※当記事には広告・プロモーションが含まれます。
「日本には資源がない」。これは私が子どもの頃から刷り込まれてきた前提でした。投資を始めてからも、資源の話になると自動的に商社や海運へ視線が向いていました。
その前提が、少しずつ動いています。2026年2月、南鳥島沖の排他的経済水域(EEZ)で、水深5,569メートルの海底からレアアースを含む泥が実際に船上へ引き揚げられました。試験の主体は内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)と海洋研究開発機構(JAMSTEC)です。
ただし、これは商業生産ではありません。政府が目標に掲げている産業化は2028年度以降で、採算が合うかどうかの検証もこれからです。ここを飛ばして「もう掘れる」と書いてしまうと、話が実態から離れます。
今日は、何がどこまで進んだのかを日付で整理したうえで、この動きを足元で支えている企業を3社見ていきます。
2026年、何がどこまで進んだのか
時系列で並べると、次のようになります。
- 2026年1月12日、地球深部探査船「ちきゅう」が清水港を出航
- 1月17日、南鳥島沖の試験海域に到着
- 1月30日、レアアース泥の回収作業を開始
- 2月1日未明、最初の泥が船上に揚がったことを確認
- 2月2日、内閣府とJAMSTECが試験採取の成功を発表
- 2月15日、清水港へ帰港。以降、泥の成分分析へ
方法はかなり力技です。船から長さ約10メートルの揚泥管を約600本つなぎ、海底まで下ろします。海底に置いた採鉱機で泥を海水と混ぜてスラリー状にし、その管を通して吸い上げる。JAMSTECの発表は、この接続試験が内閣府SIP「海洋安全保障プラットフォームの構築」の一環であることを明記しています。
そして7月24日に公表された分析結果で、中身が分かってきました。回収量は海水を除いて約50トン、採取地点の水深は5,569メートル。含まれるレアアースの総量のうち約54%がイットリウム・ガドリニウム・ジスプロシウムなどの中重レアアースで、有害物質と放射性物質は検出されませんでした。EV用モーター磁石に使われる元素が中心という点が、この資源の性格を決めています。
2022年10月には水深2,470メートルでの揚泥に成功しており、今回はその倍以上の深さで同じことをやってみせた、という位置づけになります。
日米の協力覚書が結ばれました
並行して、外交の側でも動きがありました。2025年10月28日、来日したトランプ大統領と高市首相が、採掘・加工を通じた重要鉱物・レアアースの供給確保に関する枠組み文書を交わしています。
そして2026年3月19日、ワシントンでの日米首脳会談に合わせて、南鳥島周辺海域のレアアース開発に関する協力覚書が締結されました。内容は、レアアースを含む深海鉱物資源開発に関する作業部会を設置し、プロジェクトの情報共有や産業界の連携に取り組むというものです。あわせて重要鉱物のサプライチェーン強化に向けた行動計画が策定され、日本企業が参画する13のプロジェクトが公表されました。
背景にあるのは供給元の偏りです。レアアースは世界の生産量の約7割を中国が占め、日本は2024年時点で63%を中国から調達しています。2026年に入ってからは、中国によるレアアース関連製品の対日輸出制限が続いていました。
ここで政治的な評価をするつもりはありません。ただ、供給元が一国に寄っているという状態が、企業の調達コストと在庫方針に影響するのは事実です。投資家としてはその一点を見ておけば足ります。
ただし、産業化は2028年度以降です
ここが記事のいちばん大事なところなので、はっきり書いておきます。今回起きたのは試験採取の成功であって、商業生産ではありません。
今後の予定は、2027年2月に同じ海域で約1か月の本格採鉱試験。揚げたスラリーを南鳥島へ運んで脱水し、本土に送って分離・精製・製錬のプロセス試験を行います。そのうえで2028年3月までに国産レアアース産業化の総合評価を行う、というのがJAMSTECが示している道筋です。
費用の面でも、日本経済新聞は採掘から精製までに3,400億円規模がかかると報じています。1日あたり350トンの回収能力を実証する計画も、まだ実証していない目標値です。
資源そのものの量については、有望エリア約2,500平方キロメートルで1,600万トンを超える(酸化物換算)という早稲田大学らの推計があります。選鉱によって濃度を高められれば中国の陸上鉱床の20倍相当になるという試験結果も示されていますが、これは研究段階の数字で、商業規模で同じ結果が出ると決まったわけではありません。
つまり、テーマとしては面白いのですが、企業の収益に結びつくまでには時間がかかります。私はこのテーマを、来期の業績を当てにいく対象ではなく、数年単位で進捗を追う対象として見ています。
国策テーマの主役ではなく装備を売る企業に注目する考え方は、こちらでまとめています。
この動きを足元で支える3社
以下の3社は、いずれも公表資料でこのプロジェクトとの関わりを確認できる企業です。ただし受注が確定しているわけではなく、レアアースが業績に占める割合も現時点ではごくわずかという点は先に書いておきます。配当の実績も、正直に言えば安定しているとは言えません。
| 銘柄名(コード) | 役割 | 株価 | 配当利回り | 時価総額 | 配当の安定性 |
|---|---|---|---|---|---|
| 三井海洋開発(6269) | 採泥・揚泥の海洋設備 | 9,385円 | 2.13% | 約6,414億円 | 2022年12月期に無配。その後3期連続増配 |
| 東洋エンジニアリング(6330) | 解泥・採泥機器の設計と製作 | 2,476円 | 1.01% | 約1,457億円 | 2026年3月期は赤字で無配 |
| 三井金属(5706) | 泥からレアアースを精製する技術 | 25,635円 | 1.09% | 約1兆4,720億円 | 2020年3月期に減配。以降は減配なし |
① 三井海洋開発(6269):海に浮かべて動かす設備の会社
【プロジェクトでの役割】海底油田で使う浮体式生産貯蔵積出設備(FPSO)を手がけてきた会社です。東京大学が主導するレアアース泥・マンガンノジュール開発推進コンソーシアムの採泥・揚泥部会に参加しており、洋上で設備を長期間動かし続けるという部分の知見が、そのまま深海採鉱に重なります。本業のFPSOは好調で、2025年12月期は売上高7,171億円、営業利益685億円と過去最高を更新しました。
【配当・財務の状況】1株配当を年度順に並べると、2020年12月期の47.5円から2021年12月期は15円へ減配、2022年12月期は無配になりました。その後は20円、80円、140円と戻し、2026年12月期は200円の予想です。3期連続増配ではありますが、4年前に無配を経験した会社という事実は押さえておくべきだと思います。株式分割・併合は行っていません。自己資本比率は30.5%です。
【リスク・懸念点】①売上の大半はFPSOで、レアアースは現時点で業績にほとんど寄与していません。南鳥島の進捗が遅れても本業は回りますが、逆に言えば材料視されても実利は当分先です。②FPSOは大型案件を長期で回すビジネスのため、資源価格が下落して顧客の投資が止まると、業績と配当が一気に揺れます。2022年の無配は、まさにそのタイプの事業構造から生じています。
② 東洋エンジニアリング(6330):泥をスラリーに変える機器を作った会社
【プロジェクトでの役割】3社のなかで、関わり方がいちばん具体的に公表されています。同社は自社サイトで、JAMSTECからの委託を受けて海底6,000メートルからレアアース泥を回収するシステムの技術開発の一部を担い、粘り気のある泥をスラリー化して揚げるためのサブシー生産システムのうち、解泥・採泥に関する機器の基本設計・詳細設計・製作を担当してきたと説明しています。今回の試験で実際に使われた部分に、この会社の仕事が入っています。
【配当・財務の状況】ここは厳しく書かざるを得ません。1株配当は2019年3月期から2023年3月期まで5期連続で無配、2024年3月期に12円で復配し、2025年3月期は25円。ところが2026年3月期は営業損益が190億円の赤字となり、再び無配になりました。2027年3月期は黒字転換と25円の配当を会社が予想している段階です。自己資本比率は16.7%と、3社で最も薄くなっています。株式については2017年10月1日に5株を1株とする併合を行っており、それ以前の数字は併合後基準に直して比較しています。
【リスク・懸念点】①配当を目的に持てる財務ではありません。プラント建設は一件あたりの規模が大きく、採算が想定を外れると一期でまとめて損失が出ます。2026年3月期がその年でした。②レアアース関連の作業はJAMSTECからの委託であり、産業化された場合に同社が継続して受注できると決まっているわけではありません。テーマとしての話題性と、実際の受注は別のものです。
③ 三井金属(5706):引き揚げた泥を、使える形に変える側
【プロジェクトでの役割】泥を揚げただけでは製品になりません。そこから目的の元素を取り出す精製・製錬の工程が要りますが、ここは日本国内に十分な設備がないと指摘されてきた部分です。同社は2026年2月13日、福岡県大牟田市に約100億円を投じてレアアースなどの研究開発拠点を新設すると発表しました。4月1日付で「九州先端材料開発センター」を設け、2028年度の完成を目指します。鉱石に加えて南鳥島の泥由来のレアアースを精製する技術も対象としています。
【配当・財務の状況】1株配当は2022年3月期から順に110円、140円、140円、180円、245円、2027年3月期予想が280円です。過去10年でさかのぼると2020年3月期に90円から70円への減配が一度ありましたが、それ以降に減配はありません。2026年3月期は営業利益1,309億円、最終利益913億円と好調で、実績配当性向は15.4%と低い水準です。自己資本比率59.1%。2017年10月1日に10株を1株とする株式併合を行っています。
【リスク・懸念点】①2027年3月期の会社予想は営業利益940億円で、前期比28.2%の減益です。同社の利益は銅価格や半導体材料の市況に左右されるため、レアアースの話題とは関係なく業績が振れます。②新拠点の完成は2028年度で、どの元素を対象にするか、事業化後にどこで精製するかは同社自身が「今後検討」としている段階です。南鳥島の泥が実際にこの拠点へ流れてくる保証はありません。
まとめ:泥は上がった。ただ、そこからが長い
2026年に起きたことを、私は3行で理解しています。水深5,569メートルから約50トンの泥が実際に揚がりました。中身の半分以上がEV磁石に使う中重レアアースで、放射性物質は出ませんでした。そして日米が開発協力の覚書を結びました。
いずれも事実です。ただしその先には、2027年2月の本格採鉱試験があり、精製プロセスの検証があり、2028年3月の総合評価を経て、産業化は2028年度以降という段取りが控えています。採算が合うという結論が出るかどうかも、まだ分かりません。
ですので、今回の3社を「レアアース銘柄」として買うつもりは私にはありません。三井海洋開発はFPSOの会社、東洋エンジニアリングはプラントの会社、三井金属は非鉄と半導体材料の会社です。まず本業で評価できるかを見て、南鳥島はそこに乗るかもしれない上積みとして扱う。数年単位の話になるテーマは、そのくらいの距離感がちょうどいいと思っています。
深海レアアースを支える中小型株については、こちらの記事でも紹介しています。
※本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。プロジェクトの進捗や産業化の時期は各機関の公表資料に基づくものであり、今後変更される可能性があります。データは2026年9月時点の情報に基づいており、株価・配当利回りは変動します。
著者プロフィール
クアット。90年代生まれ、東海地方出身。20代を世界各国で過ごし、4ヵ国語を操りながら多国籍な環境でキャリアを積む。2017年より投資を開始。現在は日本株・米国株を主力に運用し、アッパーマス層(資産4,000万円以上)に到達。海外での経験から「言葉や感情は揺らぐが、数字だけは嘘をつかない」と確信。趣味の域を超えた銘柄分析を、ポエムや感想を排除した「ロジック重視」の視点で発信中。