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「累進配当」という言葉を、決算資料や株主還元方針で見かけることが増えました。ただ、中期経営計画の説明資料で一度触れただけの会社と、有価証券報告書の配当政策に毎年書いている会社とでは、約束の重さがかなり違います。
この記事では、有価証券報告書に累進配当の方針を明記している中小型株(時価総額3,000億円以下)から、過去10年で一度も減配していない5社を選びました。KDDIや三菱商事のような大型株ではなく、ふだん名前を聞く機会が少ない会社が中心です。宣言の原文、10年分の配当、利回りと財務の数字を並べて確かめます。
「減配しません」と書くのは一行で済みますが、守るのは毎年の決算です。その一行と10年分の数字が合っているかを見ていきます。
累進配当の「宣言」とは:「増配を目指す」との違い
累進配当とは、1株あたりの配当を前の年より減らさず、据え置きか増配だけを選ぶ方針です。「安定配当を基本とする」「増配を目指す」という書き方では、業績が落ちたときに配当を減らす余地が残ります。
この記事では、会社が公式資料で次のどちらかをはっきり書いている場合を「宣言」と数えています。
- 「累進配当」「累進的配当」と明記している
- 「前年度の配当を下限とする」「減配しない」と書いている
一方で、「累進配当を目指す」「累進配当を志向する」のように目標にとどまる書き方や、「中期経営計画の期間中は」のように期限が付いた宣言は、対象から外しました。期限が来たあとも同じ約束が続くとは限らないためです。
また、累進配当は法的な義務ではありません。業績が大きく崩れれば、方針そのものが見直されることもあります。宣言の文言に加えて、過去の配当の実績と財務の余力をあわせて見るのはそのためです。
累進配当の看板が本物かどうかを見分ける基準は、こちらの記事でまとめています。
今回の選定条件
- 有価証券報告書などの公式資料に累進配当を明文化している(期限付き・目標型の表現は除く)
- 時価総額3,000億円以下
- 配当利回り3.0%以上(2026年9月25日終値と会社予想の普通配当で計算。記念配当・特別配当は除く)
- 自己資本比率25%以上
- 直近3期の営業利益のうち2期以上が黒字
- 過去10年(2017年〜2026年の各決算期)と今期予想で、1株あたり配当の減配がない(株式分割は調整、記念配当・特別配当の増減は除く)
6つの条件をすべて満たした会社は74社ありました。この記事では、その中から累進配当の宣言を確認できた時期が早い順に5社を選んでいます。宣言を確認できた時期とは、有価証券報告書などで累進配当の記載を初めて確認できた時期のことで、同じ時期の場合は配当利回りの高い順にしました。宣言してからの年数が長いほど、業績の波をくぐりながら約束を守った実績が積み上がっているためです。
条件を満たした5社の一覧
5社の数字を一覧にします。配当の推移は、10年前(2017年の決算期)→前期(2026年の決算期)→今期の会社予想の順です。
| 銘柄 | 利回り | 配当の推移 | 宣言の確認 |
|---|---|---|---|
| いちご(2337) | 3.83% | 5→11.5→15.5円 | 2017年 |
| スターティアHD(3393) | 4.52% | 9→145→145円 | 2021年 |
| 稲畑産業(8098) | 3.15% | 40→128→143円 | 2021年 |
| オカダアイヨン(6294) | 3.87% | 23→75→76円 | 2022年 |
| ウィルグループ(6089) | 3.76% | 14→44→44円 | 2023年 |
利回りは2026年9月25日終値と会社予想配当による概算です。いちごは2月決算、ほかの4社は3月決算です。スターティアHDの前期145円には記念配当8円が含まれており、普通配当だけで比べると今期予想は8円の増配です。
利回りの数字だけで銘柄を並べたランキングの落とし穴は、こちらの記事で整理しています。
5社の宣言と10年分の配当
いちご(2337):2017年から「減配しない」を続ける不動産会社
いちごは、J-REITなどの運用、今ある不動産に手を加えて価値を高める「心築(しんちく)」、ホテル、太陽光などのクリーンエネルギーを手がける会社です。
2026年5月20日提出の有価証券報告書では、「各年度の1株当たり配当金の下限を前年度1株当たり配当金とし、原則として『減配しない』」と書いています。この「累進的配当政策」は2017年2月期に導入したもので、5社の中でいちばん長く続いています。2026年4月には、DOE(株主資本配当率)の目標を4%以上から5%以上に引き上げました。
配当の推移:2017年2月期の5円から、2019年2月期〜2022年2月期の4年間は7円で据え置き、その後は毎年増えて2026年2月期は11.5円です。2027年2月期の会社予想は15.5円で、10年間に減配は一度もありません。4年続いた据え置きも、「据え置きか増配」という累進配当の約束の範囲内です。
数字:株価405円(2026年9月25日終値)で予想配当利回りは3.83%、時価総額は約1,687億円、自己資本比率は26.6%です。直近3期の営業利益は約130億円、163億円、204億円と、すべて黒字です。
注意点:自己資本比率は条件の25%に近く、2023年2月期の30.4%から3年続けて下がっています。借入を使って不動産を持つ事業のため、金利が上がると利払いの負担が増えやすい点も見ておきたいところです。配当は年1回(2月末の権利)です。
スターティアHD(3393):記念配当を除いても10年減配なし
スターティアホールディングスは、電子ブック作成ソフトなどのWebアプリケーションや、クラウドを中心としたITインフラを企業に提供している会社です。
2026年6月16日提出の有価証券報告書で「累進配当を継続的に実施する」と書き、注記で累進配当を「原則として減配せず、配当維持もしくは増配を行う配当政策」と定義しています。有価証券報告書で累進配当の記載を確認できるのは2021年6月からです。2027年3月期からは、配当の目安を配当性向55%からDOE13%に切り替えました。
配当の推移:2017年3月期の9円から、2026年3月期は145円まで増えました。ただし、2018年3月期に3円、2022年3月期に3円、2024年3月期に11円、2026年3月期に8円の記念配当が含まれています。記念配当を除いた普通配当は、9円→9円→9円→9円→10円→11円→41円→58円→114円→137円と一度も下がっていません。今期予想の145円(中間67円・期末78円)には記念配当の記載がありません。
最終赤字(1株あたり13.25円の損失)だった2021年3月期も、配当は9円から10円に増やしています。
数字:株価3,205円で予想配当利回りは4.52%と5社で最も高く、時価総額は約328億円、自己資本比率は54.0%です。直近3期の営業利益は約23億円、27億円、32億円と増えています。
注意点:記念配当が多い会社なので、合計額だけを見ると2019年3月期のように前年より下がった年があります。この記事では記念配当を除いた普通配当で減配を判定しています。また、DOE13%は株主資本に対してかなり高い水準で、利益が大きく落ちた年には配当の負担が重くなります。
稲畑産業(8098):「前年度実績を下限」と明記した化学品の専門商社
稲畑産業は、情報電子、化学品、生活産業、合成樹脂の4分野で商品の販売や製造を行う専門商社です。子会社は69社あり、海外比率70%以上を目標に掲げています。
2026年6月15日提出の有価証券報告書では、「一株当たりの配当額については前年度実績を下限とし、減配は行わず、継続的に増加させていくことを基本とする」と書き、この方針を「累進配当」と明記しています。有価証券報告書で確認できる最初の記載は2021年6月です。2027年3月期からは、DOE4〜4.5%を目安とすることと、総還元性向50%以上の原則が加わりました。
配当の推移:2017年3月期と2018年3月期は40円で据え置き、その後は毎年増えています。2022年3月期には63円から110円へ大きく引き上げ、2026年3月期は128円、今期予想は143円です。
数字:株価4,535円で予想配当利回りは3.15%、時価総額は約2,436億円、自己資本比率は47.3%です。直近3期の営業利益は約212億円、258億円、262億円です。
注意点:利回りは条件の3.0%に近く、株価が5%ほど上がると条件を下回る水準です。合成樹脂など市況の影響を受けやすい商材が多く、海外での取引も大きいため、為替や海外景気の影響を受けます。
オカダアイヨン(6294):「17期連続増配の予定」の建機アタッチメントメーカー
オカダアイヨンは、油圧ショベルの先に取り付ける圧砕機や油圧ブレーカなど、建設機械のアタッチメントを作っている会社です。米国や欧州にも販売子会社を持っています。
2026年6月16日提出の有価証券報告書では、「中長期の安定成長により、増配を続けていく累進的配当方針といたします」と書き、2027年3月期は「17期連続増配の予定」としています。有価証券報告書で確認できる最初の記載は2022年6月です。2027年3月期からは中間配当も始めます。
配当の推移:2017年3月期の23円から、2026年3月期は75円、今期予想は76円です。2019年3月期の27円には創業80周年の記念配当2円が含まれますが、除いた25円でも前期の24円を上回っています。2024年3月期には38円から70円へ大きく増えました。
数字:株価1,966円で予想配当利回りは3.87%、時価総額は約165億円と5社で最も小さく、自己資本比率は45.2%です。直近3期の営業利益は約27億円、23億円、23億円です。
注意点:営業利益は2024年3月期の約27億円から2年続けて減っており、増配の幅も2025年3月期以降は年1〜4円に縮んでいます。解体や建設の需要、海外での販売の動きに業績が左右されます。
ウィルグループ(6089):4年続けて据え置き、それでも減配はゼロ
ウィルグループは、人材派遣や業務請負、人材紹介などを手がける会社です。国内では家電量販店やコールセンター、工場、介護施設などの現場に人材を送り、海外ではオーストラリアとシンガポールを中心に事業を展開しています。
2026年6月19日提出の有価証券報告書では、「中長期的な利益成長に合わせて増配していく累進配当」とし、注記で「配当は、維持もしくは増配のどちらかとし、減配をしない」と定めています。有価証券報告書で確認できる最初の記載は2023年6月です。
配当の推移:2017年3月期の14円から2023年3月期の44円まで増え、その後は2026年3月期まで44円の据え置きが続いています。今期予想も44円です。2016年12月の株式分割(1株を2株)は調整済みです。
数字:株価1,171円で予想配当利回りは3.76%、時価総額は約271億円、自己資本比率は35.8%です。直近3期の営業利益は約45億円、23億円、33億円と、すべて黒字です。
注意点:2025年3月期は1株利益が50.6円まで下がり、配当44円に対して利益の余裕がほとんどない年がありました。累進配当は「毎年増配する」約束ではないため、据え置きが長く続くこともあります。人材の需要は景気の影響を受けやすい事業です。

まとめ
5社に共通しているのは、有価証券報告書に「減配しない」趣旨をはっきり書き、実際に10年間、1株あたりの配当(記念配当を除く)を一度も下げていないことです。宣言がいちばん古いいちごは2017年から、いちばん新しいウィルグループも2023年から、約束どおり配当を維持か増配しています。
一方で、確かめておきたい点は会社ごとに違います。利回りが条件に近い稲畑産業、自己資本比率が25%に近いいちご、記念配当の多いスターティアHD、利益が伸び悩むオカダアイヨン、据え置きが続くウィルグループと、それぞれに見るべき数字があります。宣言の文言だけで判断せず、配当の推移と財務の数字をあわせて見ておくと、看板と中身のずれに気づきやすくなります。
累進配当銘柄の強みは、下落相場でも配当が守られやすいことです。配当が変わらないまま株価が下がれば利回りは上がるため、長く持つインカム投資家にとっては買い増しを考えるきっかけにもなります。公式資料で宣言している会社ほど、配当を削ったときに市場から受ける評価の落差が大きく、約束を守る動機が強く働きます。
9月に権利が確定する累進配当銘柄を、同じように10年分の配当で確かめた記事はこちらです。
高配当株を何銘柄に分けて持つかは、こちらの記事で整理しています。
万が一、保有する高配当株が減配を発表したときの対処法は、こちらの記事でまとめています。
※本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。宣言の文言は各社の有価証券報告書(2026年5〜6月提出)、配当は各社の有価証券報告書と決算短信に基づく1株あたりの年間配当(株式分割調整後)です。株価・時価総額・配当利回りは2026年9月25日時点(利回りは同日の終値と会社予想配当による概算)、自己資本比率と営業利益は直近の決算期の数値です。方針や予想はその後変更される可能性があります。
著者プロフィール
クアット。90年代生まれ、東海地方出身。20代を世界各国で過ごし、4ヵ国語を操りながら多国籍な環境でキャリアを積む。2017年より投資を開始。現在は日本株・米国株を主力に運用し、アッパーマス層(資産4,000万円以上)に到達。海外での経験から「言葉や感情は揺らぐが、数字だけは嘘をつかない」と確信。趣味の域を超えた銘柄分析を、ポエムや感想を排除した「ロジック重視」の視点で発信中。