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19世紀のアメリカ、カリフォルニア。金が出たという噂を聞きつけ、一攫千金を夢見た約30万人もの人々が、ツルハシ片手に押し寄せました。世に言うゴールドラッシュです。しかし、その熱狂の中で本当に富を築いたのは、汗だくで金を掘った採掘者たちではありませんでした。
確実に儲けたのは、採掘者にツルハシやスコップ、そして丈夫なジーンズ(リーバイス)を売った商人たちでした。金が出ようが出まいが、掘る人がいる限り、道具は売れ続けます。彼らは「夢」ではなく「需要」に賭けたのです(リーバイスとゴールドラッシュの逸話はこちら)。
私はこの考え方を、日本株の国策テーマ投資に応用しています。テーマの「主役」ではなく、主役を足元で支える「裏方」に投資する——これが私の呼ぶ「ツルハシ投資法」です。防衛、AI、宇宙、防災……国策やブームの主役は派手ですが、その実現を支える地味な中小型企業こそ、堅実に恩恵を取れる場所だと考えています。今日は、これまで書いてきた8本のツルハシ記事を、一つの「投資法」として束ねてご紹介します。
主役ではなく「ツルハシ」を狙う4つの理由
なぜ私は、華やかな主役ではなく、地味な裏方(ツルハシ)を狙うのでしょうか。理由は4つあります。
理由1:主役の陰で、割安に放置されやすい
テーマが盛り上がると、資金と注目は真っ先に「主役」に集中します。誰もがエヌビディアやAI半導体に殺到するとき、それを支える電源設備や冷却装置を作る中小型企業は、ほとんど見過ごされています。その結果、裏方の企業は実力に対して割安に放置されやすいのです。人が見ていない場所にこそ、価格の歪み(=買い場)が生まれます。
理由2:ニッチ独占で、代替が効きにくい
ツルハシ企業の多くは、特定の部品・素材・技術で高いシェアを持つ「ニッチトップ」です。ニッチ独占は参入障壁が高く、簡単には他社に置き換えられません。テーマが続く限り、誰かがその「装備」を買い続けなければならない——この代替の効かなさが、需要の安定につながります。主役が誰になろうと、装備の供給者は儲かるのです。
理由3:財務が手堅く、配当も出る
ツルハシ企業の多くは、既存事業ですでに黒字を出している成熟企業です。財務が健全で、配当を出しているところも少なくありません。これは、赤字を垂れ流しながら夢を語るテーマ株ベンチャーとは対照的です。Stock Labが一貫して重視してきた「財務健全・できれば配当」という条件に、ツルハシ企業はぴたりと合致します。
理由4:攻めと守りを両立できる
そして最大の魅力が、攻めと守りの両立です。テーマが当たれば、成長の恩恵をしっかり受けられます。一方で、テーマが思ったほど盛り上がらなくても、本業で堅実に食べていけます。「夢に賭ける」のではなく「堅実に恩恵を取る」。これが、私が高配当株投資と並行してツルハシ投資を好む理由です。当たれば嬉しい、外れても致命傷にならない——この非対称性こそ、長期投資家にとっての安心材料になります。
私が実践してきた8つのツルハシテーマ
ここからは、私がこれまで実際に書いてきた8つのツルハシテーマを紹介します。それぞれの分野で「主役を支える裏方は誰か」という視点で読んでみてください。気になったテーマがあれば、各記事で個別銘柄を詳しく解説しています。
① 資源・レアアース:深海に眠る国富を掘る「装備」
主役は海底のレアアース・鉱物資源の開発です。ツルハシは、深海探査機の精密部品や特殊技術を持つ中小型企業。資源そのものに賭けるのではなく、資源を「掘る道具」を供給する側に注目します。
② エネルギー(原油):原油高で輝く「守りの高配当」
主役は原油そのものの価格です。ツルハシは、資源開発大手INPEXの周辺で原油高の恩恵を受ける商社・海運・掘削関連企業。原油価格を当てにいくのではなく、価格が上がれば潤う「周辺装備」に乗る発想です。
③ エネルギー(国産化):自給率19%を逆手にとる
主役はエネルギー安全保障という国策です。ツルハシは、洋上風力・原子力・蓄電・地熱・送電など、国産エネルギーインフラを足元で支える企業群。エネルギー自給率19%という日本の弱点を、逆に投資機会として捉えます。
④ 防衛:防衛予算倍増の「陰の受益者」
主役は三菱重工をはじめとする防衛大手です。ツルハシは、その下に連なる部品・電子機器・特殊技術の中小型サプライヤー。防衛予算が10兆円規模に膨らむとき、恩恵は大手だけでなく、川下のニッチ企業にも流れ込みます。
⑤ AI・データセンター:建設ラッシュの陰の受益者
主役はAI半導体とデータセンターそのものです。ツルハシは、データセンターを動かすために不可欠な電力・冷却・電気工事・計測を担う中小型企業。半導体株が高騰しても、それを支える「インフラの裏方」はまだ割安に残っていることが多いのです。
⑥ 防災・国土強靱化:防災庁設立で動き出す
主役は国土強靱化という長期の国策です。ツルハシは、インフラの補修・地盤改良・建設資材などを手がける中小型企業。防災庁の設立を機に、老朽インフラの維持・更新需要が長期にわたって積み上がっていきます。
⑦ 金融:日銀利上げで得する中小型金融
主役は三菱UFJなどのメガバンクです。ツルハシは、同じ金利上昇の恩恵を受けながら、まだ注目が薄い地方銀行・信販・リース・保証などの中小型金融。利上げという追い風の中で、メガバンクの陰に隠れた割安株を探します。
⑧ 宇宙・衛星インフラ:78兆円市場の足元を支える
主役はロケットや衛星、そしてSpaceXのような宇宙ベンチャーです。ツルハシは、精密部品・地上局アンテナ・耐熱素材・試験装置などを供給する中小型企業。2050年に78兆円規模とも言われる宇宙市場で、赤字ベンチャーではなく黒字の裏方に注目します。
ツルハシ投資法の「落とし穴」も知っておく
ここまで良いことばかり書いてきましたが、ツルハシ投資法は決して万能の魔法ではありません。正直に、注意点も3つお伝えします。
注意1:テーマが完全に消えれば、ツルハシも需要を失います。 装備は、掘る人がいてこそ売れます。テーマ自体が立ち消えになれば、裏方の需要も細ります。だからこそ、テーマに依存しすぎず、本業そのものが強い企業を選ぶことが命綱になります。
注意2:中小型は流動性が低いことがあります。 規模の小さい銘柄は、1日の出来高が少なく、売りたいときにすぐ売れなかったり、株価が大きく動いたりすることがあります。一度に大量に売買せず、ポジションサイズを抑えるのが基本です。
注意3:「ツルハシだから安全」と思考停止しないことです。 ツルハシという枠組みに当てはまるからといって、すべてが買いではありません。個別企業の財務・業績・配当の継続性は、一社ずつ必ず自分の目で確認してください。ツルハシ投資法は、銘柄を選ぶ「考え方の枠組み」であって、答えそのものではないのです。
まとめ:あなたのポートフォリオに「ツルハシ」を
ツルハシ投資法とは、テーマ株の熱狂に飲まれることなく、その恩恵を堅実に取りにいく考え方です。主役は派手で値動きも激しいですが、ツルハシは地味でも着実。割安に放置され、ニッチを独占し、財務が手堅く、攻めと守りを両立できる——この4つの美点が、長期投資家の味方になってくれます。
金を掘る人になるのか、それともツルハシを売る人になるのか。私が選んだのは、後者の道でした。国策という大きな流れは、内閣府が示す政策の方向性を見ても、防衛・経済安全保障・エネルギー・宇宙と、当面続いていきそうです。その大きな流れの足元で、静かに装備を売り続ける企業たち。今回ご紹介した8つのテーマの中で気になるものがあれば、ぜひ個別記事をのぞいてみてください。あなたのポートフォリオにも、一本「ツルハシ」を加えてみてはいかがでしょうか(とはいえ、私も気づけばツルハシを握りしめすぎて、銘柄数が80を超えてしまったのですが)。
※本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。データは2026年6月26日時点の情報に基づいており、株価・配当利回りは変動します。
著者プロフィール
クアット。90年代生まれ、東海地方出身。20代を世界各国で過ごし、4ヵ国語を操りながら多国籍な環境でキャリアを積む。2017年より投資を開始。現在は日本株・米国株を主力に運用し、アッパーマス層(資産4,000万円以上)に到達。海外での経験から「言葉や感情は揺らぐが、数字だけは嘘をつかない」と確信。趣味の域を超えた銘柄分析を、ポエムや感想を排除した「ロジック重視」の視点で発信中。