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銘柄を探すとき、私は無意識に業種でふるいにかけていた時期がありました。半導体、AI、防衛あたりは前のめりで開くのに、「印刷」「繊維」「造船」と書いてあると、リストの中で目が滑って通り過ぎてしまう。
理由は単純で、縮んでいく業界というイメージがあるからです。紙は使われなくなる、服は海外で作られる、船は中国と韓国に持っていかれた。だいたいそういう話は合っていますし、実際に数字も減っています。
ただ、あるとき配当利回りの高い順に並べたリストを眺めていて、上のほうにこうした業種の会社がぽつぽつ混じっていることに気づきました。しかも、そのうちのいくつかは何年も減配していません。業種は縮んでいるのに、その中の一社は配当を出し続けています。これはどういうことなのだろう、と思ったのが今回のきっかけです。
今日は、市場があまり見ていない業種の中を、あえて探してみます。
まず、なぜこれらの業種は人気がないのか
先に、都合の悪いほうから書きます。これらの業種が敬遠されるのには、はっきりした理由があります。
印刷。日本印刷産業連合会が毎年まとめている統計によると、印刷産業の製造品出荷額等は2004年の7兆2,127億円から2023年は5兆934億円になりました。2004年を100とすると70.6という水準です。20年でおよそ3割が消えた計算になります。
紙・パルプ。こちらはもっと急です。経済産業省の生産動態統計をもとにした同じ資料では、印刷用紙の生産量は2016年の691万9,188トンから2025年に408万3,908トンへ減りました。2016年を100として59.0、つまり9年でおよそ4割が減りました。2025年も前年比4.8%減で、減少はまだ止まっていません。
繊維。経済産業省の「繊維産業の現状と政策について」によれば、国内繊維産業の出荷額は2021年時点で約3.7兆円、1991年と比べておよそ4分の1の規模です。衣料品の輸入浸透率は2022年に数量ベースで98.5%に達しており、国内で売られる服のほとんどは海外で作られています。
造船は中国・韓国勢との価格競争が長く続いていますし、非鉄金属は金属市況が業績をそのまま揺らします。市場がこれらの業種に厳しい値段をつけているのは、気分ではなく、こうした数字に基づいた判断です。
ですので、この記事は「不人気だから買い」という話ではありません。縮小という前提は動かないものとして受け入れたうえで、それでも数字が成り立っている会社があるのかを確かめる、という話です。
それでも残っている会社には、理由があります
市場全体が縮んでも、その中の一社が伸びることはあります。理由はだいたい3つに整理できると思っています。
ひとつ目はシェアの移動です。市場が縮むと、体力のない会社から順に撤退したり、事業を売ったりします。全体のパイが2割減っても、競合の退出で自社のシェアが3割上がれば、その会社の売上は増えます。縮小市場で残った側に有利が働く、という現象は珍しくありません。
ふたつ目は周辺への染み出しです。印刷の技術は包装材やカードに応用できますし、紡績の技術は不織布やフィルターにつながります。本業の看板は昔のままでも、中身が別の事業に入れ替わっている会社があります。業種名は登記された過去を指しているだけで、いまの収益源とは限りません。
3つ目は設備投資が終わっていることです。成長期に建てた工場の償却が進み、新しく大きな投資をしなくてよくなると、稼いだ現金が手元に残りやすくなります。成長はしないけれど現金は出る、という状態は、配当を出すうえでは決して悪い条件ではありません。
もっとも、これは一般論です。個別の会社が本当にそうなっているかは、一社ずつ数字を見るしかありません。
今回の選定基準
業種のイメージではなく、個別企業の数字で判断する。そのために、次の4つで絞り込みました。
- 印刷・繊維・紙パルプ・造船・非鉄金属といった、いわゆる不人気業種に属すること
- 配当利回り3.0%以上
- 過去5〜10年で減配・無配転落がないこと……1株配当を年度順に並べ、株式分割・併合の影響を調整したうえで前年と比較しました
- 直近で赤字でないこと……今期の会社予想まで含めて黒字であること
あわせて、同じ業種から2社以上は選ばないことにしました。1社に何かあったときに、業種ごと沈むのを避けたかったからです。
この基準で通ったのは、3社だけでした。とくに基準③で多くが落ちています。2020年から2021年にかけて、この領域では減配や無配転落がかなり広い範囲で起きていました。
造船と非鉄金属からは、1社も残りませんでした。造船は業績が急回復した反面、数年前まで無配だった会社が多く、いま利回りが1%台にとどまります。非鉄金属は利回り3%を超える会社がいくつもありましたが、調べると2021年前後にほぼ例外なく減配か無配を挟んでいました。金属市況の振れがそのまま配当に出る業種なのだと、あらためて確認した形です。無理に数を揃えることはしていません。
| 銘柄名(コード) | 業種 | 株価 | 配当利回り | 時価総額 | 配当の安定性(過去10年) |
|---|---|---|---|---|---|
| 共同印刷(7914) | 印刷 | 1,727円 | 4.63% | 約518億円 | 減配なし |
| シキボウ(3109) | 繊維 | 1,043円 | 4.79% | 約134億円 | 減配なし |
| トーモク(3946) | パルプ・紙 | 4,290円 | 3.96% | 約830億円 | 減配なし |
3社の中身を見ていきます
① 共同印刷(7914):印刷会社の看板で、包装材とBPOを売っている
【なぜこの業種で生き残れているのか】社名は印刷会社ですが、2026年3月期の売上982億円の内訳を見ると、出版・商業印刷にあたる情報コミュニケーション部門は323億円で、しかも前期比6.7%の減収です。一方で軟包装材などの生活・産業資材部門が332億円まで伸び、部門別で最大になりました。カードや個人情報を扱う業務受託にあたる情報セキュリティ部門も305億円あります(同社IR)。印刷が縮んだぶんを、包装と受託業務が埋めている構図です。
【配当・財務の安定性】1株配当は現在の株数に換算すると、2016年3月期の20円から20円、25円、25円、25円、25円、25円、25円、25円と横ばいが続いたあと、35円、78円、2027年3月期予想が80円です。10年間さかのぼって、前年を下回った年はありません。2026年3月期は最終利益39.6億円、実績配当性向は55.2%。自己資本比率52.7%、PBRは0.69倍です。株式は2017年10月1日に10株を1株へ併合し、2025年4月1日に1株を4株へ分割しています。上の数字はすべて分割後の基準に直したものです。
【リスク・懸念点】①印刷産業そのものは、20年で出荷額が3割減った市場です。情報コミュニケーション部門は直近も減収が続いており、この縮小が包装と受託の伸びを上回る年が来る可能性はあります。②長く25円で据え置いてきた配当を、直近2年で35円、78円と一気に引き上げました。増配のペースが速いぶん、利益が伸び悩んだときに同じ水準を保てるかは、これから確かめる部分です。
② シキボウ(3109):紡績の看板で、不動産と産業資材を持っている
【なぜこの業種で生き残れているのか】1892年創業の紡績会社です。2026年3月期の売上446億円のうち繊維が246億円と主力ではありますが、フィルターや不織布などの産業資材が75.3億円、機能材料が68.9億円、そして不動産・サービスが54.9億円を占めます(同社IR)。古い紡績会社は工場の跡地を都市部に持っていることが多く、その賃貸収入が景気に左右されにくい土台になっています。PBRは0.37倍と、3社のなかで最も低い評価です。
【配当・財務の安定性】1株配当は併合の影響を調整すると、2016年3月期の20円から30円、35円、40円、40円、40円、40円と推移し、2024年3月期に50円へ増配、以降50円で2027年3月期予想まで並びます。10年間で減配はありません。株式は2017年10月1日に10株を1株へ併合しており、以降はありません。自己資本比率38.5%。
【リスク・懸念点】①ここは正直に書きます。2027年3月期の会社予想は最終利益6億円、1株利益47.3円で、配当50円は利益を上回ります。配当性向はおよそ106%です。売上と営業利益は増える予想ですが、最終利益は前期比36.8%の減益見通しで、この状態が続けば配当水準の見直しはありえます。②ROEは2.66%と低く、繊維事業そのものの収益力は高くありません。国内市場が縮み、輸入浸透率が98.5%という環境は、この先も変わらない前提で見ておく必要があります。
③ トーモク(3946):紙の会社ですが、主力は段ボールと住宅です
【なぜこの業種で生き残れているのか】業種分類はパルプ・紙ですが、減っているのは印刷用紙であって、この会社の主力は段ボールです。2026年3月期は段ボール事業が1,246億円、運輸倉庫が443億円、住宅が552億円という構成で、段ボールは5年前の1,000億円から着実に増えています(同社IR)。通販の荷物が増えれば箱が要りますので、紙の需要が全体として減るなかでも、この部分だけは方向が違います。加えて、スウェーデンハウスを手がける住宅事業と、倉庫・運輸を持っている点で、紙一本の会社ではありません。
【配当・財務の安定性】1株配当は併合調整後で、2016年3月期の30円から30円、35円、40円、45円、45円、52円、60円、70円、90円、130円、2027年3月期予想が170円です。10年間、一度も前年を下回っていません。2026年3月期は売上2,241億円、営業利益113.8億円、最終利益73.6億円で、実績配当性向は29.1%と3社で最も低く、増配の余地が残っています。自己資本比率45.6%、PER8.7倍。株式は2017年10月1日に5株を1株へ併合しており、以降はありません。
【リスク・懸念点】①段ボールは原紙の値段と物流費に利益を左右されます。紙の需要全体が縮むなかで原紙メーカーの再編が進めば、仕入価格の交渉環境が変わる可能性があります。②住宅事業は2026年3月期に前期比4.6%の減収でした。住宅は金利と住宅ローン環境に敏感な事業ですので、金利が上がる局面では、段ボールが堅調でも全体の足を引っ張ることがあります。
このアプローチの弱いところ
良いことばかり書いても仕方がないので、弱点を3つ挙げておきます。
ひとつ目は、業種全体が縮んでいるという前提は、個別企業の努力では覆せないということです。シェアを取っても、周辺に染み出しても、それは縮小のペースを上回っている間だけ有効です。市場が半分になれば、シェアを倍にしてやっと元の位置に戻る計算になります。
ふたつ目がバリュートラップです。PBR0.37倍や0.69倍という数字は割安に見えますが、割安なまま10年動かないという結末はふつうにありえます。市場がその業種を見ない理由が続く限り、評価は変わりません。安いから上がる、という保証はどこにもないわけです。私が期待しているのは値上がりよりも、その間に受け取る配当のほうです。
3つ目は流動性です。今回の3社は時価総額134億円から830億円の小型株で、1日の出来高もそれほど多くありません。まとまった金額を一度に売買するのには向きません。私はこうした銘柄を、ポートフォリオの一部にとどめています。
まとめ:業種名は、その会社の過去を指しているだけかもしれません
調べてみて印象に残ったのは、3社とも社名や業種名から想像する事業と、いまの収益源がずれていたことです。印刷会社の最大部門が包装材で、紡績会社が不動産の家賃を受け取っていて、紙の会社の主力が段ボールと住宅でした。
業種名は、その会社が何をしていたかの記録であって、いま何で稼いでいるかを示すものではありません。市場が業種でまとめて値付けをしているとき、その中身のずれが放置されていることがあります。今回見つけた3社は、そういう場所にいるのだと思います。
もちろん縮小という前提は変わりませんし、割安なまま動かない可能性も十分にあります。それでも、リストを業種名で飛ばしていた頃よりは、見える範囲が少し広がりました。あなたは、業種名だけで候補から外している会社はありませんか(私はつい先月まで、印刷と聞いた時点でスクロールしていました)。
配当利回りの高さだけで飛びつく危険については、こちらで詳しく解説しています。
割安に放置された銘柄の見方については、こちらの記事でも書いています。
※本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。データは2026年9月時点の情報に基づいており、株価・配当利回りは変動します。
著者プロフィール
クアット。90年代生まれ、東海地方出身。20代を世界各国で過ごし、4ヵ国語を操りながら多国籍な環境でキャリアを積む。2017年より投資を開始。現在は日本株・米国株を主力に運用し、アッパーマス層(資産4,000万円以上)に到達。海外での経験から「言葉や感情は揺らぐが、数字だけは嘘をつかない」と確信。趣味の域を超えた銘柄分析を、ポエムや感想を排除した「ロジック重視」の視点で発信中。