半導体工場を止めるのは、装置ではなく水でした:超純水を支える3銘柄

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半導体のニュースを追っていると、どうしても目が装置や設計に向きます。露光装置がどこまで微細化できるか、どのファウンドリが先に量産へ入るか。私もしばらくは、その視点でしか半導体関連株を見ていませんでした。

ただ、工場の稼働を止める原因を並べていくと、装置の故障より先に出てくるものがあります。水です。最先端の工場は、不純物を極限まで取り除いた水を大量に、しかも途切れさせずに使い続けます。装置が全部そろっていても、この水が来なければラインは動きません。

しかもこの水は、いま2つの外部環境の変化にさらされています。ひとつは水そのものが国家間の争点になりつつあること。もうひとつは、日本国内でPFASの水質規制が実際に動き出したことです。今日は、その水を支えている企業を3社、財務データを1社ずつ確認しながら見ていきます。

半導体に必要な「水」とは何か

半導体の製造工程では、洗浄に使う水の質がそのまま歩留まりに跳ね返ります。ここで使われるのが超純水(UPW)と呼ばれる水です。イオンも有機物も微粒子も溶存気体も取り除いた、ほぼH₂Oだけの状態を指します。

純度の目安によく使われるのが比抵抗値で、超純水では18.2 MΩ・cmという理論限界に近い値が求められます。水道水の比抵抗値がおおむね数千分の一の水準ですから、まったく別の物質と考えたほうが実感に近いかもしれません。管理対象の不純物濃度も、ppb(10億分の1)やppt(1兆分の1)を通り越して、項目によってはppq(1000兆分の1)の領域に入っています。

なぜそこまで必要かというと、回路の線幅が原子数個分まで細くなっているからです。線幅が細くなるほど洗浄の回数は増え、残った粒子1個が不良の原因になります。さらに構造が細くなると、水の表面張力でパターンが倒れるという別の問題も出てきます。純度だけでなく、温度・流量・気泡の管理まで含めて条件を外さないことが求められる、という意味です。

そして工場側からすると、この水は自分たちで作るより外に任せたほうが早い設備です。水源の水質は地域ごとに違い、最適な処理の組み合わせも変わります。ここに、装置を納めて終わりではなく、運転と保守まで含めて長期契約になりやすい理由があります。

水が地政学の話になってきた

ユーラシア・グループが毎年1月に出している「世界の10大リスク」で、2026年版は第10位に「水の武器化」を挙げました。淡水の約3分の2が国境をまたいで流れているにもかかわらず、310ある国際河川流域の5分の3には紛争を管理する枠組みがない、という指摘です。

報告書が具体例として挙げているのは、ナイル川をめぐるエジプトとエチオピアの対立、2025年4月にインドが停止したインダス川水利条約、中国がブラマプトラ川上流に着工した巨大ダムなどです。ここで語られているのは工場の話ではなく、国家間の争点としての水です。その点は誤解のないようにしておきます。

ただ、水が「どこにでもある前提の資源」ではなくなりつつあるという認識は、産業側にも重なってきます。半導体で象徴的だったのが台湾です。2021年、台湾は56年ぶりといわれる干ばつに見舞われ、TSMCは給水車を使って工場へ水を運ぶ対応に踏み切りました。最先端のチップが、その年の降水量に左右されていたわけです。

いま米国、日本、欧州で工場の新設が続いていますが、立地の検討では電力と並んで水の確保が条件に入ります。装置を並べれば動く、という話ではなくなってきている、というのが私の受け止めです。

PFAS規制が、実際に動き出しました

もうひとつの変化は国内の制度です。PFOSとPFOAは2020年から「水質管理目標設定項目」として暫定目標値50ng/L以下(合計値)が置かれていましたが、これは努力目標で、法的な義務ではありませんでした。

環境省は2025年6月30日に2本の省令を公布し、2026年4月1日から、PFOSとPFOAは水道法に基づく「水質基準項目」に格上げされました。基準値の数字そのものは50ng/Lのままですが、位置づけが変わっています。

実務で効いてくるのは検査のほうです。水道法第20条に基づく水質検査の対象になったことで、水道事業者にはおおむね3か月に1回以上の検査が義務づけられました。基準を超えた場合の対応も、様子見では済まなくなります。施行から5か月が経ち、自治体側は検査体制の整備と、超過した場合の除去設備の検討を並行して進めている段階です。

投資の観点で見ると、ここで使われる技術が超純水の製造技術と重なります。活性炭吸着、イオン交換樹脂、RO膜(逆浸透膜)——いずれも半導体向けに磨いてきた要素技術です。栗田工業は、設備から運転・活性炭の交換・廃材処分までを月額で請け負うPFAS除去サービスを用意しています。すぐに大きな収益になると決まったわけではありませんが、追い風になりうる材料だとは思います。

水インフラを支える中小型株については、こちらの記事でも紹介しています。

【2026年版】水インフラという国策リスクを、資産に変える中小型5銘柄

今回の選定基準

テーマだけで買うと、業績が伴わなかったときに逃げ場がなくなります。今回は次の3つで絞り込みました。

  1. 超純水・水処理に直接関わる事業を持っていること……周辺で恩恵を受ける程度ではなく、本業がそこにあること
  2. 過去10年で減配・無配転落がないこと……各社の1株配当を年度順に並べ、前年と比較して確認しました
  3. 直近で赤字でないこと……今期の会社予想まで含めて黒字であること

この物差しで残ったのが、次の3社です。配当利回りは高くありません。そこは正直に書いておきます。

銘柄名(コード)役割株価配当利回り時価総額配当の安定性
栗田工業(6370)超純水の製造・供給と運転管理7,833円1.71%約9,102億円23期連続増配
オルガノ(6368)先端工場向けの超純水プラント12,740円1.73%約5,906億円8期連続増配
旭有機材(4216)超純水を運ぶ樹脂バルブ・配管5,930円2.19%約1,174億円5期連続増配・10年減配なし
株価・時価総額は2026年9月4日終値。配当利回りは2027年3月期の会社予想配当をもとに算出しています。

3銘柄の中身を見ていきます

① 栗田工業(6370):水を作って売り、運転まで引き受ける

【超純水でどこを支えているか】超純水の供給で世界最大手の一社です。特徴は、顧客の工場の敷地内に自社の設備を置き、そこで作った超純水を量に応じて販売する超純水供給事業を持っていること。半導体メーカーは設備を自前で抱えずに済み、栗田工業は10年、20年という単位の契約収入を積み上げます。2026年3月期の売上収益は電子市場が1,718億円、一般水処理市場が2,311億円で、半導体だけに寄りかかっていないのも特徴です。

【配当・財務の安定性】2027年3月期の配当予想は134円で、会社は23期連続増配としています。実際の1株配当は2022年3月期から順に72円、78円、84円、92円、112円、そして今期予想134円。年度順に前年と比べても、減配はありません。自己資本比率は60.4%です。株式分割・併合は行っていません。

【リスク・懸念点】①2026年3月期の実績配当性向は77.1%まで上がっています。利益が伸びなかった年に、増配の連続記録を維持するための負担が重くなる構造です。②時価総額9,000億円超の大型株で、PBRは2.5倍前後。すでに一定の評価を受けており、割安さを理由に買える水準ではありません。

② オルガノ(6368):先端工場の超純水プラントで伸びた会社

【超純水でどこを支えているか】売上の約85%を水処理エンジニアリング事業が占め、その中心が電子産業向けの超純水プラントです。2026年3月期のセグメント売上は1,520億円、営業利益は343億円で、営業利益率は20%を超えています。純水を作る装置に加えて、使った水を回収して再利用する排水回収の設備も手がけており、水が足りない土地に工場を建てるほど引き合いが増える立ち位置です。PFAS除去についても、イオン交換技術を使った検討を進めています。

【配当・財務の安定性】1株配当は2022年3月期から順に40円、62円、102円、160円、200円、2027年3月期予想が220円です。実績配当性向は32.4%と余裕があり、ROEは21.5%、自己資本比率は63.6%。2019年3月期から8期連続の増配です。ひとつ正直に補足すると、2018年3月期は前期を下回っています。ただしこれは前期の期末配当に創立70周年の記念配当が乗っていたためで、普通配当そのものは増えています。なお、2026年10月1日を効力発生日として1株を5株に分割します(基準日は9月30日)。上の株価と配当は分割前の数字です。

【リスク・懸念点】①PBRは4倍を超え、3社で最も高い評価を受けています。半導体の設備投資が一服したときに、株価の下げ幅が大きくなりやすい水準です。②水処理エンジニアリング事業への依存度が高く、しかもその中身は電子産業向けです。栗田工業に比べると、半導体市況の影響をそのまま受けます。

③ 旭有機材(4216):超純水を「運ぶ」側の部品

【超純水でどこを支えているか】超純水は純度が高すぎるために金属を溶かし出してしまいます。そのため配管やバルブには金属を使えず、耐薬品性の高い樹脂製の部品が必要になります。同社の管材システム事業は、この半導体・液晶向け樹脂バルブで高いシェアを持っています。工場の新設時だけでなく、数年ごとの配管更新でも需要が発生する、消耗品に近い性格の事業です。水処理・資源開発事業では浄水場向けの設備も手がけています。

【配当・財務の安定性】1株配当は2022年3月期から順に60円、70円、100円、110円、120円、2027年3月期予想が130円で、5期連続増配、過去10年で減配はありません(2017年10月1日に5株を1株とする株式併合を行っており、それ以前の数字は併合後基準に直して比較しています)。自己資本比率は74.5%と3社で最も厚く、時価総額約1,174億円と最も小型です。

【リスク・懸念点】①主力の管材システム事業は、売上が2024年3月期の575億円から2026年3月期は481億円へ、営業利益は137億円から62.9億円へと2年続けて落ちています。半導体向けの投資が一巡した影響が、3社の中で最も素直に出ています。②2026年3月期の実績配当性向は67.8%まで上がりました。増配を続けながら利益が戻らない状態が長引けば、方針の見直しはありうると見ています。

このテーマの弱いところ

良い面ばかり書いても仕方がないので、弱点を3つ挙げておきます。

ひとつ目が技術の前提そのものが変わる可能性です。洗浄工程では、水を使わずガスやプラズマで処理する「ドライ洗浄」の研究が進んでいます。すべてが置き換わるとは考えていませんが、線幅がさらに細くなり、水の表面張力でパターンが倒れる問題が深刻になるほど、水を使わない方向への動機は強まります。ここが崩れると、この記事の前提は成立しません。

ふたつ目が半導体の設備投資サイクルです。旭有機材の管材システム事業が2年続けて落ちているのは、まさにこれが原因です。運転・保守の収入は工場が動いている限り入り続けますが、新しい設備の受注は景気と各社の投資判断に素直に連動します。

3つ目が配当利回りの低さです。3社とも1.7%〜2.2%で、高配当株として買える水準ではありません。私はこの手のテーマ株を、配当で待つ枠ではなく成長を取りにいく枠に入れていて、ポートフォリオの一部にとどめています。

まとめ:主役ではなく、主役を動かしている側を見る

半導体の話題は、どうしても装置と設計に集まります。ただ、工場を実際に動かしているものを一つずつたどっていくと、電力と水という、業界の外から見ればずいぶん地味な要素に行き着きます。

今回の3社は、その水の担当です。作って売る栗田工業、先端工場向けにプラントを建てるオルガノ、そしてそれを運ぶ配管とバルブを作る旭有機材。どこも派手ではありませんし、配当利回りも高くありません。それでも、工場が動いている限り誰かがこの仕事をしなければならない、という点は変わりません。

水の武器化にせよPFAS規制にせよ、方向はばらばらに見えます。ただ結局は「水をきれいにして、確実に届ける」という同じ仕事に行き着く。私が水関連を長く見ている理由は、そこにあります。

国策テーマの主役ではなく装備を売る企業に注目する考え方は、こちらでまとめています。

ツルハシ投資法とは何か:国策の主役ではなく「装備」を売る企業に投資する


※本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。データは2026年9月時点の情報に基づいており、株価・配当利回りは変動します。


著者プロフィール

クアット。90年代生まれ、東海地方出身。20代を世界各国で過ごし、4ヵ国語を操りながら多国籍な環境でキャリアを積む。2017年より投資を開始。現在は日本株・米国株を主力に運用し、アッパーマス層(資産4,000万円以上)に到達。海外での経験から「言葉や感情は揺らぐが、数字だけは嘘をつかない」と確信。趣味の域を超えた銘柄分析を、ポエムや感想を排除した「ロジック重視」の視点で発信中。

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