」。AI時代に不可欠なインフラのバリューチェーンを丸ごと掌握した日立にとって、原子力はその巨大なビジネスモデルの最も強力な「エンジン」となっています。

不可欠な「日本連合」のサプライチェーン

2026年現在、世界の原子力産業が直面する最大の課題は、設計図ではなく「物理的な部品」の供給不足です。この致命的なボトルネックを握っているのが、他でもない日本企業によるサプライチェーンです。

日本製鋼所(5631):「圧力容器」の番人

原子炉の心臓部である巨大な圧力容器を、つなぎ目のない「一体成形」で製造できる超大型プレス機を持つ企業は、世界でも片手で数えるほどしかありません。

  • 驚異のシェア80%: 日本製鋼所(JSW)は、この大型鋳鍛鋼部品において、世界シェアの約8割を独占しています。
  • 2027年まで「予約済み」: 従来型の大型炉に加え、SMR(小型モジュール炉)の乱立により、同社の室蘭製作所のラインは2027年以降まで予約で埋まるという、空前のバックログを抱えています。SMR時代において、JSWの部品供給を受けられるかどうかが、プロジェクトの成否を分ける死活問題となっています。

■ 脱ロシアの鍵:次世代燃料「HALEU」への貢献

次世代炉の稼働に不可欠な高品位低濃縮ウラン「HALEU」は、これまでロシアが供給網を独占してきました。しかし、2026年の地政学情勢下、西側諸国にとって「脱ロシア」は絶対命題です。

「日本の技術が止まれば、世界の原発建設が止まる」。2026年の株式市場は、この事実を「日本株の再評価」という形で強烈に織り込み始めています。

国策が後押しする「原子カルネサンス」の収益性

2026年、日本の原子力産業は、かつての「お荷物」から、国策によって収益性が保証された「成長のエンジン」へと生まれ変わりました。その背景には、政府による異次元の支援と、受注の「質的変化」があります。

■ GX経済移行債:国が負担する「未来への研究開発」

日本政府が推進するGX(グリーン・トランスフォーメーション)政策は、重電大手の研究開発コストを劇的に押し下げています。

  • 2026年度の巨額補助金:
    • 三菱重工: 革新軽水炉「SRZ-1200」の詳細設計に対し、約950億円を交付。
    • 日立製作所: SMR(小型モジュール炉)の国内導入モデル構築に、約420億円を投入。
  • 投資家への意味: 本来、企業が自己資金で行うべき巨額の先行投資を国が肩代わりすることで、開発失敗のリスクを最小限に抑えつつ、成功時のリターンだけを享受できる「非対称な収益構造」が生まれています。
採択企業プロジェクト名予算規模(2026年度)目的・内容
三菱重工革新軽水炉(SRZ-1200)詳細設計実証約950億円2030年代半ばの運転開始に向けた、主要システムの安全性実証。
三菱重工・JAEA高速炉実証炉コンセプト開発(Natrium連携)約550億円米テラパワーとの連携を通じた、ナトリウム冷却高速炉の技術確立。
日立製作所SMR(BWRX-300)国内導入モデル構築約420億円国内規制への適合性調査と、デジタル・ツイン運用の標準化。
日本製鋼所 他原子力サプライチェーン強靭化支援約280億円大型鋳鍛鋼の生産設備更新と、中小サプライヤーの技術承継支援。

■ 受注の質的転換:国内の「維持」から海外の「成長」へ

三菱重工の受注残高が11.5兆円という過去最高水準に達した事実は、単に仕事が増えたこと以上の意味を持ちます。

  • 収益源のシフト: これまでは、既存原発の定期点検や維持管理といった「守り」の収益が中心でした。しかし2026年現在、海外のSMR部品供給や新設プロジェクトといった「攻め」の案件が急増。
  • 海外比率5割の壁を突破: 原子力事業における海外案件比率は5割に迫り、円安メリットを享受しやすい輸出型ビジネスへと変貌を遂げました。

「国の予算で技術を磨き、その技術を世界に売る」。この最強のビジネスモデルが確立されたことが、2026年現在の株価評価の根拠(エビデンス)となっています。

投資家が注目すべき「原子カルネサンス」の行方

2026年3月期の業績予測と市場の評価を俯瞰すると、日本の重電セクターは「過去の常識」では測れないリレーティング(株価再評価)の真っ只中にあります。

■ 2026年3月期:主要2社の市場コンセンサス

アナリストの評価は、三菱重工・日立ともに「強気(アウトパフォーム)」で一致しており、目標株価は現在の水準からさらなる上値を見込んでいます。

項目三菱重工業 (7011)日立製作所 (6501)
コンセンサス目標株価4,330円5,015円
EPS(1株利益)予測84.09円171円
投資判断(5段階評価)4.74.8

■ 2026年後半の「トリガー」を見極める

株価が一段高となるためのマイルストーンは、以下の3つの具体的なイベントに集約されます。

  1. 日立:カナダ・ダーリントン初号機への機器納入(2026年後半) 「絵に描いた餅」と言われがちなSMRが、実際に商用稼働に向けて物理的に動き出す最大の証明となります。納入開始のニュースは、同社の商用化能力に対する不確実性を一掃するでしょう。
  2. 日立:米NRCによるBWRX-300の建設認可(2026年末) 米国での認可下付は、世界的な「SMR標準炉」としての地位を確立することを意味します。これは、北米全域、ひいては欧州市場への展開を加速させる決定的なトリガーとなります。
  3. 三菱重工:テラパワーとの正式なコンポーネント供給契約(2026年中) 数千億円規模の受注上積みが見込まれるこの契約は、同社の「受注残高11.5兆円」という圧倒的な数字をさらに強固にし、中長期的な利益成長の確度を高めます。

「アトム」の掌握がもたらす日本企業の再評価

「日本の技術がなければ、ビッグテックのAI戦略は絵に描いた餅に終わる」——これが2026年のグローバル市場における冷徹な共通認識です。

かつての「原子力=斜陽産業」というイメージは、いまや完全に払拭されました。三菱重工や日立、そして日本製鋼所が握る独占的な供給能力は、AIという「ビット(情報)」の進化を、物理的な「アトム(エネルギー)」の側面から支配する最強のカードとなっています。

これはもはや、一過性の「テーマ株」の範疇(はんちゅう)ではありません。

  1. AIの物理的限界を突破する技術
  2. 国策による盤石な収益下支え
  3. 地政学リスクを逆手に取ったグローバルシェア

これらが三位一体となった、数十年に一度のエネルギー構造転換を捉える「長期成長ストーリー」なのです。私たちは今、日本企業が世界のインフラの「要(かなめ)」として再評価される、歴史的なリレーティングの瞬間に立ち会っています。

(※投資は自己責任でお願いいたします。株価や配当利回りは執筆時点のデータを基にしており、将来の成果を保証するものではありません。)