※当記事には広告・プロモーションが含まれます。
いま手元にあるスマートフォンの中には、金や銀、パラジウム、そしてネオジムのようなレアアースが、ごく微量ずつ入っています。1台あたりで見ればわずかな量ですが、国内で毎年廃棄される台数を合わせれば、それなりの規模の「鉱山」になります。これがいわゆる都市鉱山です。
この話自体は、私が投資を始めるずっと前から言われていました。ただ、長いあいだ「理屈としては正しいが、手間とコストが見合わない」という扱いだったと思います。掘ってきた鉱石から取り出すほうが、結局は安かったからです。
その前提が、いま少しずつ動いています。動かしているのは技術というより規制です。欧州の電池規則が、リサイクル材を使うことを実質的な出荷条件に近づけつつあり、日本でも再生材の利用計画を国に出させる仕組みが始まりました。
今日は、この都市鉱山を足元で支えている企業を4社、配当の推移まで一社ずつ確認しながら見ていきます。
なぜ都市鉱山が注目されているのか
きっかけは、2023年に成立したEUの電池規則(規則(EU) 2023/1542)です。電池の製造から廃棄までを一本の規則でまとめたもので、企業にとって効いてくるのは、決められた期日ごとに義務が積み上がっていく点です。
なかでもよく話題になるのがバッテリーパスポートです。2027年2月18日から、EU市場に出す2kWh超の産業用・EV用・軽輸送機器用のバッテリーには、電子的な情報登録と、そこへアクセスできるQRコードの表示が義務づけられます。原材料の組成やリサイクル材の含有率といった情報を、電子的に開示する仕組みです。
| 時期 | 主な要件 |
|---|---|
| 2027年2月18日 | バッテリーパスポート(電子情報登録とQRコード表示)の義務化 |
| 2028年2月18日 | カーボンフットプリントの上限値規制が適用 |
| 2028年8月18日 | リサイクル材の含有率に関する情報開示義務が開始 |
| 2031年8月18日 | 再生材の最低含有率(コバルト16%、鉛85%、リチウム6%、ニッケル6%) |
| その5年後 | 最低含有率の引き上げ(コバルト26%、リチウム12%、ニッケル15%、鉛85%) |
投資の観点で意味が大きいのは、表の下2行だと思っています。2031年8月18日以降、新しい電池には一定割合の「廃棄物から回収した金属」を混ぜることが求められます。どれだけ安く新しい鉱石を確保できたとしても、それだけでは欧州で売りにくくなる、ということです。回収された金属に、これまでとは別の価値がつく余地があります。
日本でも動きがあります。改正された資源有効利用促進法が2026年4月1日に施行されました。ただし、ここは正確に書いておきたいのですが、今回この法律が「脱炭素化再生資源」として指定したのは再生プラスチックで、対象製品も容器包装・家電4品目・自動車の3分野です。金属の再生材が直接の対象になっているわけではありません。対象事業者は2027年6月末までに利用計画を出し、2028年度以降は毎年の報告が求められます(改正の全体像はこちらの解説が詳しいです)。
それでも、再生材の利用状況を国に報告させる枠組みができたこと自体は、方向としては欧州と同じところを向いています。EUの規則についても、JOGMECが採択時の内容を整理しています。
国策テーマの主役ではなく装備を売る企業に注目する考え方は、こちらでまとめています。
今回の選定基準
テーマが良くても、業績と配当が伴わなければ長く持てません。今回は次の3つで絞り込みました。
- 都市鉱山・金属リサイクルに関わる事業を持っていること……周辺で恩恵を受ける程度ではなく、実際に金属を回収している会社であること
- 過去5〜10年で大きな減配・無配転落がないこと……各社の1株配当を年度順に並べ、前年と比較して確認しました
- 直近で赤字でないこと……今期の会社予想まで含めて黒字であること
非鉄金属や資源リサイクルの会社は、金属価格の上下がそのまま利益に出るため、配当が大きく振れやすい業種です。実際、名前のよく知られた大手のなかにも、過去5年で配当が3分の1近くまで下がった会社や、1年で半分近くに減った会社がありました。基準②で落ちた会社は、今回は入れていません。
| 銘柄名(コード) | 役割 | 株価 | 配当利回り | 時価総額 | 配当の安定性 |
|---|---|---|---|---|---|
| DOWAホールディングス(5714) | 電子スクラップからの多金属回収と製錬 | 9,254円 | 3.65% | 約5,736億円 | 過去5年は減配なし。今期は減配予想 |
| 松田産業(7456) | 電子部品スクラップからの貴金属回収 | 6,900円 | 1.74% | 約1,857億円 | 8期連続増配 |
| AREホールディングス(5857) | 貴金属リサイクルの専業 | 3,810円 | 3.54% | 約3,309億円 | 2025年3月期に一度減配 |
| TREホールディングス(9247) | 廃棄物の回収と資源リサイクル | 1,818円 | 2.75% | 約956億円 | 過去5年は減配なし |
4社の中身を見ていきます
① DOWAホールディングス(5714):一度に多くの金属を取り出せる製錬
【都市鉱山でどこを支えているか】もともと鉱山・製錬の会社で、1970年代後半から環境・リサイクル事業を手がけてきました。強みは、使用済みの基板や電子部品スクラップから、金や銀、白金族に加えてレアメタルまで20種類を超える金属をまとめて回収できるとされている点です。1種類しか取れない設備と比べて、同じ原料からの収益が積み上がりやすい構造になります。環境・リサイクル部門の売上は832億円、879億円、890億円、1,001億円、1,111億円と5期連続で増えています(同社IR)。
【配当・財務の安定性】1株配当は2022年3月期から順に130円、130円、130円、150円、368円で、過去5年で減配はありません。ただし2027年3月期の予想は338円と減額されています。これは同社が利益に応じた配当を方針としているためで、2026年3月期の最終利益625億円に対して2027年3月期の予想は570億円と減益見通しであることが背景です。配当性向はいずれの期も35%程度で一貫しています。自己資本比率57.3%。
【リスク・懸念点】①売上構成では製錬部門が3,522億円と最も大きく、金属価格が下がれば環境・リサイクル部門が伸びていても全体の利益は落ちます。②配当が利益に連動する方針のため、業績が振れれば配当も振れます。今期の減配予想は、その仕組みがそのまま出た形です。
② 松田産業(7456):スクラップから貴金属を取り出す会社
【都市鉱山でどこを支えているか】貴金属関連事業と食品関連事業の2本柱で、貴金属側は半導体や電子部品の製造工程で出るスクラップや廃液から、金・銀・パラジウムなどを回収して精製し、再び素材として供給しています。2026年3月期の貴金属関連事業の売上は5,704億円で、会社全体の8割超を占めます(食品関連は1,174億円)。半導体の生産が増えるほど工程内スクラップも増えるため、AI向け投資の拡大がそのまま原料の増加につながる位置にいます(同社IR)。
【配当・財務の安定性】1株配当は2022年3月期から順に46円、50円、60円、75円、100円、2027年3月期予想が120円で、8期連続増配、年度順に見て減配はありません。4社のなかで最も配当の履歴が安定しています。実績配当性向は15.4%と低く、増配の余力も残っています。自己資本比率52.0%。
【リスク・懸念点】①配当利回りは1.74%と4社で最も低く、配当を目的に持つ銘柄ではありません。②売上は金や銀の価格をそのまま反映して膨らむため、貴金属相場が下落した局面では、取扱量が変わらなくても売上と利益が縮みます。直近の増収率の高さは、相場高の影響も含んでいると見ておくのが妥当です。
③ AREホールディングス(5857):貴金属リサイクルのほぼ専業
【都市鉱山でどこを支えているか】売上のほぼすべてが貴金属セグメントという、この分野ではめずらしい専業に近い会社です。電子部品スクラップなどから貴金属を回収する事業を国内外で展開しており、2026年3月期の貴金属セグメント売上は5,699億円でした。回収した金属を売るだけでなく、排出する企業から処理を請け負う側面もあり、原料が集まる入口を持っていることが強みになります(同社IR)。
【配当・財務の安定性】1株配当は2022年3月期から順に90円、90円、90円、80円、125円、2027年3月期予想が135円です。2025年3月期に90円から80円へ一度下がっています。この期は最終利益が244億円から143億円に落ちており、同社が配当性向40%程度を目安としていることを踏まえると、利益に沿って調整された形です。以降は125円、135円と戻しています。自己資本比率は37.5%と4社で最も薄めです。
【リスク・懸念点】①事業が貴金属リサイクルにほぼ一本化されているため、金価格やパラジウム価格の変動が業績に直結します。分散が効いていないぶん、振れ幅は大きくなります。②配当性向を目安とする方針である以上、利益が落ちれば配当も落ちます。2025年3月期がその実例です。
④ TREホールディングス(9247):廃棄物が集まる入口を押さえる
【都市鉱山でどこを支えているか】廃棄物処理のタケエイと金属リサイクルのリバーが統合してできた会社です。2026年3月期の売上は廃棄物処理・再資源化事業が528億円、資源リサイクル事業が432億円で、廃棄物を集める工程と、そこから金属を取り出す工程の両方を持っています。どれだけ回収技術が優れていても原料が集まらなければ動かない事業ですので、収集のネットワークを持っていること自体が役割になります(同社IR)。
【配当・財務の安定性】1株配当は2022年3月期から順に25円、40円、40円、45円、50円、2027年3月期予想が50円です。年度順に見て減配はありません。自己資本比率48.4%、時価総額約956億円と4社で最も小型です。
【リスク・懸念点】①2027年3月期の会社予想は、営業利益87億円(前期比61%減)、最終利益50億円(同66%減)と大幅な減益見通しです。前期に能登半島地震の復旧・復興に関わる大型案件があった反動と、鉄スクラップ価格の下落が重なっています。配当は50円で据え置く計画ですが、配当性向は5割近くまで上がります。②廃棄物の取扱量は建設や自動車の解体量に左右されるため、景気が冷えれば入ってくる原料そのものが減ります。
このテーマの不確実なところ
ここまで規制を追い風として書いてきましたが、規制のスケジュールは動きます。実際にEUの電池規則でも、サプライチェーンのデューデリジェンス義務は当初2025年8月18日に始まる予定でしたが、その後の改正で2027年8月18日へと2年間先送りされました。準備が間に合わないと判断されれば、期日は後ろにずれます。
ですので「2031年に最低含有率が始まるから、それまでに需要が積み上がる」という筋書きを、あまり固く信じすぎないようにしています。規制に守られた需要という言い方は、裏を返せば規制次第で消える需要という意味でもあります。
もうひとつ、今回の4社はいずれも金属価格の影響を強く受けます。回収の仕組みがどれだけ整っても、取り出した金属が安ければ利益は出ません。規制の話と金属相場の話は別物で、後者のほうが短期の業績には効きます。私はこのテーマも、ポートフォリオの一部として見ています。
まとめ:捨てるか、取り出すかを決めているのは価格とルール
廃棄物から金属を取り出すという発想そのものは、何十年も前からありました。変わったのは技術より、それを採算に乗せる条件のほうです。金属の価格が上がり、そこに欧州のルールが加わったことで、これまで割に合わなかった作業に値段がつき始めています。
今回の4社を並べると、金属を取り出す側にDOWAホールディングスと松田産業とAREホールディングス、原料が集まる入口にTREホールディングスという配置になります。配当の履歴では松田産業がいちばん安定していますが利回りは低く、利回りで見ればDOWAホールディングスとAREホールディングスが高いかわりに利益連動で振れます。同じテーマでも、持ち方はずいぶん違ってくるはずです。
私はこのテーマを、来期の業績を当てにいく対象ではなく、規制の期日と金属相場の両方を眺めながら数年単位で追う対象として見ています。
深海レアアースを支える中小型株については、こちらの記事でも紹介しています。
※本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。規制の内容・施行時期は各機関の公表資料に基づくものであり、今後変更される可能性があります。データは2026年9月時点の情報に基づいており、株価・配当利回りは変動します。
著者プロフィール
クアット。90年代生まれ、東海地方出身。20代を世界各国で過ごし、4ヵ国語を操りながら多国籍な環境でキャリアを積む。2017年より投資を開始。現在は日本株・米国株を主力に運用し、アッパーマス層(資産4,000万円以上)に到達。海外での経験から「言葉や感情は揺らぐが、数字だけは嘘をつかない」と確信。趣味の域を超えた銘柄分析を、ポエムや感想を排除した「ロジック重視」の視点で発信中。