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「配当は利益から支払われる」——私はずっと、そう思っていました。ですから配当が続くかどうかを見るときも、まずは利益を確認していました。
でも、あるとき気づいたのです。配当は現金で振り込まれます。私の口座に入ってくるのは、帳簿上の利益ではなく、実際のお金です。ということは、企業の側も現金で払っているはずで、手元に現金がなければ、いくら黒字でも配当は続けられないということになります。
そして会計の世界では、「黒字なのに現金がない」ということが、実際に起こります。今日は、売上をどれだけ現金に変えられているかという視点で、5銘柄を選んでみました。少し会計の話が入りますが、できるだけ噛み砕いてお話しします。
なぜ、利益ではなく現金を見るのか
会計上の利益と、手元の現金は、意外なほどズレます。理由を身近な例で3つ挙げてみます。
ひとつ目が売掛金です。商品を売った時点で売上は計上されますが、実際の入金は2ヶ月後、3ヶ月後ということが珍しくありません。帳簿上は儲かっているのに、財布にはまだお金がない状態です。ふたつ目が減価償却で、工場の代金は建てた年に一括で出ていくのに、会計上は何年もかけて費用に計上します。今度は逆のズレです。三つ目が在庫。仕入れた時点で現金は出ていきますが、費用になるのは売れたときです。
こうしたズレが重なると、黒字なのに資金繰りに困ることが起こります。極端な場合には、黒字のまま倒産することさえあります。そして配当は、この現金の中から支払われます。だからこそ私は、利益と並べて現金の動きを見るようにしています(仕組みの詳細は大和証券の用語解説が分かりやすいと思います)。
営業CFマージンという指標
そこで使うのが、営業キャッシュフロー(営業CF)です。これは本業でどれだけ現金を稼いだかを示す数字で、上場企業なら決算書に必ず載っています。
この営業CFを売上高で割ったものが、今回の主軸です。
営業CFマージン = 営業キャッシュフロー ÷ 売上高 × 100
たとえば売上100億円の会社が2社あり、片方は15億円を現金として残し、もう片方は3億円しか残らないとします。売上規模は同じでも、配当を払う体力はまるで違います。一般には10%を超えると優秀とされる指標です。
ただし、正直にお伝えしておきたいことがあります。この数字は業種によって水準が大きく異なります。通信のように継続課金の仕組みを持つ業種は高くなりやすく、小売や卸売のように大量に仕入れて薄い利ざやで回す業種は低くなります。他業種と単純に比べても意味がなく、同業のなかで比べることが大事です。
なお以前、営業CFが配当支払額の何倍あるかという基準をご紹介しました。今回はもう一歩手前の、そもそも売上を現金に変える力が強いかどうかという視点です。前者は「配当を払えるだけの現金があるか」、後者は「稼ぐ力そのものの質」を見ています。
配当を払い続けられる企業を見抜く基準については、こちらの記事で解説しています。
今回の選定基準
以上を踏まえて、次の4条件で絞り込みました。
- 営業CFマージンが10%以上……今回の主軸です。直近の本決算の数値で計算しました
- 配当利回りが3.0%以上……現金を稼ぐ力があっても、株主に回ってこなければ意味がありません
- 過去5〜10年で大きな減配・無配転落がない……年間配当を年度順に並べ、前年と比較して1年ずつ確認しました
- 直近で赤字・大幅減益ではない……本業が傷んでいる企業は外しています
この基準で候補を眺めていくと、営業CFマージンが高くても、過去に減配していた企業がいくつもありました。数字が優秀でも、配当の実績が伴わないものは今回すべて外しています。逆に、利回りが3%に届かなかったために見送った優良企業もありました。
営業CFで選んだ5銘柄
| 銘柄名(コード) | 業種 | 営業CFマージン | 配当利回り | 時価総額 | 配当の安定性 |
|---|---|---|---|---|---|
| 全国保証(7164) | その他金融 | 55.9% | 3.98% | 約4,258億円 | 10年連続増配 |
| ソフトバンク(9434) | 情報・通信 | 19.8% | 3.85% | 約10.9兆円 | 上場以来 減配なし |
| クラレ(3405) | 化学 | 12.2% | 3.33% | 約5,800億円 | 2020年に小幅減配→その後増配 |
| 東ソー(4042) | 化学 | 11.2% | 3.65% | 約8,908億円 | 10年減配なし |
| NTT(9432) | 情報・通信 | 10.3% | 3.38% | 約14.5兆円 | 10年連続増配 |
① 全国保証(7164):売上の半分以上が現金として残る
なぜ現金を稼げるのか:住宅ローンの保証を主力とする会社です。金融機関に代わって個人の住宅ローンを保証し、対価として保証料を受け取ります。仕入れも在庫も工場も必要ないため、売上のかなりの部分がそのまま現金として残ります。2026年3月期の営業CFは328億円、営業収益は587億円で、営業CFマージンは55.9%。今回の5社で群を抜いています。
配当・財務の安定性:配当利回りは3.98%(予想配当123円)。過去10年の配当は31円→40円→43.5円→47.5円→58.5円→66.5円→74円→85円→106円→120円→123円と、一度も減ることなく10年連続で増配しています。自己資本比率48.9%。
リスク・懸念点:①住宅ローンの保証が主力である以上、住宅市場の動向と金利上昇の影響を強く受けます。②景気が悪化して個人の返済が滞れば、代位弁済(肩代わり)の負担が増えます。保証業は平時に強く、不況時に試される業態です。
② ソフトバンク(9434):毎月の通信料という現金の流れ
なぜ現金を稼げるのか:携帯通信を軸に、決済やコンテンツまで手がける会社です。通信料は毎月自動的に引き落とされるため、売掛金が滞留しにくく、現金化のサイクルが非常に速いのが特徴です。2026年3月期は営業CF 1兆3,937億円、売上高7兆386億円で、営業CFマージンは19.8%(同社IR)。
配当・財務の安定性:配当利回りは3.85%(予想配当8.80円)。配当は上場後、8.60円を長く維持したのち、今期8.80円へ引き上げる予想です。減配は一度もありません。
リスク・懸念点:①自己資本比率が16.0%と低く、有利子負債の多さは意識しておく必要があります。②通信料金の引き下げ圧力は続いており、国内市場は成熟しています。③配当性向が高めで、増配の余地は大きくありません。
③ クラレ(3405):世界シェアの高い素材で稼ぐ
なぜ現金を稼げるのか:ポバール樹脂や液晶用フィルムなど、世界で高いシェアを持つ機能性素材のメーカーです。代替の効きにくい素材は価格競争に巻き込まれにくいという強みがあります。2025年12月期は営業CF 986億円、売上高8,084億円で、営業CFマージンは12.2%。
配当・財務の安定性:配当利回りは3.33%(予想配当64円)。正直にお伝えすると、2020年12月期に42円から40円へ、4.8%の小幅な減配がありました。ただしその後は40円→44円→50円→54円→54円→64円と回復し、減配前を大きく上回っています。自己資本比率57.0%と財務も健全です。
リスク・懸念点:①直近の営業CFマージンは前期の16.7%から12.2%へ低下しており、稼ぐ力はやや落ちています。②素材産業は原燃料価格と為替の影響を受けやすく、業績が振れます。
④ 東ソー(4042):幅広い化学品を持つ総合化学
なぜ現金を稼げるのか:塩化ビニルや苛性ソーダといった基礎化学品から、バイオサイエンス関連の高付加価値製品まで手がける総合化学メーカーです。基礎素材が現金を安定的に生み、高付加価値品が利益率を押し上げる構造です。2026年3月期は営業CF 1,145億円、売上高1兆199億円で、営業CFマージンは11.2%(同社IR)。
配当・財務の安定性:配当利回りは3.65%(予想配当100円)。過去10年は48円→56円→56円→56円→60円→80円→80円→85円→100円→100円→100円と推移し、減配は一度もありません。自己資本比率59.0%で、直近の四半期も営業利益が大幅増でした。
リスク・懸念点:①基礎化学品は市況産業で、ナフサ価格や中国の需給に業績が左右されます。②直近3期の配当は100円で横ばいが続いており、増配の勢いという点では物足りなさがあります。
⑤ NTT(9432):巨大なインフラが生む安定した現金
なぜ現金を稼げるのか:通信最大手です。全国に張り巡らせた通信網という巨大なインフラを持ち、毎月の利用料が継続的に入ってきます。2026年3月期は営業CF 1兆4,851億円、営業収益14兆4,091億円で、営業CFマージンは10.3%(同社IR)。
配当・財務の安定性:配当利回りは3.38%(予想配当5.40円)。過去10年の配当は2.40円→3.00円→3.60円→3.80円→4.20円→4.60円→4.80円→5.10円→5.20円→5.30円→5.40円と、一度も減らすことなく10年連続で増配しています。
リスク・懸念点:①営業CFマージンは前期の17.2%から10.3%へ大きく低下しました。基準の10%はかろうじて満たしていますが、この変化は見過ごせません。次の決算で戻るかどうかを確認したいところです。②通信インフラは巨額の設備投資が継続的に必要で、稼いだ現金の多くが投資に回ります。③自己資本比率20.8%と、財務レバレッジは高めです。
この指標だけで選ばない理由
最後に、この指標の限界についても書いておきます。
いちばん大きいのは、営業CFマージンが高くても、そのお金が手元に残るとは限らないということです。NTTのような通信インフラは、稼いだ現金の多くを設備の維持と更新に使います。営業CFから設備投資を差し引いた「フリーキャッシュフロー」で見ると、印象が変わることもあります。
業種による差も問題です。今回の5社を見ても、保証業の全国保証が55.9%で、通信のNTTが10.3%。この2社を並べて「全国保証のほうが5倍優秀だ」と結論づけるのは、明らかに乱暴です。同業のなかで、あるいは同じ会社の過去と比べるのが、この指標の正しい使い方だと思っています。
ですから私はこの指標を単独では使いません。配当の実績、配当性向、自己資本比率といった他の数字と組み合わせて確かめるようにしています。ひとつの指標で選べるほど、企業は単純ではないというのが実感です。
まとめ:配当は、現金から支払われる
今日お伝えしたかったことは、実はとても単純です。配当は現金で支払われる。だから現金を稼げているかを見る。それだけです。
会計上の利益は、ルールに沿って計算された数字です。粉飾でなくとも、売掛金や在庫の動きによって実態より良く見えることがあります。一方で、実際に入ってきた現金の額は、ごまかしの余地が小さい数字です。私が営業キャッシュフローを重視するのは、そのためです。
今回の5社は、いずれも売上の1割以上を現金として残し、なおかつ配当を守ってきた企業です。とはいえ、これはあくまで数ある入口のひとつにすぎません。気になる企業があれば、ご自身でも決算書のキャッシュフロー計算書をのぞいてみてください(最初は私も何が書いてあるのか分からず、そっと閉じたのですが、慣れると案外おもしろいものです)。
私が銘柄を選ぶときに見ている指標の全体像は、こちらの記事でまとめています。
※本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。データは2026年8月時点の情報に基づいており、株価・配当利回り・財務数値は変動します。
著者プロフィール
クアット。90年代生まれ、東海地方出身。20代を世界各国で過ごし、4ヵ国語を操りながら多国籍な環境でキャリアを積む。2017年より投資を開始。現在は日本株・米国株を主力に運用し、アッパーマス層(資産4,000万円以上)に到達。海外での経験から「言葉や感情は揺らぐが、数字だけは嘘をつかない」と確信。趣味の域を超えた銘柄分析を、ポエムや感想を排除した「ロジック重視」の視点で発信中。