9月権利確定②:借金より現金が多い、実質無借金の高配当株4選

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9月権利確定シリーズの2回目です。前回は「総合利回り」という、配当と優待を足した指標で銘柄を絞りました。今回は角度を変えて、「借金がどれだけ少ないか」という一点で選んでいきます。

不況に強い会社の条件は、挙げようと思えばいくらでも挙がります。参入障壁、価格決定力、顧客基盤。ただ、どれも定量化するのが難しく、書き手の主観が入りやすい項目でもあります。

その点、借金の額は貸借対照表を開けば1円単位で載っています。景気が悪くなったときにいちばん先に効いてくるのは、結局のところ返済と利払いです。売上が落ちても借金の返済期限は待ってくれません。逆に借金がなければ、多少の減益では会社は傾きません。

今回は、9月末が権利確定日の銘柄の中から、現金が借金を上回っている会社を探しました。

実質無借金経営とは何か

計算はいたってシンプルです。

実質有利子負債 = 有利子負債(借入金・社債など)− 現金及び預金

この数字がマイナスなら、借金より手元の現金のほうが多いということになります。理屈のうえでは、いま持っている現金で借金を全部返しても、まだお釣りが来る状態です。この状態を「実質無借金」と呼びます。野村證券の証券用語解説集では、手元資金が有利子負債を上回る状態を「ネットキャッシュ」として説明しています。

ここでいう有利子負債は、利息を払って返さなければならない負債のことです。大和証券の用語解説によれば、銀行からの長短の借入金、社債やコマーシャル・ペーパーなどが該当します。買掛金や未払金は利息がつかないので、ここには含めません。

なお以前、自己資本比率という指標で財務の堅牢さを見た記事を書きました。今回は「借金がどれだけ少ないか」という、また別の角度です。自己資本比率が高くても借入が多い会社はありますし、その逆もあります。

自己資本比率という別の指標で財務の堅牢さを見た記事はこちらです。

自己資本比率85%超えも:財務が鉄壁な高配当株5選

今回の選定基準

次の4つをすべて満たす銘柄に絞りました。

  1. 2026年9月末が権利確定日であること(権利付き最終日は9月28日(月))
  2. 実質無借金経営であること(現金及び預金が有利子負債を上回る)
  3. 配当利回りが2.5%以上であること
  4. 過去10年で減配・無配転落が一度もないこと

実質有利子負債は、各社が開示した2027年3月期第1四半期決算短信の連結貸借対照表(2026年6月30日現在)から、現金及び預金と借入金の各項目を拾って計算しています。

配当推移は年度順に並べて前年と1つずつ比べました。実質無借金でも減配歴で落ちた銘柄は多く、未来工業は直近2期で150円から135円へ、日東工業は過去10年で4回、ホシデンは3回の減配がありました。杉本商事も2022年3月期に45円から30円へ減らしています。

この基準で絞ると、残ったのは4銘柄でした。5つ揃えるために条件を緩めることはしていません。

残った4銘柄

株価は2026年8月26日終値、財務数値は2026年6月30日現在です。実質有利子負債はマイナスであるほど現金に余裕があると読んでください。

銘柄名(コード)現金及び預金有利子負債実質有利子負債配当利回り時価総額
因幡電機産業(9934)750億円2.4億円△747億円2.84%3,405億円
エレコム(6750)641億円5億円△636億円2.99%1,789億円
タカラスタンダード(7981)587億円43億円△544億円3.97%1,980億円
サンゲツ(8130)317億円143億円△174億円4.84%1,894億円

因幡電機産業とエレコムは、借金の額が現金の1%にも満たない水準です。ここまで来ると、借金があること自体が事務手続き上の名残のように見えてきます。

4銘柄の中身を見る

因幡電機産業(9934)― 空調配管の部材と電機の卸

エアコンの配管まわりの部材を作るメーカー機能と、電設資材を扱う卸機能を併せ持つ会社です。なぜ無借金でいられるのかという点では、自社製品の利益率が高いことと、卸事業が在庫を回して現金を生む構造であることが効いています。実際、2026年6月末の現金及び預金750億円に対して、借入は短期借入金2億4,300万円だけです。自己資本比率は64.9%あります。

配当の推移:2017年3月期から順に30円、35円、35円、50円、50円、55円、60円、65円、70円、85円、2027年3月期予想が85円です(2025年12月1日の1対2の株式分割を反映した調整後の数値)。一度も減らしていません。2026年3月期の85円には特別配当15円が含まれていましたので、普通配当だけで見れば70円から85円へ増えた形になります。

リスク・懸念点:第一に、建設・設備投資の動向に業績が連動しやすい会社です。空調配管も電設資材も、新築や改修の工事があって初めて売れます。第二に、これだけ現金を抱えていても配当性向は40%程度にとどまっており、株主還元より内部留保を厚くする姿勢が続いています。安全性の裏返しとして、資本効率の改善余地が残っている状態です。

エレコム(6750)― パソコン周辺機器の企画会社

マウスやケーブル、スマホアクセサリーで知られる会社です。自社工場を持たないファブレス経営のため、設備投資に大きな資金が要りません。これが現金を厚く保てる理由の一つです。2026年6月末の現金及び預金641億円に対し、借入は短期借入金5億円のみ。自己資本比率は75%前後に達します。

配当の推移:2017年3月期から22.5円、25円、28円、30.5円、34.5円、37円、40円、44円、48円、57円、2027年3月期予想58円と推移しています。こちらも減配ゼロで、11期連続の増配です。2027年3月期は中間29円・期末29円の予想で、9月末に中間配当の権利が確定します。

リスク・懸念点:一つは業績予想のねじれです。2027年3月期は営業利益165億円(前期比6.3%増)の予想である一方、最終利益は114億5,000万円(同43.3%減)と大幅な減益予想になっています。営業段階と最終段階で方向が逆になっているので、この差がどこから来ているかは決算資料で確認しておきたいところです。もう一つは、製品の性質上、価格競争に巻き込まれやすく、円安が続けば調達コストが利益を圧迫します。

タカラスタンダード(7981)― ホーローのキッチンメーカー

システムキッチンや浴室設備の大手で、ホーロー素材を使った製品に強みを持ちます。なぜ無借金でいられるのかは、住宅設備という比較的安定した需要に支えられ、長年かけて利益を積み上げてきたことが大きいところです。タカラスタンダードのIRページで開示されている第1四半期の貸借対照表では、現金及び預金587億円に対し、借入は短期借入金43億4,000万円のみでした。自己資本比率は68.8%です。

配当の推移:2017年3月期から30円、31円、32円、34円、34円、52円、52円、54円、78円、116円、2027年3月期予想124円。横ばいの年はありますが、減配は一度もありません。直近5年の増え方は特に急で、34円から124円へと3.6倍になっています。

リスク・懸念点:第一に、新設住宅着工戸数の減少が直接効いてくる業種です。人口減少が進むなかで、国内のキッチン需要が構造的に増える見通しは立てにくいところがあります。第二に、2026年7月30日に通期の業績予想を修正しており、2027年3月期の最終利益は143億円(前期比5.1%減)の予想です。配当性向は55%前後まで上がる計算になります。

サンゲツ(8130)― 壁紙・床材の最大手

壁紙(クロス)や床材、カーテンを扱う内装材の最大手です。自社で工場を持たず、メーカーから仕入れて全国の工務店や設計事務所に届ける流通が本業なので、こちらも設備投資の負担が軽い構造です。サンゲツのIRページで開示されている第1四半期の貸借対照表では、現金及び預金317億円に対し、短期借入金2億4,700万円・長期借入金120億円・リース債務20億円の合計143億円という内訳になっています。

配当の推移:2017年3月期から52.5円、55.5円、56.5円、57.5円、58円、70円、105円、140円、150円、155円、2027年3月期予想155円です。減配はありません。4社のなかでは唯一、借入を一定額そのまま残している会社でもあります。

リスク・懸念点:第一に、配当性向が67%前後と4社のなかで最も高く、2027年3月期は最終利益135億円(前期比7.8%減)の予想です。減益が続けば、155円の据え置きにも余裕がなくなってきます。第二に、内装材は住宅とオフィスの両方に依存するため、着工減とオフィス需要の変化を同時に受ける立ち位置にあります。

無借金経営にも弱点はあります

ここまで借金の少なさを評価してきましたが、無借金であることは、そのまま良い会社であることを意味しません。

借金をしないということは、裏返せば借金をしてまで投資する案件を持っていない、あるいは投資に慎重すぎる、という可能性があります。低金利の時代に、あえて手元資金だけで経営するというのは、成長機会を取りにいっていないと見ることもできます。

もう一つは資本効率の問題です。現金は持っているだけでは利益を生みません。分母である自己資本が現金で膨らむほど、ROE(自己資本利益率)は下がります。今回の4社を会社予想ベースで概算すると、因幡電機産業が11%台、エレコムとサンゲツが10〜11%台であるのに対し、タカラスタンダードは7%台にとどまります。同じ「実質無借金」でも、抱えた現金をどれだけ利益に変えられているかには差があります。

私は、安全性と成長性のバランスを見て判断するようにしています。守りが堅いことは前提であって、それだけで買う理由にはならない、というくらいの位置づけです。

まとめ

借金の少なさは、あくまで守りの指標です。景気が良いときには何の役にも立ちませんし、株価が上がる理由にもなりません。効いてくるのは、業績が悪化したときと、金利が上がったときの2つの局面だけです。

ただ、その2つの局面は必ず来ます。そのときに配当を維持できるかどうかを分けるのが、この数字だと思っています。今回の4社が過去10年で一度も減配していないのは、偶然ではないはずです。

ちなみに私の家計の実質有利子負債は、住宅ローンのおかげで盛大にプラスです。無借金経営を語る資格があるのかと言われると、少し気まずいところがあります。

9月シリーズの次回は、増配や累進配当という切り口を予定しています。

配当を払い続けられる企業を見抜く基準については、こちらで解説しています。

「累進配当」の看板を疑え:減配しない企業を見抜く3つの基準


※本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。データは2026年8月〜9月時点の情報に基づいており、株価・配当利回り・財務数値は変動します。


著者プロフィール

クアット。90年代生まれ、東海地方出身。20代を世界各国で過ごし、4ヵ国語を操りながら多国籍な環境でキャリアを積む。2017年より投資を開始。現在は日本株・米国株を主力に運用し、アッパーマス層(資産4,000万円以上)に到達。海外での経験から「言葉や感情は揺らぐが、数字だけは嘘をつかない」と確信。趣味の域を超えた銘柄分析を、ポエムや感想を排除した「ロジック重視」の視点で発信中。

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