2026年1月初頭、世界のハイテク産業に激震が走りました。中国政府が1月6日から、デュアルユース(軍民両用)品目の輸出ライセンス審査を大幅に厳格化したのです 。
この措置により、日本向けのレアアース出荷が停滞し、通関において2週間以上の深刻な遅延が生じる事態となっています 。かつて「安さ」を求めて中国に依存しきっていたサプライチェーンは、今や物理的な遮断というテールリスク(致命的なリスク)に直面しています。
もはや、どんなに安価な原料であっても「届かなければ価値はゼロ」です 。2026年現在、市場の関心は「コスト効率」から、いかなる情勢下でも確実に物資を確保できる「アクセス権」へと完全にシフトしました 。
日本が主導して構築してきた非中国ルート、通称「資源版・真珠の首飾り※」が、単なる理想論や環境配慮の文脈を超え、企業の生存を左右する「実益」へと変わった歴史的な瞬間といえます 。
※この言葉は、中国の「真珠の首飾り」戦略のオマージュです。中国のものは、南シナ海からインド洋、ペルシャ湾に至る海上ルート沿いに港湾や軍事拠点を「真珠」のように連ねて確保し、海上交通路(シーレーン)を支配・保護する地政学的戦略です。本記事では、それに対抗するものとして「資源版・真珠の首飾り」と呼称します。
『資源版・真珠の首飾り』——双日が築いた逆転の防波堤
この「脱中国包囲網」において、名実ともに主役を演じているのが双日(2768)です。同社が築き上げた供給網は、今や日本の製造業を地政学リスクから守る最強の防波堤となっています。
■ 15年前の危機を糧にした「経営の質」
双日が投資家から高く評価されている最大の理由は、その先見の明にあります。2011年のレアアースショック時、多くの企業が右往左往するなか、同社はいち早く中国依存のリスクを察知。当時経営危機に瀕していた豪ライナス社への巨額支援を決断しました。この15年にわたる「忍耐」と「信頼」が、現在の独占的地位を築いたのです。
■ 「マウント・ウェルド 〜 日本」直行便の完成
双日はJOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)と共同で、以下の垂直統合型ルートを完成させました。
- 【採掘】豪州: マウント・ウェルド鉱山(世界屈指の高品位鉱山)
- 【精錬】マレーシア: 分離・精錬拠点(2026年現在、稼働率95%超のフル稼働状態)
- 【供給】日本: 国内メーカーへのダイレクト供給
このルートの核心は、原料の採掘から最終製品への加工まで、中国の干渉を一切受けない「China-Free」の基幹インフラとして完全に独立している点にあります。
■ 重レアアースの解放:中国の聖域を崩す
特筆すべきは、これまで中国が供給を独占し、最大の弱点とされてきたジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)といった「重レアアース」の分離能力です。双日はこれらの日本向け供給の最大65%を確保する契約を締結。ハイテク兵器やEVモーターに不可欠な「命綱」を、自らの手で握ることに成功しました。

■ 収益力:数字が証明する「有事の強さ」
この戦略の正しさは、数字によっても証明されています。
- 2026年3月期 第2四半期決算: 当期純利益は453億円。通期見通しに対する進捗も極めて順調です。
- 配当利回り: 2026年1月時点で3%超を維持し、株主還元への姿勢も盤石。
- 地政学ヘッジ機能: 米国の関税政策などの外部要因による他セクターの不透明感を、資源セクターの堅調な利益(+100億円超え)が補填する「全天候型」の収益構造が明確になっています。
ベトナム・シフト —— 信越化学と三徳が握る『精錬』の主導権
世界第2位のレアアース埋蔵量を誇るベトナムが、2026年の資源勢力図を劇的に塗り替えています。中国が長年「技術的聖域」として独占してきた分離・精錬工程を、日本企業はベトナムの地で再構築することに成功したのです。
■ 信越化学工業(4063):ハイフォン発、磁石の完全垂直統合
信越化学は、ベトナムのハイフォンに年産2,000トンもの生産能力を誇るマグネット工場を構えています。同社の強みは、鉱石の分離精製から磁石の焼き固めまでをベトナム国内、あるいは日本との連携のみで完結させる「物理的回避」の能力にあります。
これは単なる拠点の分散ではありません。中国の輸出規制という壁を物理的に飛び越え、世界中の顧客へ「100% China-Free」の高性能磁石を届けることができる、世界でも稀有な供給能力を意味します。
■ 三徳:インド・ベトナムを結ぶ技術の架け橋
磁石用合金の製造において世界屈指の技術を持つ三徳も、JOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)の強力なバックアップを受け、供給源の多角化を加速させています。インド産レアアースを用いた合金化技術を確立するなど、中国以外の拠点で高度な精錬を行う同社の存在は、2026年の資源鎖国下において代替不可能な価値を放っています。
■ 2026年の真実:『0.1%ルール』がもたらすコストの逆転現象
ここで投資家が注目すべきは、新たに導入された「0.1%域外適用ルール」の影響です。
- 中国の規制: 中国産の技術や原料を微量(0.1%)でも含む製品に対し、中国政府が恣意的に輸出規制をかけられるルールが導入されました。
- コンプライアンス・コスト: 単純な生産コストではベトナム産は中国産より20〜30%割高ですが、この「中国ルール」を回避するためのリスク対策費(コンプライアンス・コスト)を加味すると、トータルではベトナム産の方が安くなるという逆転現象が起きています。
「安価な中国産」が「最もリスクの高い高価な原料」へと変貌した2026年、日本企業のベトナム・シフトは、単なるリスク分散を超えた「経済的勝利」への一歩となり得ます。
国策という最強の『保険』 —— JOGMEC と米国国防総省(DoD)
「脱中国」を掲げるレアアース・プロジェクトの真の強みは、民間企業の努力以上に、日米政府が展開する「国策」という巨大な盾に守られている点にあります。投資家にとって、これは単なる成長ストーリーではなく、国家が元本と需要を保証する「究極の保険」に他なりません。
■ 準公的インフラとしての圧倒的安心感
JOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)は、民間単独では引き受けられない地政学的リスクを「資本」で肩代わりしています。ライナス社への累計数億ドルに及ぶ金融支援や、フランスの精錬プロジェクトへの最大1億1,000万ユーロの投資など、JOGMECの参画は「そのプロジェクトを日本政府が絶対に見捨てない」という強力なクレジット(信用)となっています。
■ 米国国防総省(DoD)が約束する「100%の買い取り」
2025年10月に締結された「日米重要鉱物枠組み」により、ルールは決定的なものとなりました。米国国防総省が調達するミサイルや最新鋭戦闘機に使用される永久磁石は、100%「China-Free(非中国産)」であることが義務付けられたのです。
これにより、日本の技術企業はDoDの戦略的パートナーとして組み込まれました。一般消費財の景気変動に左右されない、軍事予算という「巨大かつ安定した予約注文」を確保したことの意味は極めて大きいと言えます。
■ 『急速対応グループ(RRG)』:操業停止リスクの消滅
日米政府が連携して運用する「急速対応グループ(Rapid Response Group)」の存在も無視できません。これは、中国が供給制限を仕掛けた際に、日米の戦略備蓄を即座に融通し合う仕組みです。
これまで資源株の最大のリスクだった「原料途絶による工場停止」というシナリオは、政府間の相互融通システムによって実質的に無効化されました。
投資判断の再定義 —— 『地政学レジリエンス』を上乗せする
2026年の株式市場では、企業のPER(株価収益率)を評価する際に「地政学レジリエンス(地政学的リスクに対する回復力・耐性)」という新たな変数が導入されています。もはや「安さ」は、それ単体では魅力的な投資指標ではなくなりました。
■ 「チャイナ・フリー」プレミアムの発生
かつては「安い中国産原料」を使いこなすことが利益率を高める正解でした。しかし、中国が資源を外交の武器として常用する2026年において、それは「供給断絶」という致命的なテールリスク(予測困難な破滅的リスク)を常に抱え続けることを意味します。
これに対し、非中国ルートを確立した企業には、以下の2点から強力な「バリュエーション・プレミアム」が付与されています。
- 収益の予見可能性: 中国の政治的意向によって操業が突如止まるリスクがゼロであれば、将来のキャッシュフローに対する不確実性が消え、割引率(WACC:加重平均資本コスト)が低く設定されます。これは理論上、株価がより高く評価されることを意味します。
- 圧倒的な価格決定権: 2026年1月のような規制強化局面(有事)において、代替不可能な供給ルートを持つ企業は、顧客に対して圧倒的な価格決定権を握ります。他社が製品を作れない中で、「供給できること」そのものが莫大な利益を生むのです。
■ 「リレイティング(再評価)」の号砲
双日や信越化学のような企業は、単なる「商社」や「化学メーカー」の枠組みを超え、国家の防衛ラインを担うインフラ企業として再定義されています。
市場平均が地政学リスクへの懸念で停滞する局面においても、こうした銘柄が独自の高いマルチプル(株価倍率)で取引される「リレイティング」が起きているのは、投資家が「有事の際の確実性」に高い対価を払い始めた証左といえるでしょう。
有事の『保険』をポートフォリオに
2026年、日本のレアアース戦略はもはや「脆弱な資源輸入国」のそれではありません。日本は以下の「3段構え」の戦略により、世界で最も強靭な資源安保体制を構築しつつあります。
- 真珠の首飾り: 豪州・ベトナム・日本を結ぶ、中国を介さない多角的な供給網(双日・信越化学)
- 南鳥島開発: 深海に眠る自国資源の掘り起こしによる、究極の自給自足(国策プロジェクト)
- 都市鉱山 2.0: 最新のAIと法規制を武器にした、国内循環型サプライチェーン(住友金属鉱山・DOWA)
■ 生存戦略としての投資
投資家にとって、これらの銘柄への投資は、単なるキャピタルゲインの追求に留まりません。地政学リスクが日常化した激動の時代において、自身のポートフォリオに「有事の保険」を組み込む生存戦略そのものです。
2026年1月6日に起きた中国の輸出規制強化という衝撃は、脱中国がもはや「いつか取り組むべき課題」ではなく、一刻の猶予もない「喫緊の義務」であることを世界に知らしめました。
■ 「資源の門番」への投資
この危機を15年前から予見し、着実に対策を講じてきた双日や信越化学といった「資源の門番」たちは、今後も地政学的な逆風をすべて「追い風」に変え、その企業価値を構造的に高め続けるでしょう。
2026年、資源の定義が書き換わるこの歴史的な転換点において、真の勝者となるのは、この「新時代の資源覇権」をいち早く理解し、行動に移した投資家です。
(※投資は自己責任でお願いいたします。株価や配当利回りは執筆時点のデータを基にしており、将来の成果を保証するものではありません。)