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2026年の年明けに、中国が日本向けの輸出管理を強化したというニュースが流れました。対象はデュアルユース品目、つまり民生にも軍事にも使える品目全般で、そのなかにレアアースも含まれています。
私は政治の評価をする立場にはありませんので、ここでは経緯には立ち入りません。ただ、投資家として気になったのは「日本のレアアース調達は、実際どれくらい中国に寄っているのか」という一点でした。調べてみると、寄っていたのは事実ですが、同時に、そこから離れるための作業が10年以上前から少しずつ進んでいたことも分かりました。
豪州から運ぶルート、フランスで精錬するルート、ベトナムと国内で磁石まで作るルート。派手さはありませんが、どれも実際にお金が動いて、工場が建っています。
今日は、この中国以外の調達路を作ろうとしている企業を3社、配当の推移まで一社ずつ確認しながら見ていきます。
2026年に何が起きたのか
時系列で整理します。2026年1月6日、中国商務部が「商務部公告2026年第1号」を出し、日本向けのデュアルユース品目の輸出管理を強化しました。公告は即日施行です。すべてのデュアルユース品目について、日本の軍事ユーザーや軍事用途向けの輸出を禁じ、第三国を経由した移転についても責任を問うという内容でした。
続いて2026年2月24日、中国商務部は公告2026年第11号と第12号で、計40の日本企業・組織をリストに掲載しました。20団体が輸出管理コントロールリスト(デュアルユース品目の輸出禁止)、20団体が注視リストという内訳で、三菱重工業グループ各社や川崎重工業、IHIが含まれています。
実際の数字にも出ています。ジェトロの分析レポートによれば、2026年1〜4月の対日レアアース輸出は7品目合計で前年同期比34%減、月別では3月が前年同月比88%減、4月が82%減という水準まで落ち込みました。
なお、原料が届かない状態がどれくらい続くのかは、この記事を書いている時点でも読めません。分かっているのは、供給元が一国に寄っていると、こういう振れ方をするという事実だけです。
国策テーマの主役ではなく装備を売る企業に注目する考え方は、こちらでまとめています。
豪州・フランス・ベトナムという、もう一つのルート
では、中国以外のルートはどこまでできているのか。3つの流れがあります。
豪州ルート:双日とライナス
いちばん歴史が長いのが豪州です。2011年、JOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)と双日が豪ライナス社へ出融資を行い、軽希土類の供給を確保しました。両者が共同で設立した日豪レアアース(JARE)という会社を通じた枠組みです。
その後、2025年5月、ライナスがマレーシアの拠点で酸化ジスプロシウムの初生産に成功しました。JOGMECの記録によれば、中国以外で重希土類の分離・加工ラインが動くのは世界で初めてとのことです。6月にはテルビウムの分離生産にも成功しています。そして2025年10月30日、双日は豪州由来の重希土類の日本への輸入を開始しました。
さらに2026年3月13日、JAREとライナスは長期供給契約を2038年まで更新しました。日本経済新聞の報道と双日の発表によると、中重希土類の日本向け供給比率は最大65%から最大75%へ引き上げられ、対象品目はジスプロシウムとテルビウムの2品目から、サマリウム・ガドリニウム・イットリウム・ルテチウムを加えた6品目に広がりました。サマリウムは2026年度第1四半期から輸入が始まっています。
フランスルート:岩谷産業とカレマグ
あまり知られていないのがフランスです。JOGMECの発表によれば、JOGMECと岩谷産業が日本に設立した特別目的会社を通じて、フランス・リヨンに拠点を置くレアアース精錬会社カレマグ社へ最大1億1,000万ユーロの出融資を決めました。初回の実行は2025年1月23日です。
カレマグはフランス南西部のラック工業団地に精錬工場を建設中で、2026年末の操業開始を予定しています。JOGMECと岩谷産業は、同社が生産する重希土類の50%について長期供給契約を結んでいます。生産量はジスプロシウムとテルビウムで年間600トン、これは世界の年間生産量の15%程度にあたる規模です。
ベトナムと国内:信越化学の磁石
原料が手に入っても、磁石まで作れなければ製品にはなりません。信越化学工業は2014年10月からベトナムのハイフォンにレアアース磁石の工場を建設し、第1期を2015年9月、第2期を2016年9月に完成させました。年産能力は2,000トン、投資額は約120億円で、シンエツマグネティックマテリアルズベトナムという子会社が運営しています。
直近では国内でも動きがあります。2026年6月11日、同社は福井県にレアアースの新工場を建設すると明らかにしました。報道によれば投資額は少なくとも350億円以上、うち175億円は政府の補助金を活用する見込みで、国内でレアアースの生産設備を新設するのは約18年ぶりとのことです。既存の武生工場(福井県越前市)ではレアアースの製錬と磁石の製造を行っています。稼働時期や具体的な製品については、同社は公表していません。
今回の選定基準
テーマだけで買うと、話が進まなかったときに逃げ場がなくなります。今回は次の3つで絞り込みました。
- 中国以外のレアアース調達ルートの構築に、実際に関わる事業を持っていること……報道で名前が挙がる程度ではなく、出資や契約が公表されていること
- 過去5〜10年で大きな減配・無配転落がないこと……各社の1株配当を年度順に並べ、前年と比較して確認しました
- 直近で赤字でないこと……今期の会社予想まで含めて黒字であること
なお、レアアース関連としてよく名前の挙がる企業のなかには、磁石用合金で高い技術を持ちながら株式を公開していない会社もあります。そうした会社は、そもそも買えませんので今回は扱っていません。
| 銘柄名(コード) | 役割 | 株価 | 配当利回り | 時価総額 | 配当の安定性 |
|---|---|---|---|---|---|
| 双日(2768) | 豪州ライナスからの調達(JARE) | 5,783円 | 3.11% | 約1兆2,144億円 | 5期連続増配 |
| 信越化学工業(4063) | ベトナムと国内での精錬・磁石製造 | 5,702円 | 2.03% | 約11兆3,184億円 | 過去5年で減配なし |
| 岩谷産業(8088) | フランス・カレマグ社への出融資と引き取り | 2,129.5円 | 2.21% | 約4,988億円 | 過去5年で減配なし |
3社の中身を見ていきます
① 双日(2768):豪州から重希土類を運ぶ枠組みの当事者
【調達路構築でどこを支えているか】総合商社で、金属・化学品・自動車・航空機など幅広い事業を持っています。レアアースについては、JOGMECとの共同出資会社JAREを通じて豪ライナス社との供給契約を担っており、2038年までの長期契約で中重希土類6品目の最大75%を日本向けに確保する枠組みの当事者です。2011年の出融資から数えて15年続いている関係で、途中で降りずに続けてきたことがいまの立場につながっています(同社IR)。
【配当・財務の安定性】1株配当は2022年3月期から順に106円、130円、135円、150円、165円、2027年3月期予想が180円で、5期連続増配、減配はありません。2026年3月期は売上高2兆7,573億円、当期純利益1,036億円で、実績配当性向は33.3%です。株式は2021年10月1日に5株を1株とする併合を行っており、以降はありません。自己資本比率は29.9%です。
【リスク・懸念点】①レアアースは同社の事業のごく一部で、業績の大半は自動車や化学品など他の事業が決めています。調達路の話題が出ても、それだけで業績が変わるわけではありません。②自己資本比率29.9%は商社としては標準的ですが、資源価格や為替が振れると利益の変動は大きくなります。契約自体も、相手方の生産計画や各国の規制が変われば見直される可能性があります。
② 信越化学工業(4063):原料を磁石にするところまで持っている
【調達路構築でどこを支えているか】塩化ビニルや半導体シリコンで知られる化学メーカーですが、レアアース磁石でも国内有数の生産能力を持っています。ベトナム・ハイフォンの年産2,000トンの磁石工場に加え、福井県越前市の武生工場でレアアースの製錬と磁石製造を行っており、2026年6月には福井での新工場建設を公表しました。原料を確保しても、それを分離・精製して磁石にする工程が国内になければ製品にならないため、この部分を持っていることが役割になります(同社IR)。
【配当・財務の安定性】1株配当は2022年3月期から順に80円、100円、100円、106円、106円、2027年3月期予想が116円です。横ばいの年が2回ありますが、年度順に見て減配はありません。2026年3月期は売上高2兆5,739億円、営業利益6,352億円、当期純利益4,744億円で、実績配当性向41.9%。自己資本比率78.7%と、3社のなかで財務は最も厚くなっています。株式は2023年4月1日に1株を5株に分割しており、上の数字は分割後の基準です。
【リスク・懸念点】①時価総額は約11兆3,184億円で、会社の規模に対してレアアース事業が占める割合は小さく、株価を動かすのは塩ビや半導体材料の市況です。②主力の塩ビは住宅建設の動向に左右され、半導体材料は設備投資サイクルの影響を受けます。レアアースの話とは別の要因で業績が振れる点は、押さえておく必要があります。
③ 岩谷産業(8088):フランスの精錬会社に資金を出し、引き取る側
【調達路構築でどこを支えているか】産業ガス、とくに水素で知られる会社ですが、レアアースではJOGMECと組んでフランスのカレマグ社へ最大1億1,000万ユーロを出融資し、同社が生産する重希土類の50%を引き取る長期契約を結んでいます。資金を出すだけでなく、生産物を引き取って国内へ流す役割まで担っている点が特徴です。工場は2026年末の操業開始予定で、ジスプロシウムとテルビウムの年産600トンは世界の年間生産量の15%程度にあたります(同社IR)。
【配当・財務の安定性】1株配当は2022年3月期から順に21.25円、23.75円、32.5円、47円、47円、2027年3月期予想が47円です。3年連続で47円の横ばいですが、減配はありません。2026年3月期は売上高9,085億円、当期純利益477億円で、実績配当性向は22.7%と3社で最も低く、増配の余地は残っています。自己資本比率48.6%。株式は2024年10月1日に1株を4株に分割しており、上の数字は分割後の基準に直したものです。
【リスク・懸念点】①カレマグの工場はまだ操業前です。2026年末の予定どおりに立ち上がるか、立ち上がってから計画量を出せるかは、現時点では分かりません。②同社の本業は産業ガスと水素関連で、2027年3月期の会社予想は当期純利益455億円と前期比4.5%の減益見通しです。レアアースの進捗とは別の要因で業績が動きます。
このテーマの不確実なところ
ここまで「中国以外のルート」を追ってきましたが、中国側の規制は、強まる方向にも緩む方向にも動きます。実例があります。
2025年10月9日、中国商務部は公告2025年第61号で、中国原産のレアアースを価値比0.1%以上含む国外製造品の輸出にも中国の許可を必要とする、域外適用の規制を打ち出しました。日本で作った製品でも、中国産の原料がわずかに入っていれば許可が要る、という広い内容です。
ところが、その約1か月後の2025年11月7日、中国はこの措置の実施を1年間暫定停止すると発表しました。停止期間は2026年11月10日までで、この記事を書いている時点でも停止が続いています。制度としては残ったまま、運用だけが止まっている状態です。秋には再開か延長かの判断が来ることになります。
つまり、規制の強さは短い期間でも変わります。「中国以外のルートを持っているから安全」という見方も、「規制が続くから代替ルートが儲かる」という見方も、どちらも決めつけにくいのが実際のところだと思っています。私はこのテーマも、ポートフォリオの一部として見ています。
まとめ:ルートを作る作業は、思っていたより地味でした
調べる前は、もっと劇的な話が出てくるのだろうと思っていました。実際に出てきたのは、2011年に出したお金が15年かけて契約になった話、フランスの工業団地でまだ建設中の工場の話、福井で18年ぶりに設備を新設するという話でした。どれも、来年の業績にすぐ効くようなものではありません。
今回の3社も、レアアースが業績に占める割合はいずれも小さく、株価を動かしているのは別の事業です。「レアアース関連」という括りだけで見るのではなく、本業が評価できるかを先に確かめてから、調達路の話を上積みとして見る。私はその順番で扱うことにしています。
原料がどこから来るかという問いは、これまで投資家があまり見てこなかった部分だと思います。それが数字に出るようになったこと自体は、見ておいて損はない変化だと感じています。
深海レアアースを支える中小型株については、こちらの記事でも紹介しています。
※本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。国際情勢・規制の内容は変化する可能性があります。データは2026年9月時点の情報に基づいており、株価・配当利回りは変動します。
著者プロフィール
クアット。90年代生まれ、東海地方出身。20代を世界各国で過ごし、4ヵ国語を操りながら多国籍な環境でキャリアを積む。2017年より投資を開始。現在は日本株・米国株を主力に運用し、アッパーマス層(資産4,000万円以上)に到達。海外での経験から「言葉や感情は揺らぐが、数字だけは嘘をつかない」と確信。趣味の域を超えた銘柄分析を、ポエムや感想を排除した「ロジック重視」の視点で発信中。