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9月の権利確定シリーズも、今回で最後です。①は総合利回り、②は実質無借金という切り口で見てきました。3回目の今日は、累進配当を取り上げます。
累進配当とは、簡単に言えば「配当を減らさない」という約束です。前の期を下回る配当は出しません、という方針を会社が自ら宣言するものです。掲げる企業はここ数年でかなり増えました。
ただ、掲げるだけなら簡単です。実行できているかは、また別の話です。今回はそこを確かめにいきました。
先に結果を書いておくと、9月末が権利確定日という枠のなかで条件を絞った結果、残ったのは4銘柄でした。落ちた会社の落ち方が思ったより面白かったので、そこも書きます。
累進配当を「掲げるだけ」では足りない理由
累進配当もDOE(自己資本配当率)目標も、あくまで会社が示した方針です。法的な拘束力があるわけではありませんし、中期経営計画が変われば書き換えることもできます。
8月に「利回りが高い株ほど、実は減配していました」という記事を書きました。40社以上の増配発表を調べて、過去10年の配当履歴まで確認したところ、条件に合ったのは4社だけだった、という内容です。発表されている言葉と、実際の履歴のあいだにギャップがあることは、珍しくありません。
以前、累進配当を掲げる企業の中身を見分ける基準も書きました。今回は9月権利確定という枠の中で、その基準を実際に適用してみます。掲げているかどうかだけでなく、直近の決算で本当に増配しているかまで確認する、という進め方です。
累進配当を見分ける基準については、こちらで詳しく解説しています。
発表と実態のギャップについては、こちらの記事でも詳しく書きました。
今回の選定基準
次の5つをすべて満たす銘柄だけを取り上げました。
- 2026年9月末が権利確定日であること(権利付き最終日は9月28日(月))
- 累進配当またはDOE目標を、中期経営計画などで明確に掲げていること
- 直近の配当予想で、実際に増配していること
- 配当利回りが2.5%以上であること
- 過去10年で減配・無配転落が一度もないこと
配当推移は、年間配当(分割調整後)を年度順に並べて前年と1つずつ比べています。株式分割の有無も個別に確認しました。
落ちた会社の、落ち方
面白かったのは2つ目の条件でした。還元に積極的だと思っていた会社の方針をよく読むと、累進配当とは書いていない、というケースがいくつもありました。
たとえばT&Dホールディングスは「5年平均のグループ修正利益に対して60%程度の現金配当」、日産化学は「配当性向55%以上・総還元性向75%以上」、MS&ADは「グループ修正利益の50%を配当および自己株式の取得で還元」。大和ハウス工業は「配当性向35%以上、かつ1株当たり配当金の下限145円」です。
どれも手厚い方針ですし、実際に増配もしています。ただ、これらは利益に連動する約束であって、前の期を下回らないという約束ではありません。利益が大きく落ちれば、方針を守ったままでも配当は下がります。累進配当とは、そこが決定的に違います。
5つ目の条件でも、いくつも落ちました。阪和興業は2020年3月期と2021年3月期に続けて減配(30円→20円→12円)、日本触媒は2021年3月期に45円から22.5円へ半減、日本ガイシは2021年3月期に50円から30円へ、いすゞ自動車は38円から30円へ。TOTOも90円から70円へ減らしています。2021年3月期、つまりコロナの年に配当を守れたかどうかが、そのまま差になっていました。
残った4銘柄
株価は2026年9月1日終値、配当は2027年3月期の会社予想です。4社とも3月期決算で、9月末が中間配当の権利確定日にあたります。
| 銘柄名(コード) | 掲げている方針 | 直近の増配 | 配当利回り | 10年間の減配 |
|---|---|---|---|---|
| 東急不動産HD(3289) | 累進配当+配当性向35%以上 | 48円→50円 | 3.69% | なし |
| カネカ(4118) | 累進配当+配当性向30%目安 | 160円→210円 | 3.31% | なし |
| 兼松(8020) | 累進配当+総還元性向30〜35% | 63円→70円 | 3.03% | なし |
| 山口FG(8418) | 累進配当+配当性向50%程度へ | 64円→96円 | 2.95% | なし |
4銘柄の中身を見る
東急不動産ホールディングス(3289)
掲げている方針と実行状況:東急不動産ホールディングスの株主還元ページによれば、「中期経営計画2030」において2028年3月期までの配当性向を35%以上とし、あわせて累進配当を継続すると明記しています。2026年3月期は期末配当を従来予想から3.5円引き上げて年間48円とし、2027年3月期は年間50円を計画しています。配当性向はそれぞれ35.4%、35.7%で、方針どおりの水準です。
配当の推移:2017年3月期から順に13円、14.5円、15.5円、16円、16円、17円、23.5円、31円、36.5円、48円、そして2027年3月期予想が50円です。10年間で一度も減らしていません。株式分割の実施もありません。
リスク・懸念点:第一に、2027年3月期第1四半期は営業利益466億円(前年同期比12.7%増)と伸びた一方、最終利益は255億円で16.8%の減益でした。通期予想は最終利益1,000億円(前期比3.4%増)ですから、下期の伸びが前提になっています。第二に、自己資本比率は26.2%です。不動産業として異常な水準ではありませんが、借入に支えられた事業構造であることは頭に置いておく必要があります。
カネカ(4118)
掲げている方針と実行状況:カネカの株主還元ページによれば、経営計画「3年の仕掛」2025(2025〜2027年度)の期間を対象として、配当の維持または増配を行う累進配当を実施する方針を掲げ、連結配当性向30%を目安としています。2027年3月期の配当予想は年間210円で、前期の160円から31%の増配です。4社のなかで増配率がいちばん大きいのはこの会社でした。
配当の推移:90円、90円、100円、100円、100円、110円、110円、110円、130円、160円、210円(2027年3月期予想)。横ばいの年はありますが、減配はありません。株式併合を2018年10月に実施していますが、それ以降の分割・併合はありません。
リスク・懸念点:第一に、通期の会社予想は売上高8,200億円(前期比1.0%増)、最終利益315億円(同1.7%増)と、ほぼ横ばいの計画です。第1四半期は営業利益が83.1%増と大きく伸びましたが、通期でこの勢いが続く前提にはなっていません。第二に、配当210円に対する予想1株利益は523.04円で、配当性向は40%前後になります。掲げている目安の30%を上回っており、増配のペースが利益の伸びを先行している状態です。
兼松(8020)
掲げている方針と実行状況:兼松の中期経営計画ページには、年間配当金の下限を定めたうえで累進配当を実施し、総還元性向30〜35%を目標として当期利益の成長に応じて配当金を増額するという方針が示されています。実際、2026年3月期は期末配当を引き上げ、2027年3月期も増配予想です。
配当の推移:分割調整後で15円、24円、30円、30円、30円、32.5円、37.5円、45円、52.5円、63円、70円(2027年3月期予想)。減配はありません。ただし2026年1月1日に1株を2株へ分割しているので、証券会社の画面で古い配当額を見ると、いまの水準と噛み合わない点にご注意ください。上記はすべて分割後に換算した数値です。
リスク・懸念点:第一に、商社である以上、取扱商品の市況と為替の影響を受けます。第1四半期は営業利益174億円(前年同期比63.8%増)と好調でしたが、通期予想は営業利益540億円(前期比11.0%増)と、四半期の勢いをそのまま延長した計画にはなっていません。第二に、親会社所有者帰属持分比率は29.2%です。商社としては標準的ですが、財務の厚みで選ぶ銘柄ではありません。
山口フィナンシャルグループ(8418)
掲げている方針と実行状況:山口フィナンシャルグループのIRページによれば、株主還元方針は1株当たり配当金の維持・増加、すなわち累進配当を基本とし、配当性向は2030年3月期までに50%程度へ引き上げることを目標としています。実行状況がいちばん分かりやすいのがこの会社で、15期連続で増配しており、銀行業では唯一「日経連続増配株価指数」に選ばれています。2027年3月期は年間96円の予想で、前期の64円から50%の増配、16期連続増配となる見込みです。
配当の推移:18円、20円、22円、24円、26円、28円、31円、43円、60円、64円、96円(2027年3月期予想)。一度も減らしていません。株式分割の実施もありません。
リスク・懸念点:第一に、地方銀行である以上、地域経済と金利環境に業績が左右されます。第1四半期は経常利益200億円(前年同期比48.7%増)と大きく伸びましたが、これは金利上昇局面という追い風があってのことです。第二に、通期予想は経常利益675億円(前期比49.9%増)と非常に強い計画で、この達成が前提の96円です。増配率が50%というのは、裏を返せば業績前提が外れたときの振れ幅も大きいということです。
まとめ
累進配当は、方針と実行がそろって初めて意味を持ちます。今回の4社は、方針を掲げているだけでなく、直近の予想でも実際に増やしていて、しかも過去10年で一度も減らしていません。この3つが同時に成り立つ会社は、9月権利確定という枠のなかでは4つしかありませんでした。
9月シリーズを3本書いてみて、結局は同じことを別の角度から確かめていたのだと思います。①は配当と優待を足した受取額、②は借金の少なさ、③は還元を続けてきた実績。どれも「この会社は来年も払えるのか」という一つの問いに行き着きます。
累進配当という言葉は便利ですが、便利な言葉ほど、実際の履歴と突き合わせる価値があります。証券会社のページで配当を10年分さかのぼるのに、かかる時間はせいぜい数分です。私は今回それを20社ぶんやって、そこそこ目が疲れました。
※本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。データは2026年8月〜9月時点の情報に基づいており、株価・配当利回りは変動します。
著者プロフィール
クアット。90年代生まれ、東海地方出身。20代を世界各国で過ごし、4ヵ国語を操りながら多国籍な環境でキャリアを積む。2017年より投資を開始。現在は日本株・米国株を主力に運用し、アッパーマス層(資産4,000万円以上)に到達。海外での経験から「言葉や感情は揺らぐが、数字だけは嘘をつかない」と確信。趣味の域を超えた銘柄分析を、ポエムや感想を排除した「ロジック重視」の視点で発信中。