なぜ私は「含み益」を見ないようにしているのか:高配当投資の心の置き方

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「今日も上がった。よし、もう一度確認してみよう——」

証券アプリを何度も開いては、含み益の数字を確認する。株価が上がっていると嬉しくなり、少し下がっただけで「また見ないほうがいいかな」と微妙な気持ちになる。そういう経験、ありませんか?

私もかつて、まったく同じでした。80銘柄超を保有する今も、相場が大きく動いた日は「今の評価額はどうなっているだろう」と気になります。それが人間というものだと思っています。

ただ、今の私はあえて含み益を見ないようにしています

「せっかく増えているのに、なぜ見ないの?」と思われるかもしれません。もちろん、見たからといって損をするわけではありません。ただ、含み益を頻繁に見る習慣は、高配当株投資家にとって思いのほか「判断を狂わせる罠」になることがあります。

今日は、その理由と、私なりの「心の置き方」をお話しします。

含み益は、売るまで存在しない「幻」です

まず基本的な事実から確認しましょう。

含み益は「評価上の利益」であり、売却するまで現実の利益にはなりません。株価が上がって「+100万円」と表示されていても、売らない限りその100万円は手元には来ません。これは投資経験者なら誰もが知っていることです。

しかし高配当株投資家にとって、この「幻」はさらに特殊な意味を持ちます。

含み益を「実現」しようとすれば、株を売ることになります。しかし株を売れば、その銘柄から毎年受け取っていた配当の源泉を失います。「今後も毎年この企業から配当を受け取り続ける」という計画が、利確の瞬間に消えてしまうのです。

つまり高配当株投資家にとって含み益とは、眺めることはできても、手に入れようとすると本来の投資目的を失う、という不思議な性質を持っています。「含み益をどう使うか」ではなく「配当収入をどう積み上げるか」を見ている方が、自分の投資哲学に一致しています。だから私は、最初から含み益をあまり見ないことにしています。

逆に「含み損」が出たときにどう判断するかについては、こちらの記事で5つの基準を解説しています。

含み損の高配当株、売る or 持つ?私が判断する5つの基準

含み益を見ると、人はなぜ判断を誤るのか

行動経済学には、投資判断に深く関わる2つの概念があります。どちらも「なぜ含み益を見ると判断が狂いやすいのか」を説明してくれます。

プロスペクト理論:利益の喜びより損失の恐怖が大きい

プロスペクト理論(ダニエル・カーネマンらが提唱)は、「人は利益の喜びより損失の痛みを約2倍大きく感じる」という理論です。株価が上がった含み益はあくまで「評価上の利益」ですが、人間の心理はそれをリアルな「今持っている資産」として感じます。すると、その評価額が下がることへの恐怖が生まれ始めます。

「+50万円の含み益があるのに、もし下がったら怖い。今のうちに利確しておくべきか……」

こうした感情は、プロスペクト理論が予測する典型的な反応です。本来、売る理由がない銘柄でも、含み益が大きいほど「この利益を失いたくない」という恐怖が強くなり、合理的でない売却判断につながりやすくなります。高配当株投資家にとって、この「感情的な利確」は投資目的(配当の積み上げ)を阻害する大きな敵です。

メンタルアカウンティング:評価額を見るたびに「勘定」が動く

メンタルアカウンティング(心理的会計)は、人が「心の中でお金を別々の勘定に振り分けて管理する」という傾向を指します。評価額を頻繁に確認していると、「今自分は○○万円分の資産を持っている」という認識が強化されます。そしてその数字が変わるたびに「儲かった・損した」という感情が揺れます。

これは配当収入の積み上げという長期投資の目的から意識を遠ざけ、株価という短期的な指標に注意を向けさせてしまいます。「株価が上がっている今日の自分」と「下がっていた昨日の自分」は、配当を受け取る能力という意味では何も変わっていないのに、気持ちだけが大きく揺れるのです。

予測より設計、感情より数字」というStock Labの投資哲学は、まさにこの感情による揺れを排除するためのものです。含み益を毎日見ることは、自分の哲学と矛盾した行動を誘発するリスクがあります。

私が見るのは「評価額」ではなく「配当の入金額」です

では私は代わりに何を見ているのか。答えは単純で、「配当の入金履歴」です。

株価(評価額)は、他人(市場)が決める数字です。景気・金利・政治・世界情勢・市場参加者の感情——あらゆる要素によって毎秒変化します。自分ではコントロールできません。

一方、配当は企業が出す数字です。企業が利益を上げ、株主還元の方針を維持し続ける限り、配当は四半期や半期ごとに着実に入金されます。短期的な株価の乱高下とは関係なく、淡々と積み上がります。金融庁が推奨する長期・積立・分散投資の考え方とも、この「着実に積み上げる」という発想は一致しています。

私は証券アプリを開くとき、「評価損益」の画面ではなく「配当金履歴」の画面を見るようにしています。「今月は○社から配当が入った」「今年の累計配当はここまで来た」——この数字を見ると、投資が着実に前に進んでいる実感が得られます。

含み益を見て「上がった・下がった」に一喜一憂するより、配当の積み上がりを見る方が、精神的な安定を保てます。そして長期投資において精神的な安定は、最大のパフォーマンス要因の一つです。感情的になった投資家は、下落時に売り、上昇時に飛びついてしまいがちです。冷静さを維持できること自体が、長期リターンに大きく影響します。

配当を軸にした長期投資の考え方については、行動ファイナンスでも触れられている「感情と合理性のギャップ」を理解することが、長続きする投資の第一歩だと思っています。

とはいえ、私も人間なので……

ここまで「含み益を見ない」と書いてきましたが、完璧に実践できているかといえば、そうではありません。正直に告白します。

相場が大きく動いた日——日経平均が1,000円以上動いた日、米国株が夜間に急落したというニュースが入ってきた日——は、つい評価額を確認してしまいます。「今どのくらい動いているんだろう」という好奇心は、完全には抑えられません。

でも、それでいいと思っています。

大事なのは「見ない」ことを完璧に貫くことではなく、「見たとしても、それを理由に売買しない」というルールです。「見る」という行動と「売買する」という行動を切り離すだけで、行動経済学が予測する感情的な判断の多くを防ぐことができます。

「見るのは自由、でも見たことを理由に動かない」——このくらいの緩さが、長く続けるコツだと思っています。高配当株投資は10年・20年スパンの活動です。完璧主義より、続けられる仕組みの方が圧倒的に大切です。

私が実際に含み益が出ている銘柄を、それでも売らずに持ち続けた話はこちらで書いています。

東京海上がバークシャーに選ばれた。含み益+42%でも「冷静に持ち続ける」と決めた理由

株価は他人が決める。配当は企業が出す。私は後者を信じる

まとめると、こういうことです。

含み益は売るまで実現しない「幻」であり、高配当株投資家にとって利確は「リターンを得ること」ではなく「配当の源泉を失うこと」を意味します。プロスペクト理論・メンタルアカウンティングが示すように、含み益を頻繁に見ることは感情的な判断ミスを誘発しやすい状況を作り出します。

だから私は評価額を見る代わりに、配当の入金履歴を見ます。株価は他人が決める数字、配当は企業が出す数字。私が信じるのは後者です。

「見る」と「動く」を切り離すことができれば、株価の上下に振り回されずに長期投資を続けることができます。「予測より設計、感情より数字」というStock Labの哲学のメンタル版が、この記事でお伝えしたかったことです。

ちなみに——あなたは今日、証券アプリの評価額を何回確認しましたか?(笑)


※本記事は情報提供および筆者個人の見解を目的としており、特定の投資手法や銘柄を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。データは2026年6月15日時点の情報に基づいています。


クアット。90年代生まれ、東海地方出身。20代を世界各国で過ごし、4ヵ国語を操りながら多国籍な環境でキャリアを積む。2017年より投資を開始。現在は日本株・米国株を主力に運用し、アッパーマス層(資産4,000万円以上)に到達。海外での経験から「言葉や感情は揺らぐが、数字だけは嘘をつかない」と確信。趣味の域を超えた銘柄分析を、ポエムや感想を排除した「ロジック重視」の視点で発信中。

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