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東京や京都を歩いていると、外国から来た旅行者を見かけるのは、もうすっかり日常の風景になりました。数年前のように「増えたなあ」と驚くこともなくなっています。
投資の世界でも、インバウンドは長く「客数が増えるテーマ」として語られてきました。訪日客が過去最高を更新するたびに、ホテルや百貨店、鉄道の株に注目が集まります。私もそういう見出しを、なんとなく「数が増えれば儲かる話」として受け取っていました。
ところが、今年の統計を並べてみると、少し違う動きが起きています。客数は前年を下回っているのに、使われたお金は過去最高になっている四半期があるのです。しかも、どの国から来ているかという顔ぶれも大きく変わっていました。
今日は、この変化を数字で確認したうえで、それに対応できている企業を見ていきます。
客数は減り、消費額は過去最高
まず客数です。2025年は客数・消費額ともに過去最高の年でしたが、2026年上半期(1〜6月)の訪日外国人数は2,108万4,800人で、前年同期比2.0%減となりました。2年連続で2,000万人を超えてはいますが、過去最多だった前年には届いていません。
足元ではこの傾向がもう少しはっきりしています。日本政府観光局(JNTO)の推計では、2026年7月は344万人(前年同月比0.1%増)と7月として過去最高だったものの、8月は309万8,900人で前年同月比9.6%減でした。1〜8月の累計は2,762万6,300人で、前年同期比2.7%減です。
一方で、お金の動きは逆です。観光庁のインバウンド消費動向調査によると、2026年4〜6月期の訪日外国人旅行消費額は2兆5,096億円で、前年同期比0.2%増、第2四半期として過去最高になりました。
これを支えているのが単価です。1人当たり旅行支出は24.4万円で、前年同期比3.3%増でした。客数が減っても、1人あたりが使う金額が増えたので、総額はむしろ伸びています。インバウンドは「数」ではなく「単価」で伸びる局面に入りつつある、というのが私の受け止めです。
客層そのものが入れ替わっています
もうひとつの変化は、どこから来ているかです。2026年上半期の国・地域別の数字を並べると、次のようになっています。
| 国・地域 | 2026年上半期 | 前年同期比 |
|---|---|---|
| 韓国 | 567万5,100人 | 18.6%増 |
| 台湾 | 397万2,200人 | 20.9%増 |
| 中国 | 205万8,200人 | 56.4%減 |
| 米国 | 182万1,700人 | 前年同期を上回る |
中国からの訪日客は前年同期比56.4%減となった一方、韓国と台湾はそれぞれ2割前後増えています。この傾向は8月も続いており、韓国は85万500人(28.7%増)、台湾は66万6,000人(7.3%増)でした。台湾は7月に、単月として初めて70万人を超えています。
消費額の面では、さらに目立つ変化があります。2026年4〜6月期の国・地域別の旅行消費額で、米国が3,848億円で1位になりました。人数では韓国や台湾に及ばなくても、滞在が長く、1人あたりの支出が大きいため、使うお金の総額では最大の市場になっているわけです。
つまり、人数の多い客層と、お金を多く使う客層が、別々になってきています。
だから、見るべきものが変わります
ここまでの数字を踏まえると、「訪日客が増えるからインバウンド株を買う」という発想は、以前ほど単純には通用しなくなっていると私は考えています。客数そのものは横ばいか、月によっては減っています。
代わりに見るべきだと思っているのは、2つです。ひとつは、単価の高い客層を取り込めているか。長く滞在し、宿泊や移動にお金を使う人たちの需要を受け止められる事業を持っているかどうかです。
もうひとつは、特定の国に依存していないか。ある国からの客が半分以下になっても、別の国からの客が増えて埋まります。そういう構造を持っている会社のほうが、今回のような入れ替わりに強いはずです。
そしてもうひとつ付け加えるなら、ホテルや百貨店そのものより、その周辺で旅行者を支えている会社のほうが、景気の波をならしやすい場合があります。
国策テーマの主役ではなく装備を売る企業に注目する考え方は、こちらでまとめています。
今回の選定基準
インバウンド関連は、2020年から2021年にかけて需要がほぼ消えた業種です。ホテルも鉄道も百貨店も、多くの企業がこの時期に配当を減らすか、無配になりました。それでも基準は緩めずに、次の条件で探しました。
- インバウンド需要の恩恵を受ける事業を持つこと……とくに客層の変化や単価の上昇と関わりがあること
- 配当利回り2.5%以上
- 過去5〜10年で減配・無配転落がないこと……コロナ期も含めて、1株配当を年度順に並べて前年と比較しました
- 直近で赤字でないこと
コロナ期に減配した企業を例外として扱うことはしていません。この条件で残ったのは3社でした。コロナ期にも配当を維持できたという点で、いずれも業種の中では少数派の会社です。
| 銘柄名(コード) | 役割 | 株価 | 配当利回り | 時価総額 | 配当の安定性 |
|---|---|---|---|---|---|
| 九州旅客鉄道(9142) | 九州の鉄道・ホテル・商業施設 | 3,583円 | 3.38% | 約5,541億円 | コロナ期も93円を維持 |
| 空港施設(8864) | 空港内の不動産・インフラ | 968円 | 4.34% | 約503億円 | 過去10年減配なし |
| いちご(2337) | ホテルなどの不動産保有・運用 | 410円 | 3.78% | 約1,708億円 | 過去10年減配なし |
3社の中身を見ていきます
① 九州旅客鉄道(9142):増えている客層の玄関口にいる
【インバウンドのどこを支えているか】九州の鉄道会社ですが、2026年3月期の売上5,004億円のうち、運輸サービスが1,857億円、不動産・ホテルが1,515億円、流通・外食が714億円と、鉄道以外の比重が大きい会社です(同社IR)。九州は韓国や台湾から距離が近く、いま人数が伸びている客層の玄関口にあたる地域です。移動、宿泊、駅ビルでの買い物と、旅行者の支出を複数の事業で受け止められる構造になっています。
【配当・財務の安定性】上場は2016年10月で、上場後の1株配当は2018年3月期の78円から83円、93円と増え、コロナ期の2021年3月期と2022年3月期も93円を据え置きました。鉄道会社としては珍しい対応です。その後93円、93円、98円、115円と推移し、2027年3月期予想は121円です。年度順に見て減配はありません。2026年3月期の最終利益は455億円、実績配当性向は39%程度。自己資本比率40.4%、株式分割・併合はありません。
【リスク・懸念点】①インバウンド需要は為替、国際情勢、災害、感染症といった外部要因にきわめて左右されやすく、2020年のように需要がほぼ消える局面では、鉄道もホテルも同時に打撃を受けます。②九州は特定の近隣国・地域からの客の比率が高いため、その国・地域の景気や渡航動向が変われば、影響を受けやすい構造でもあります。
② 空港施設(8864):旅行者が必ず通る場所の大家
【インバウンドのどこを支えているか】羽田空港などで、航空会社向けの事務所や格納庫を貸し出したり、空港内の熱供給・給排水といったインフラを運営したりしている会社です。2026年3月期は空港内不動産事業が173億円、空港外不動産事業が113億円、空港内インフラ事業が74.6億円でした(同社IR)。どの国から客が来ても、空の便で来る限りは空港を通ります。客層の入れ替わりに左右されにくい、典型的な裏方の立ち位置です。
【配当・財務の安定性】1株配当は2016年3月期の12円から12円、14円と推移し、コロナ期を含めて14円を長く据え置きました。その後17円、21円と増え、2026年3月期は42円に大きく引き上げられ、2027年3月期予想も42円です。10年間で減配はありません。自己資本比率54.9%、PBR0.78倍。株式分割・併合はありません。
【リスク・懸念点】①2027年3月期の会社予想は、営業利益が前期比27.1%減の49億円です。最終利益は34億円とほぼ横ばいの見込みですが、1株利益68.8円に対して配当42円で、配当性向は6割程度まで上がります。②空港の利用者数は外部要因で急減することがあり、とくに空港外の不動産事業を広げている分、不動産市況の影響も受けるようになっています。時価総額503億円と小型で、売買が少ない日もあります。
③ いちご(2337):ホテルを持ち、運用する側
【インバウンドのどこを支えているか】既存の不動産に手を加えて価値を高める事業を中心とする会社で、ホテルの保有・運営にも力を入れています。2026年2月期のホテル事業の売上は152億円で、不動産再生の「心築」事業が275億円、個人向けの不動産商品事業が397億円でした(同社IR)。ホテルは客数よりも客室単価で収益が決まりやすい事業ですので、1人あたりの支出が増えている局面とは相性が良いはずです。
【配当・財務の安定性】1株配当は2017年2月期の5円から6円、7円と増え、コロナ期の2021年2月期と2022年2月期も7円を維持しました。その後8円、9円、10.5円、11.5円と増配が続き、2027年2月期予想は15.5円です。10年間で減配はありません。ROEは14.64%、PER9.0倍。自己資本比率は26.6%で、不動産業としては標準的ですが、3社の中では最も低い水準です。株式分割は2013年以降行っていません。
【リスク・懸念点】①ホテル事業の売上は2026年2月期に前期比4%減でした。客数が減る月が続けば、単価の上昇だけでは稼働率の低下を補いきれない可能性があります。②不動産を多く保有する会社ですので、金利の上昇は借入コストと物件価格の両面に効いてきます。インバウンドの外部要因に加えて、金利という別のリスクも抱えている点は押さえておく必要があります。
このテーマの弱いところ
良い数字ばかり並べても仕方がないので、弱点も書いておきます。
まず、インバウンドは外部要因に極端に弱いテーマです。2020年には、感染症によって訪日需要がほぼ消滅しました。災害や国際情勢の変化でも、客足は一気に変わります。今回の3社はコロナ期にも配当を守りましたが、それは次も守れるという保証ではありません。
次に、特定の国からの客に頼っている企業は、その国の事情で大きく揺れます。今年の数字は、ある国からの客が半分以下になっても、全体の消費額は維持できることを示しました。ただ、それは他の国からの客が増えたからであって、同じことがいつも起きるとは限りません。
そして為替です。円安は訪日客にとって追い風ですが、円高に振れれば逆風になります。1人当たりの支出が伸びている背景にも、為替の影響が含まれているはずです。私はこのテーマも、ポートフォリオの一部にとどめています。
まとめ:数ではなく、単価と顔ぶれを見る
今年のインバウンドの数字を並べてみて分かったのは、客数が横ばいでも消費額は伸びうるということ、そして来ている人たちの顔ぶれが大きく入れ替わっているということでした。
だから私は、インバウンド関連の会社を見るとき、訪日客数の見出しよりも、単価の高い客層を受け止められる事業があるか、特定の国に偏っていないか、そしてコロナ期に配当をどう扱ったか、を確かめるようにしています。今回の3社は、その問いにそれなりの答えを持っている会社でした。
あなたは、インバウンドをまだ「客数が増えるテーマ」だと思っていませんか。私は、ついこのあいだまでそう思っていました(街で外国の方に道を聞かれる回数で、景気を測っていた時期があります)。
為替の変動と長期投資の関係については、こちらの記事で書いています。
※本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。統計データは各機関の公表資料に基づくものです。データは2026年9月時点の情報に基づいており、株価・配当利回りは変動します。
著者プロフィール
クアット。90年代生まれ、東海地方出身。20代を世界各国で過ごし、4ヵ国語を操りながら多国籍な環境でキャリアを積む。2017年より投資を開始。現在は日本株・米国株を主力に運用し、アッパーマス層(資産4,000万円以上)に到達。海外での経験から「言葉や感情は揺らぐが、数字だけは嘘をつかない」と確信。趣味の域を超えた銘柄分析を、ポエムや感想を排除した「ロジック重視」の視点で発信中。