※当記事には広告・プロモーションが含まれます。
新聞の見出しには、日本を代表する大企業の苦境が並ぶ時期があります。原材料高が利益を圧迫した、価格転嫁が追いつかず減益になった、構造改革で人員を削減する。こうした話は、確かに今の日本経済の一面です。
ただ、そのニュースの裏側で、ほとんど話題にならないまま静かに最高益を更新している小型株があります。決算資料は文字ばかりで地味ですし、IR活動も控えめで、株価も長く割安に放置されています。それなのに、業績は崩れません。
私がこの手の会社を見るようになったきっかけは、単純です。高配当株を探していて、聞いたこともない社名の会社が、10年単位で淡々と配当を増やしているのを何度も見かけたからです。調べてみると、たいてい共通点がありました。特定の部品や素材で、世界の中でかなり大きなシェアを持っているのです。
いわゆるグローバル・ニッチトップと呼ばれる会社です。今回は、そのうち3社を取り上げます。ただし今回のリライトにあたって配当の履歴を10年分さかのぼったところ、当初想定していなかった事実も出てきました。そこも含めて、正直に書きます。
なぜインフレでも利益を削られにくいのか
参入障壁が高いので、簡単には切り替えられない
今回の3社に共通するのは、参入障壁の高さです。設備を買えば明日から作れる、という種類の製品ではありません。
- 積み上げてきた加工ノウハウ:数十年単位の試行錯誤で得たもので、図面には書けません
- 製造工程との一体化:装置・材料・工程を自社で最適化しているため、外から見えません
- 顧客への食い込み:完成品メーカーの製造ラインの設計段階から入り込んでいます
こうなると「安いから他社に変える」という話にはなりにくくなります。顧客の側から見れば、サプライヤーを切り替えるリスクのほうが、値上げを受け入れるコストより大きいからです。
価格を通しやすい立場にある
インフレ局面で企業の明暗を分けるのは、結局のところコストを価格に乗せられるかどうかです。今回の3社が扱っているのは、いずれもそれがないと最終製品が完成しない部品・素材・工具です。完成品メーカーにとっては、原材料高を理由に供給が止まるほうがはるかに困ります。
表向きは「下請け」でも、価格交渉の主導権は必ずしも発注側だけにあるわけではない、ということです。
価格転嫁力という視点で高配当株を選んだ記事もあります。
交換需要があるので、不況でもゼロにはなりにくい
もう一つは、彼らの製品が消耗品に近いという点です。工作機械の刃物は削れば摩耗して必ず交換が必要になります。自動車のワイパーゴムも、車が走る限り交換されます。衣料や産業資材の基礎パーツも同じです。
新規の設備投資が止まっても、既存の設備を動かすための交換需要までは消えません。これが、不況下でも利益が崩れにくい理由になります。
ただし、ここは正直に補足しておかなければなりません。今回3社の配当履歴を10年さかのぼったところ、オーエスジーとモリトは2020年11月期に配当を減らしていました。工場が止まり、車の生産が止まった年です。交換需要は「減りにくい」のであって、「絶対に減らない」わけではありませんでした。詳しくは各社の項で書きます。
財務の厚みという裏付け
3社に共通するもう一つの特徴が、財務の厚みです。直近の決算短信で自己資本比率を確認すると、次のようになっていました。
- オーエスジー:68.5%(2026年11月期 中間期末)
- モリト:70.9%(2026年11月期 中間期末)
- フコク:50.6%(2027年3月期 第1四半期末)
借入に頼らずに経営が回っているので、金利が上がってもコスト増に直結しません。むしろ手元の現金が利息を生む側に回ります。
現預金の厚みも見ておきます。同じ決算期末の現金及び預金を、いまの時価総額と並べると、オーエスジーが567億円(時価総額の15.9%)、モリトが106億円(同21.8%)、フコクが129億円(同39.4%)でした。フコクにいたっては、時価総額の4割近くを現金で持っている計算になります。
この現金は、不況時に持ちこたえるための余力であり、設備投資や買収に動くための資金であり、業績が一時的に鈍っても配当を続けるための原資でもあります。株価の下値が固くなりやすいのは、この中身があるからです。
彼らは大量生産と薄利多売の消耗戦をしません。ニッチな市場で付加価値の高い製品を売るので、製造業としては効率よく利益を出せます。無駄な競争に資金を投じないという経営が、そのまま配当の原資になっている、という関係です。
3銘柄の現在地
株価は2026年8月28日終値です。配当は各社の会社予想、財務数値は直近の決算短信によります。
| 銘柄名(コード) | 株価 | 予想年間配当 | 配当利回り | 自己資本比率 | 10年間の減配 |
|---|---|---|---|---|---|
| オーエスジー(6136) | 3,706円 | 115円 | 3.10% | 68.5% | 2020年11月期に1回 |
| フコク(5185) | 2,067円 | 100円 | 4.84% | 50.6% | なし |
| モリト(9837) | 1,820円 | 72円 | 3.96% | 70.9% | 2020年11月期に1回 |
オーエスジー(6136)― ねじ穴を開ける工具の世界大手
ねじ穴加工に使う「タップ」で世界シェア約30%を持つ切削工具メーカーです。車もスマートフォンも飛行機も、ねじで組み立てられている以上、この工具なしには成り立ちません。地味ですが、製造業の一番土台に近いところにいる会社です。
直近の業績:2026年11月期の中間期は、売上高920億円(前年同期比19.0%増)、営業利益156億円(同65.1%増)、中間純利益125億円(同92.8%増)と大きく伸びました。これを受けて7月10日に通期予想を上方修正し、年間配当も当初の84円から115円へ引き上げています。配当方針は「配当性向45%またはDOE3.5%のいずれか高い水準」で、115円はちょうど配当性向45%に相当します。記念配当は含まれていません。
配当の推移:2016年11月期から順に50円、46円、47円、47円、22円、36円、60円、60円、60円、88円、そして2026年11月期予想が115円です。株式分割はありません。
リスク・懸念点:一つは、いま書いた2020年11月期の減配です。47円から22円へ、半分以下に減らしています。期中に42円予想から22円へ修正されており、コロナで製造業の稼働が落ちたときに、この会社の利益も配当も直撃を受けたということです。その後115円まで戻したのは立派ですが、「不況に強い」と言い切れる履歴ではありません。もう一つは、上方修正の理由に「為替が期初想定より円安に推移した」ことが挙げられている点です。海外売上比率が高いぶん、円高に振れれば逆方向に効きます。
フコク(5185)― ワイパーゴムと防振ゴムのメーカー
ワイパーのゴムを主力とするゴム部品メーカーです。自動車メーカーがどれだけコスト削減を進めても、視界を確保する安全部品の品質は落とせません。ここに価格を通しやすい理由があります。
直近の業績:2027年3月期の第1四半期は、売上高233億円(前年同期比2.8%増)に対し、営業利益15億円(同51.4%増)、純利益9億9,900万円(同102.8%増)と、利益の伸びが際立ちました。値上げの浸透と合理化が効いている形です。
配当の推移:2017年3月期から2020年3月期まで20円が続いたあと、22円、49円、50円、60円、75円、85円と増え、2027年3月期予想は100円です。10年間で一度も減らしていません。3社のなかで唯一、コロナ期も配当を維持しました。株式分割・記念配当もありません。フコクのIR情報では、2026年5月に配当性向の目安を30%から40%へ引き上げ、年間配当の下限を20円から50円へ引き上げたことも開示されています。
リスク・懸念点:第一に、2026年3月期の配当性向は115.4%に達しました。利益を超える配当を出した計算です。理由は防振事業での減損損失9億1,800万円で、開示によれば「自動車のBEV化切替時期が後ろ倒し、及び競合状況激化に伴う販売価格の低下や原材料費の上昇」が背景とされています。つまり同じ会社の中でも、ワイパーのように価格を通せる事業と、防振のように価格が下がっている事業が併存しています。「ニッチトップだから価格決定力がある」と一括りにはできない、という実例です。第二に、この減損は営業利益・経常利益には影響しない一過性のものですが、その原因となった競争環境そのものは続いています。
モリト(9837)― ホックやマジックテープの世界トップ
かつては服飾資材の商社でしたが、いまは自社で開発・製造し、世界へ直接販売するモデルに変わっています。面ファスナー(マジックテープ)やホックなど、複数の資材で世界トップシェアを持ちます。こういう地味な会社ほど面白いと思っているのですが、社名を出しても伝わったことがありません。
直近の業績:2026年11月期の中間期は、売上高330億円(前年同期比28.1%増)、営業利益20億円(同31.2%増)。ただし中間純利益は16億円で前年同期比29.9%の減益です。前年に一時的な利益があった反動で、営業段階では増益が続いています。
配当の推移:2016年11月期から17円、28円、25円、26円、18円、26円、32円、55円、63円、70円、2026年11月期予想72円。ここで2018年11月期の28円から25円への減少は、2017年11月期に中間・期末で3円ずつ、計6円の記念配当が含まれていたことによるものです。普通配当ベースでは22円から25円への増配にあたります。一方、2020年11月期の26円から18円への減少は記念配当とは関係のない、実質的な減配でした。株式分割は2014年7月に1対2で実施していますが、それ以降はありません。
株主還元の変化:モリトのIR情報によれば、2026年7月14日に利益配分方針を変更し、DOE(株主資本配当率)の基準を4.0%から5.0%へ引き上げ、あわせて累進配当を導入しました。2031年度にはDOE6.0%を目標としています。適用は2027年11月期の配当からです。自己株式の取得も継続的に実施しています。
リスク・懸念点:第一に、累進配当の導入は前向きな材料ですが、適用は次期からであり、まだ実績としては積み上がっていません。第二に、直近の中間期は最終利益が3割減っています。のれんが38億円あり、買収してきた事業の収益性が想定を下回れば減損の可能性も残ります。
国策テーマの「主役」ではなく「装備」を売る企業に注目する考え方は、こちらでまとめています。
まとめ
派手なテーマ株と違って、この手の会社は買った翌週に話題になることはありません。私が見ているのは、次の3点です。
- 利益が安定しているか:代替が効かない製品なので、需要が急に消えにくい
- 財務が厚いか:金利上昇局面でも揺るがない自己資本と現預金
- 株主還元に一貫性があるか:稼いだ利益を配当や自社株買いで返しているか
ただ、今回あらためて配当を10年分並べてみて、3つ目については3社の間でもはっきり差があると分かりました。フコクは10年間一度も減らしていません。オーエスジーとモリトは2020年に減らし、その後大きく戻しています。同じ「ニッチトップの高配当株」でも、危機のときの振る舞いは違いました。
この違いを知ったうえで持つのと、知らずに持つのとでは、次に不況が来たときの心の準備がまるで変わります。少なくとも私は、22円まで減った年があると知っていれば、そのとき慌てずに済んだと思います。
世界から必要とされる地味な会社が、静かに企業価値を積み上げていく。その過程を配当として受け取りながら待つ、というのが私のこの3社の見方です。派手さはありませんが、退屈なくらいがちょうどいいと思っています。
※本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。データは2026年8月時点の情報に基づいており、株価・配当利回りは変動します。
著者プロフィール
クアット。90年代生まれ、東海地方出身。20代を世界各国で過ごし、4ヵ国語を操りながら多国籍な環境でキャリアを積む。2017年より投資を開始。現在は日本株・米国株を主力に運用し、アッパーマス層(資産4,000万円以上)に到達。海外での経験から「言葉や感情は揺らぐが、数字だけは嘘をつかない」と確信。趣味の域を超えた銘柄分析を、ポエムや感想を排除した「ロジック重視」の視点で発信中。