台湾で「半導体」という文字を一度も見なかった話

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9月の初めに、台湾へ行ってきました。仕事でも視察でもなく、ただの休暇です。数日かけて、家族と台北と台南を旅行してきました。

投資をしていると、台湾という国名は半導体とセットで頭に入ってきます。決算の季節になれば必ず名前が出てきますし、供給網のニュースでも中心にいます。出かける前の私は、行けば街のどこかにその気配があるのだろうと、なんとなく思っていました。大きな看板でも、何かしらあるだろうと。

ところが、数日間歩いて印象に残ったのは、まったく別のものでした。しかも、その「別のもの」のほうが、私にとっては考えさせられる内容だったのです。

今日は、旅先の台湾で気づいた3つのことを書きます。銘柄の話はほとんど出てきません。

旅先で、1回だけ資産を見ました

まず、自分の話から。私は株価アプリの通知をすべて切っていて、保有銘柄の確認は月に一度と決めています。旅行中はなおさら見ません。スマホは地図と翻訳と、食べ物の写真を撮るためのものになります。

それでも今回、旅の中盤に一度だけ、資産を確認しました。理由があります。ここ数か月で保有株が下がり、資産がかなり目減りしていました。それを受けて、妻のNISA口座で買い増しをしようかと考えていたのです。「下がっているなら、今が買い時かもしれない」という、よくある発想です。

ホテルの部屋で口座を開いて、数字を確かめました。そして、結局は買いませんでした。理由は単純で、自分が買いたいと思っている価格まで、まだ下がっていなかったからです。下がったとはいえ、私の基準にはまだ届いていない。それだけの話でした。

ただ、覚えているのは判断の中身より、そのときの感覚のほうです。口座の画面を開いた瞬間、一瞬だけ現実世界に引き戻されたような感じがありました。それまで数日間、屋台の匂いと人の多さと、乗り換えの分かりにくさだけで頭がいっぱいだったのに、急に評価損益の数字が目の前に戻ってくる。あの切り替わりは、正直あまり気持ちのいいものではありませんでした。

結果として買わなかったわけですから、あの確認には何の意味もなかったことになります。やはり、見ないほうがよかったと思いました。

株価の通知を切った話は、こちらの記事に書いています。

株価アプリの通知を切った話:情報を減らすほど、投資はうまくいく

行列ができていたのは、小さな個人商店でした

台湾を訪れるのは初めてではありません。数年前にも来ています。そのときと比べると、物価は確かに上がったという実感がありました。以前の感覚で値段を予想すると、だいたい上に外れます。とはいえ全体としては、まだ旅行しやすい水準だと感じました。

街の風景も変わっていました。コンビニはさらに増えていますし、日本の資本が入った大型店舗もあります。品揃えも、支払いの仕方も、日本とそう変わりません。この部分だけを見れば、どこの国にいるのか分からなくなる瞬間もありました。

ところが、朝に出歩いてみると、行列ができているのは、そうした大きな店ではありませんでした。路地に面した間口の狭い店、看板も出ていないような食堂、家族でやっているらしい朝ごはんの屋台。そういう場所に、開店前から人が並んでいます。しかも観光客ではなく、明らかに通勤や通学の途中という人たちです。

値段は驚くほど手ごろでした。日本で同じものを食べようとすれば、おそらく倍近くかかります。そして重要なのは、それが特別なイベントではなく、その人たちの毎日だという点です。並んでいる人と店の人が短く言葉を交わし、注文を言わなくても出てくる。そういうやりとりが繰り返されていました。

私が育った日本の地方では、商店街が静かになっていく光景を見慣れてきました。シャッターが下りて、そのまま開かない店が少しずつ増えていく。それが良いとも悪いとも言えませんが、日本ではあまり見かけなくなった光景が、ここにはありました。

誰もが裕福というわけではないと思います。そういう街の顔も見ました。それでも、あの朝の行列には、経済の数字には出てこない何かがありました。人が集まる場所が、生活のすぐ隣に残っています。うまく言葉にできませんが、私はそこにコミュニティのようなものを感じました。

そして、「半導体」という文字を一度も見ませんでした

ここからが、今回いちばん意外だったことです。

数日間、街を歩き、電車に乗り、いろいろな場所に入りました。その間、「半導体(繁体字:半導體)」という文字も、TSMCといった有名な半導体メーカーの名前も、一度も目にしませんでした。広告にも、看板にも、駅の掲示にも出てきません。

冷静に考えれば、当たり前かもしれません。工場は観光客が歩く場所にはありませんし、事業の相手は企業ですから、街角で宣伝する理由がありません。日本で自動車部品メーカーの名前を街で見かけないのと同じことです。頭では分かります。

それでも、引っかかりました。投資家としての私は、この国を「半導体が強い国」として認識しています。ところが実際に地面に立ってみると、その産業が人々の日常にどこまで届いているのかが、現地にいてもまったく分からなかったのです。

税収という形では、国全体が潤っているはずです。ただ、給料や仕事という形で直接その恩恵を受けているのは、一部の人なのかもしれません。多くの人にとっては、もっと間接的な形で——たとえば公共サービスの充実という形で——返ってきているのではないか。歩きながら、そんなことを考えていました。ここは私の推測にすぎませんので、そう受け取っていただければと思います。

ひとつ根拠らしきものを挙げるなら、公共交通機関がとても使いやすかったことです。路線が分かりやすく、案内も親切で、運賃も高くありません。観光向けの公式サイトを見ても、移動については心配のいらない国だと分かります。こういうものが整っている背景には、それを支える財源があるはずです。

それなのに、まだ現金が必要な場面が多くありました

もうひとつ、予想と違ったことがあります。現金です。

クレジットカードが使える場所は増えていると聞いていました。実際、大きな店やホテルでは問題なく使えます。ところが、私が行きたかった小さな店や屋台では、そうはいきませんでした。現金がないと何も買えない場面が、思っていたよりずっと多かったのです。

結果として、何度も両替やATMのことを考える羽目になりました。財布の中身を気にしながら歩くという、ここ数年の日本ではあまりしなくなった行動を、久しぶりにしました。正直なところ、少し不便だと感じました。

交通の分野は別で、悠遊カード(EasyCard)のような交通系ICカードが広く使われています。そこだけ切り取れば、とてもスムーズです。ただ、そのカードを持って降りた駅の目の前の店では、現金を出すことになります。この落差が面白いというか、不思議でした。

世界でもっとも精密な半導体を作っている国の街角が、現金でまわっています。これは批判ではなく、素直な驚きです。ハイテクという言葉から私が勝手に思い描いていた姿と、実際の生活の手ざわりは、こんなにも違うのかと思いました。

ニュースの見出しと、地面に立って見る景色

3つを並べてみます。旅先で一度だけ資産を見て、結局何もしなかったこと。行列ができていたのが大きな店ではなく個人商店だったこと。そして、半導体という文字を一度も見ないまま、現金で買い物をして帰ってきたこと。

投資をしていると、ひとつの国を短い言葉で理解した気になってしまいます。「あの国は半導体が強い」「成長率が高い」「人口が増えている」。こうした見出しは便利ですし、間違ってもいません。ただ、その産業の恩恵がどこまで人々に届いているのかまでは、見出しには書かれていません。

逆に、ニュースにはまず出てこない部分——朝の行列がどこにできているか、支払いに何を使っているか——のほうに、その国の経済の手ざわりが出ているのかもしれません。少なくとも私は、数日歩いたことで、以前より少しだけ具体的に台湾を思い浮かべられるようになりました。

とはいえ、「だからニュースは当てにならない」とは思いません。むしろ逆で、私が見たのはたった数日、しかも観光客が歩く範囲の話です。自分の足で確かめられる範囲は、驚くほど狭い。その狭さを埋めてくれるのがニュースや統計ですし、逆にニュースが取りこぼすものを教えてくれるのが、実際に立ってみた場所の空気です。

ニュースで知ることと、肌で感じること。どちらも要るのだと思いました。片方だけでは、たぶんどちらの方向にも歪みます。

投資を始めて、世界の見え方が変わったという話も書いています。

投資を始めて一番良かったのは、お金が増えたことではありませんでした

まとめ:買わなかったことより、見られたことのほうが収穫でした

旅先で資産を一度だけ確認して、買い増しは見送りました。自分の基準に届いていなかったのですから、この判断自体は正しかったと思っています。数か月後に「あのとき買っておけば」と思う可能性もありますが、それは基準を持たずに買って後悔するのとは別の話です。

それよりも、ニュースには出てこない景色を見て帰ってこられたことのほうが、今回の収穫でした。おそらく次に決算資料であの国の名前を見るとき、私の頭には工場ではなく、朝の行列と、財布の中の小銭が浮かぶのだと思います。

あなたが最後に旅先で感じた経済の実感は、どんなものでしたか。よかったら教えてください(ちなみに私の最大の学びは、「現地通貨は多めに両替しておけ」という、投資とは何の関係もない教訓でした)。


※本記事は情報提供および筆者個人の経験・見解を目的としており、特定の国・地域への投資や特定の投資手法を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。記事内の記述は筆者の個人的な体験・観察に基づくものです。データは2026年9月時点の情報に基づいています。


著者プロフィール

クアット。90年代生まれ、東海地方出身。20代を世界各国で過ごし、4ヵ国語を操りながら多国籍な環境でキャリアを積む。2017年より投資を開始。現在は日本株・米国株を主力に運用し、アッパーマス層(資産4,000万円以上)に到達。海外での経験から「言葉や感情は揺らぐが、数字だけは嘘をつかない」と確信。趣味の域を超えた銘柄分析を、ポエムや感想を排除した「ロジック重視」の視点で発信中。

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