AI経済の「血流」を担う立役者たち:送電網更新が日本企業にもたらす空前の商機―原子力シリーズ③

現在、私たちの経済は大きな転換点を迎えています。AI(人工知能)の爆発的な普及により、データセンターの電力需要が激増。しかし、どれほど最新鋭の原子炉(アトム)を建設したとしても、その電力を運ぶための「送電網(グリッド)」が世界規模で深刻なボトルネックとなっています。

2026年、世界を襲っているのは、新たな発電設備を系統に接続するための「インターコネクション・キュー(接続待ち)」という異常事態です。

  • 米国の危機: 接続待ちのプロジェクトは2.6テラワット(TW)を超え、これは全米の現役発電容量の約2倍に相当します。平均的な待機期間は4年以上(大規模プロジェクトでは8年以上)に及び、Googleなどのビッグテックは「送電の遅れこそがデータセンター拡張の最大の脅威」と警鐘を鳴らしています。
  • 欧州の停滞: 「AI大陸アクションプラン」で需要増を狙うものの、フランクフルト、ロンドン、アムステルダム、パリ、ダブリン(FLAP-D)といった主要ハブでは容量不足により新規プロジェクトの停止・延期が相次いでいます。
  • 2026年の壁: 2026年末までに稼働予定の全米の発電・蓄電容量のうち、実際に接続合意を得られているのはわずか12%に過ぎません。老朽化した既存設備の物理的な限界と、AI需要の急増が「2026年」という節目に衝突し、グリッド投資は「補修」から「抜本的な再構築」へと強制的にシフトさせられています。

AI時代の勝敗は、エネルギーを効率よく、かつ低損失で「運ぶ技術」を握る者が決めるのです。

住友電気工業(5802):世界最高電圧で海を越える「長距離送電の覇者」

「発電所」という心臓が復活しても、電力を運ぶ「血管」が細ければAI経済は麻痺します。送電網更新の主役は、何と言っても「ケーブル」です。中でも住友電気工業は、長距離・大容量送電の切り札である高圧直流送電(HVDC)市場で、世界をリードする圧倒的な地位を築いています。

■ 525kV HVDCケーブル:技術が生んだ「参入障壁」

住友電工の最大の武器は、世界最高電圧である525kV HVDC XLPE絶縁ケーブルの商用化成功にあります。

  • 技術的優位: 従来の油浸ケーブル(OFケーブル)と比べ、動作温度が高く、かつ環境負荷の低いXLPE(架橋ポリエチレン)絶縁を採用。特に「接続部(ジョイント)」の信頼性において、競合他社が容易に追随できない領域に達しています。
  • 高い収益性: この技術的独占が「言い値」に近い価格決定力を生んでおり、エネルギーセグメントの利益率を劇的に押し上げています。

■ 欧州の巨大プロジェクトを次々と「ハック」

現在、欧州では北海の風力発電を南の産業地帯へ運ぶための大規模インフラ投資が加速しています。

  • 主要案件: ドイツの南北送電プロジェクト「Corridor A-Nord」や、英国の「Sea Link」など、国家級の巨大受注(バックログ)を次々と獲得。2026年現在、同社の受注残高はかつてない水準に達しています。

■ 2026年9月、スコットランド新工場という「勝負手」

投資家が最も注目すべきは、英国ニッグ港で建設が進む海底ケーブル工場の稼働開始です。

  • 2026年9月の稼働: 欧州での「地産地消」体制が確立されることで、巨額の物流コストを削減。同時に、インフラの安全保障を重視する欧州当局に対し、「地元の信頼できるサプライヤー」としての地位を盤石にします。
  • 過去最高の業績予想: 2026年3月期は、売上高4.74兆円、EPS(1株利益)は300円と、過去最高水準を更新する見通しです。配当も118円と増配傾向にあり、「インフラの成長」を最も堅実に享受できる銘柄となっています。

日立エナジー日立 6501の子会社):世界最大の変圧器サプライヤー

ケーブルが「血管」なら、発電所からの高電圧をAIデータセンターや家庭で使える電圧へと調整する変圧器(トランス)は、グリッドの「心臓」です。日立製作所のコア事業である日立エナジーは、この分野で世界トップのシェアを誇る、文字通りのグローバル・リーダーです。

■ 受注残高7.5兆円(500億ドル)の衝撃

2026年現在、日立エナジーが抱える受注残高は約500億ドル(約7.5兆円)という異次元の水準に達しています。これは、向こう6年分、つまり2030年代までの収益基盤がすでに「確定」していることを意味します。

  • 世界シェア25%の支配力: 現在、世界中で設置されている変圧器の「4台に1台」は日立製です。この圧倒的なインストールベース(設置実績)は、更新需要やメンテナンス収益においても他社の追随を許さない「堀(モート)」となっています。
  • AIデータセンター特需: AI学習に不可欠な大規模データセンターは、膨大な電力を一地点で消費するため、超大型かつ高信頼性の変圧器を必要とします。2030年までに世界で750台以上の大型変圧器が追加投入されると予測されており、その大部分を日立が供給する見通しです。

■ インド市場での爆発力と「グローバル・サウス」の制圧

特筆すべきは、インド市場における爆発的な成長です。子会社である日立エナジー・インディアの受注残高は、年間売上高の約4.5倍に相当する2,941億ルピー(約5,300億円)を記録。

日立は「原子力(源泉)」×「グリッド(血管)」×「デジタル(脳)」を垂直統合で提供できる世界唯一の企業として、2026年の株式市場では「AIインフラの真の本命」として独歩高の様相を呈しています。

電力の「弁」を支配するパワー半導体(三菱電機・富士電機)

送電網の効率を極限まで高めるには、交流と直流を変換し、電圧を自在に操る「電力の弁」――パワー半導体の進化が不可欠です。2026年、日本の半導体メーカーは、送電ロスを劇的に抑える次世代素材「SiC(炭化ケイ素)」の実装で、世界のインフラ市場を牽引しています。

三菱電機(6503):損失50%削減、熊本新工場が拓く新次元

三菱電機は、データセンターや基幹送電網向けの高電圧パワーモジュールで圧倒的な信頼性を誇ります。

富士電機(6504):独ボッシュとの連合で世界標準を狙う

富士電機は、産業・インフラ向けパワー半導体で培った「現場力」を武器に、グローバル標準の獲得に動いています。

  • ボッシュとの戦略的提携: ドイツのボッシュ社と提携し、インフラ向けの次世代パワーモジュールを共同開発中。2026年には設計の共通化をさらに進め、欧州の送電網更新プロジェクトにおけるデファクト・スタンダード(事実上の業界標準)を狙います。
  • エネルギー効率の守護神: 同社のモジュールは、電圧変換時の発熱を抑えるため、冷却設備の簡素化=データセンターの省エネ化に直結します。これは、1ワットの電力すら無駄にできないAI企業にとって、極めて魅力的な投資判断材料となります。]

次世代グリッドの守護神:超電導とAI制御

2026年、送電網の課題は「物理的な増強」だけで解決されるフェーズを超えました。限られた既存設備から1ワットでも多くの電力を引き出すため、「超電導」と「AI制御」という二つの破壊的技術が社会実装のステージに立っています。

■ 住友電工の「超電導送電」:送電ロスゼロの衝撃

電気抵抗をゼロにする超電導技術において、住友電工は世界で唯一無二のポジションを築いています。

  • 2026年の金字塔: 同社は、超電導送電において「送電効率99.9%以上」という理論的限界に近い数値と、「冷却間隔20km以上」という長距離実証に成功しました。
  • データセンター専用線としての期待: 土地が極めて限られ、かつ「ギガワット級」の超大量電力を必要とする都市近郊のデータセンター群において、従来の銅線では不可能な「大容量・低ロス・省スペース」を実現する超電導ケーブルは、もはや唯一の解決策と目されています。

■ ビッグテックによる「AI系統最適化」

物理インフラをAIで「デジタル制御」し、既存のグリッド能力を最大化する動きも2026年に一気に加速しました。

  • Microsoft: 2026年1月よりAIを用いた系統運用を開始。これまで「数週間」を要していた混雑予測を、わずか「数分」へと短縮しました。これにより、送電網の「空き」をリアルタイムで特定し、接続待ちの電力を即座に流し込むことが可能になっています。
  • Google: 2026年中旬、気象データや電力負荷を高度に予測してグリッドを最適管理するAI製品をローンチ予定
  • 日立(HMAX): 生成AIを活用し、世界中に点在する変圧器などの「予兆保全」を行うソリューションを展開。故障を未然に防ぐことで、AI経済の血流が止まるリスクを最小化しています。
デジタル制御と物理インフラが融合し、世界を繋ぐ送電網の再定義が始まる。@Stock Lab JP

2030年に向けた投資アクションプラン

2026年は、投資家にとって「AI革命の物理的基盤」を仕込む最後の、そして絶好のタイミングです。発電(アトム)と送電(グリッド)が融合し、強固な収益を生み出すフェーズがいよいよ始まります。

■ 注目銘柄の財務指標と株主還元:住友電気工業(5802)

送電網更新の最大の受益者である住友電工は、インフラ銘柄とは思えないほどの高い成長性と還元姿勢を見せています。

項目2026年3月期予想背景・要因
売上高約4兆7,400億円欧州HVDC案件の収益認識が本格化
EPS(1株利益)300円高付加価値ケーブルの独占的利益が寄与
年間配当118円前回予想の100円から大幅増額(増配傾向継続)

■ 2026年後半の重要マイルストーン:投資判断のトリガー

これからの数ヶ月で、市場の潮目が変わる決定的なイベントが控えています。

プロジェクト・イベント予定時期投資家へのインパクト
FERC接続改革(米)施行2026年4月30日米国でのデータセンター接続待ち解消を促す歴史的転換点
スコットランド新工場稼働2026年9月欧州市場の覇権確定。物流コスト減による利益率のさらなる向上
日立エナジー受注再評価2026年末2030年までの受注残7.5兆円の「質」が株価にフル反映される時期

エネルギー覇権の終着点:デジタルとアトムの融合

かつて「重厚長大」と括られていた日本の電機・電線メーカーは、いまやAI経済の心臓部を司る「デジタル・エネルギー・プラットフォーム」へと劇的な変貌を遂げました。

2026年、送電網という「物理的な制約」が世界のデジタル成長を阻む最大の壁として浮き彫りになる中で、住友電工や日立製作所が提供するソリューションは、もはや単なる工業製品ではありません。それは、AIという「デジタル」と、電力という「アトム」を繋ぎ、24時間365日の稼働を保証する代替不可能な国家戦略資産なのです。

2030年のカーボンニュートラル、そしてその先のAI共生社会に向け、これらの企業は「確実性の高い成長」を続ける揺るぎないストーリーを描いています。

  • 住友電工: 圧倒的な受注残とスコットランド工場による欧州制覇。
  • 日立: 7.5兆円のバックログと、NVIDIA・Google等とのデジタル連携によるインフラの知能化。

今、投資家が真に注目すべきは、派手なAIソフトウェアの裏側で、それを物理的に支える「電力の血管」と「制御の脳」を掌握した日本企業の底力です。エネルギーを制する者がAI時代を制す――。2026年の今、その覇権は間違いなくこの「日の丸インフラ連合」の手中にあります。

(※投資は自己責任でお願いいたします。株価や配当利回りは執筆時点のデータを基にしており、将来の成果を保証するものではありません。)