時価総額より価値のあるビルを持つ会社:実質PBRで探す隠れ資産株

※当記事には広告・プロモーションが含まれます。

PBR(株価純資産倍率)という指標を眺めていて、ときどき引っかかることがあります。同じ「PBR1.2倍」でも、中身がまったく違う会社が並んでいるからです。

特に気になるのが、都心に古くから土地やビルを持っている会社です。数十年前に買った土地が、いまも当時の値段で帳簿に載っています。それが本当なら、会社全体の値段(時価総額)より、持っているビルの価値のほうが高いという状態も起こり得るはずです。

この記事はもともと2026年1月に書いたものですが、当時は数字の裏取りが甘い状態でした。今回、各社の決算短信を自分で開いて、不動産の時価と帳簿価額を1社ずつ確認し直しました

結論から言うと、想像していたより歪みは大きかったです。今日は、その確かめ方と、実際に出てきた数字をそのまま共有します。

なぜ「見えない資産」が生まれるのか

日本の会計ルールでは、土地や建物といった固定資産は、原則として取得したときの価格(取得原価)で計上され続けます。建物は減価償却で価値が減っていきますが、土地は償却しないので、買ったときの値段のまま貸借対照表に残ります。

つまり、1970年代に取得した都心の土地が、いま何倍の価値になっていても、帳簿の上では当時の金額のままです。売却して初めて、差額が利益として表に出てきます。

この「帳簿に載っていない価値」が、いわゆる含み益です。そして自己資本には含み益が反映されていないので、自己資本をもとに計算するPBRも、その分だけ実態より高く見えることになります。

ただし、まったく見えないわけではありません。一定の条件を満たす企業は、「賃貸等不動産関係」という注記で、賃貸用の不動産について「連結貸借対照表計上額(帳簿価額)」と「期末の時価」の両方を開示する義務があります。ここを見れば、含み益はその場で計算できます。

実質PBRの出し方(今回、実際に確認した手順)

私が今回やったのは、次の4ステップだけです。特別なツールは使っていません。

  1. 各社の決算短信または有価証券報告書を開き、注記事項の「賃貸等不動産関係」を探す
  2. そこに並んでいる「連結貸借対照表計上額(期末残高)」と「期末時価」の差を取り、含み益を出す
  3. 含み益の70%を自己資本に足して、修正後の自己資本を出す
  4. 「時価総額 ÷ 修正後の自己資本」で実質PBRを計算する

3つ目の70%という比率は、将来この含み益が実現したときにかかる税金を、ざっくり差し引くための概算です。実際の税率や個別事情によって変わるので、あくまで目安の係数だと考えてください。ここを80%にすれば実質PBRはもう少し下がりますし、60%にすれば上がります。

なお比較の一貫性を保つため、この記事では表面上のPBRも「時価総額 ÷ 自己資本」で自分で計算し直しています。証券会社のサイトに出ているPBRは1株あたりで計算されていて自己株式の扱いが異なるため、数値がわずかにずれることがあります。

有価証券報告書は、金融庁のEDINETで誰でも無料で閲覧できます。決算短信であれば各社のIRページからも見られますし、そちらのほうが手軽です。

例:三菱地所で試してみる

まず、名前の知られた会社で試してみます。三菱地所(8802)の2026年3月期決算短信(2026年5月12日開示)の「賃貸等不動産関係」には、次の数字が並んでいます。

  • 賃貸等不動産:帳簿価額 4兆4,840億円/期末時価 9兆4,943億円
  • 自社使用部分を含む不動産:帳簿価額 5,249億円/期末時価 1兆720億円
  • → 合計の含み益は約5兆5,574億円

同期末の自己資本は2兆6,895億円、8月21日終値3,687円をもとにした時価総額は約4兆4,653億円です。この時点での表面上のPBRは約1.66倍で、数字だけ見れば割高に見えます。

ところが含み益の70%(約3兆8,902億円)を自己資本に足すと、修正後の自己資本は約6兆5,797億円になります。実質PBRは約0.68倍です。表面上の数字と、ずいぶん景色が変わります。

今回の3社を選んだ基準

同じ手順で複数の会社を確認し、次の3つを満たすものを取り上げました。

  1. 決算短信または有価証券報告書の「賃貸等不動産関係」で、時価と帳簿価額の両方が確認できること
  2. 含み益を考慮した実質PBRが、表面上のPBRより大きく低くなること
  3. 直近の本決算で赤字になっていないこと

なお、この記事は高配当株を選ぶ趣旨ではないため、当ブログでいつも使っている「利回り○%以上・減配なし」といった条件は当てはめていません。ただ配当を軸にしているブログではあるので、各社の配当利回りには軽く触れます。

3社の数字を並べる

株価・時価総額・配当利回りは2026年8月21日終値時点です。含み益と自己資本は、各社が開示した直近の本決算の数字を使っています。

銘柄名(コード)表面上のPBR不動産の含み益(確認した決算期)実質PBR(概算)配当利回り
テーオーシー(8841)約0.98倍約1,299億円(2026年3月期末)約0.52倍0.92%
片倉工業(3001)約1.06倍約1,098億円(2025年12月期末)約0.60倍2.03%
住友不動産(8830)約1.26倍約4兆4,593億円(2026年3月期末)約0.56倍1.56%
(参考)三菱地所(8802)約1.66倍約5兆5,574億円(2026年3月期末)約0.68倍1.33%

興味深いのは、4社すべてで含み益の絶対額が時価総額を上回っていることです。テーオーシーは時価総額の約1.28倍、片倉工業は約1.06倍、住友不動産は約1.43倍、三菱地所は約1.24倍の含み益を抱えている計算になります。

各社の中身を見る

テーオーシー(8841)― 五反田のTOCビルを持つ会社

五反田の大型複合ビル「TOCビル」と、浅草の「ROX」を運営する不動産会社です。事業は東京都内の賃貸オフィス・商業施設に集中しています。TOCビルは2024年3月に一度閉館し、耐震補強などのリニューアル工事と並行して2024年9月から順次営業を再開しました。

実質PBRの計算根拠:2026年3月期決算短信(2026年5月12日開示)の「賃貸等不動産関係」によると、期末の帳簿価額は591億円、期末時価は1,891億円で、含み益は約1,299億円です。同期末の自己資本は1,041億円、時価総額は約1,017億円(終値1,084円)。表面上のPBRは約0.98倍ですが、含み益の70%を加えると実質PBRは約0.52倍になります。

2026年3月期の業績は、売上高151億円(前期比15.2%増)、営業利益24億円(同73.6%増)、純利益23億円(同29.9%増)と回復しています。自己資本比率は85.2%で、借入依存度はかなり低い会社です。

配当の状況:年間配当は10円で、配当利回りは0.92%。資産の大きさに対して、配当はまだ相当に控えめな水準です。

リスク・懸念点:第一に、TOCビルの建て替え計画には実施設計などの支出がすでに発生しており、大型の再開発は工期・費用ともに読みにくいという点があります。第二に、含み益の大半は売却しない限り現金化されず、この会社は物件を売る前提で経営していません。第三に、2025年12月と2026年3月に自社ネットワークへの不正アクセスに関する開示が出ており、事業運営上の不確実性が残っています。

片倉工業(3001)― 製糸業からコクーンシティへ

富岡製糸場で知られる旧・製糸会社です。現在は不動産、医薬品、機械関連(消防自動車)、繊維の4セグメントで構成されていて、収益の柱はさいたま新都心の大型商業施設「コクーンシティ」を中心とする不動産事業です。工場跡地が商業施設に生まれ変わった、という成り立ちの会社になります。

実質PBRの計算根拠:2025年12月期決算短信(2026年2月12日開示)の「賃貸等不動産関係」では、期末の帳簿価額が265億円、期末時価が1,364億円で、含み益は約1,098億円です。同期末の自己資本は976億円、時価総額は約1,040億円(終値2,953円)。表面上のPBRは約1.06倍、実質PBRは約0.60倍となります。

2025年12月期のEPSは180.73円、自己資本比率は63.8%です。決算期が12月なので、次に含み益が更新されるのは2027年2月ごろの決算短信になります。

配当の状況:年間配当60円で利回りは2.03%、2025年12月期の配当性向は33.2%でした。3社のなかでは配当がいちばん実質的に出ています。

リスク・懸念点:一つは、含み益が実質的にコクーンシティという特定の物件群に依存している点です。周辺の競合施設や、さいたま新都心エリアの集客が変われば評価額も動きます。もう一つは、不動産以外のセグメントの収益性で、繊維や機械関連は規模も利益率も限られます。加えて2026年5月には投資有価証券の売却益を特別利益に計上しており、こうした一時的な要因が利益を押し上げる年がある点にも注意が要ります。

住友不動産(8830)― 含み益の絶対額が桁違い

東京都心のオフィスビルを大量に保有する大手デベロッパーです。不動産賃貸・不動産販売・ハウジング・ステップ(仲介)の4部門で構成され、2026年3月期は売上高1兆577億円、営業利益2,991億円、純利益2,125億円で、経常利益は5期連続、純利益は13期連続で過去最高を更新しました。既存ビルの空室率も4.3%(前期末比1.5ポイント改善)まで下がっています。

実質PBRの計算根拠:2026年3月期決算短信(2026年5月8日開示)の「賃貸等不動産関係」では、連結貸借対照表計上額が4兆4,612億円、期末時価が8兆9,205億円。差額の含み益は約4兆4,593億円で、帳簿価額のちょうど倍近い時価がついている計算です。同期末の自己資本は2兆4,707億円、時価総額は約3兆1,253億円(終値3,339円)。表面上のPBRは約1.26倍、実質PBRは約0.56倍になります。

なお同社は2026年1月1日を効力発生日として1株を2株に分割しており、上記の株価はいずれも分割後の水準です。

配当の状況:年間配当52円で利回りは1.56%。業績は絶好調ですが、還元の水準という意味では控えめです。

リスク・懸念点:まず自己資本比率が34.4%で、都心ビルを積み上げるために相応の有利子負債を抱えています。金利が上がる局面では支払利息が重くなり、実際に2026年3月期の営業外損益は支払利息の増加などで前期比67億円悪化しました。次に、含み益はあくまで自社および鑑定による評価額であり、地価や賃料が反転すれば時価そのものが下がります。3社のなかでは含み益の絶対額が最大ですが、その分だけ不動産市況への感応度も高い会社です。

PBRという指標そのものについては、こちらの記事でも扱っています。

PBR1倍割れの高配当株5選:割安に放置された「配当の厚い」銘柄を狙う

含み益は、実現するとは限りません

ここまで数字を並べてきましたが、いちばん大事な前提を最後に書いておきます。含み益は帳簿上の評価であって、現金ではありません。

売却して初めて手元に入ってくるものですし、今回の3社はいずれも、保有物件を売ることを前提に経営していません。むしろ賃貸収益を生む本業の基盤なので、簡単に手放す種類の資産ではないと考えるほうが自然です。

売却したとしても、その全額が株主に回るわけでもありません。税金がかかり、次の物件の取得や借入金の返済に充てられる分もあります。今回70%という係数を置いたのは、そのうちの税負担だけをざっくり見込んだものにすぎません。

たしかに東京証券取引所は2023年3月から上場企業に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請しており、資産効率を意識した動きが出やすい環境ではあります。ただ、それが個別企業の資産売却や還元強化に直結する保証はありません。「含み益があるから、いずれ株価が上がる」とは考えないほうがよいというのが、今回自分で計算してみての実感です。

東証の要請が実際にどう効いているかについては、こちらでも書いています。

【PBR1倍割れ】東証が迫る「資産の解禁」:本気で株価を上げに来る低PBR銘柄3選

まとめ

表面上のPBRが1倍を超えていても、資産の中身を見ると評価が変わる会社があります。今回の4社は、いずれも含み益の絶対額が時価総額を上回っていました。この歪みは、決算短信の注記を1ページ開くだけで確認できます。

一方で、その含み益がいつ、どういう形で株主に届くのかは、まったく別の話です。届かないまま何十年も帳簿の奥に置かれている、というのが、これまでの日本市場でよく起きてきたことでもあります。

それでも、この作業自体はやる価値があると思っています。少なくとも「なぜこの株はこの値段なのか」を自分の言葉で説明できるようになります。お手元の保有銘柄でも、決算短信の「賃貸等不動産関係」を一度開いてみてください。何も書かれていない会社のほうが多いのですが、たまに桁の違う数字が出てきます。

ちなみに私は今回、4社分の注記を読むのに思ったより時間がかかりました。PDFのページ数が多いので、目次から「賃貸等不動産関係」のページ番号を先に確認しておくと早いです。


※本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。データは2026年8月時点の情報に基づいており、株価・財務数値は変動します。含み益の試算は一定の前提に基づく概算であり、実際の数値と異なる場合があります。


著者プロフィール

クアット。90年代生まれ、東海地方出身。20代を世界各国で過ごし、4ヵ国語を操りながら多国籍な環境でキャリアを積む。2017年より投資を開始。現在は日本株・米国株を主力に運用し、アッパーマス層(資産4,000万円以上)に到達。海外での経験から「言葉や感情は揺らぐが、数字だけは嘘をつかない」と確信。趣味の域を超えた銘柄分析を、ポエムや感想を排除した「ロジック重視」の視点で発信中。

📊 この記事で紹介した銘柄をチェックするなら

スクリーニング機能が充実した証券口座で、配当利回り・自己資本比率などの条件検索ができます。

SBI証券のスクリーニングを使ってみる【PR】

楽天証券の銘柄検索で調べる【PR】