※当記事には広告・プロモーションが含まれます。
円安のニュースを見ると、証券口座の資産画面を開くのが少しだけ楽しみになります。「1ドル=160円」という見出しが流れた日は、特にそうです。
私の資産は、8割ほどが米ドル建てです。円安が進めば、何もしなくても、円で見た評価額が増えていきます。株価がまったく動いていなくても、です。
ところが先日、資産画面を眺めてニヤニヤしていたら、ふと手が止まりました。
円安を喜んでいるということは、自分が暮らしている国の通貨が弱くなっていくのを喜んでいる、ということにならないか?
日本で生まれ育ち、日本で暮らし、日本円で生活費を払っている人間が、円安のニュースを見て小さくガッツポーズをしている。冷静に考えると、なかなかねじれた構図です。日本の衰退を応援しているつもりはまったくないのですが、資産画面の前の私は、どう見ても円安の味方をしています。
今日は、この「素直に喜べない」気持ちを、数字と一緒に整理してみます。答えがきれいに出る話ではないので、先に謝っておきます。
1円動くだけで、資産が数十万円動く
まず、私の資産の中身から書きます。
米国株を中心とした米国資産が、全体の6割ほどです。これに米ドル建ての債券や、ドル建てで持っている新興国株も加えると、全体の約8割が米ドル建てになります。円で持っているのは、残りの2割ほどです。
この構成だと、為替の影響がかなり直接的に効いてきます。円安が一気に進んだ局面では、為替が1円動いただけで、資産が数十万円単位で変わります。
感覚をつかむために、仮の数字で計算してみます。例えば資産4,000万円のうち8割、3,200万円が米ドル建てだとします。1ドル=160円なら、ドルにして20万ドルです。このとき為替が1円動くと、円で見た資産は約20万円動きます。160円から154円へ6円の円高が進めば、約120万円の目減りです。
※あくまで説明のための仮定の計算で、私の実際の資産額ではありません。
そして、この「逆方向」の動きを、先月しっかり味わいました。
為替介入への警戒などがニュースで報じられていた9月上旬のことです。日本銀行が公表している東京市場のドル円相場を見ると、9月2日に一時1ドル=160円39銭をつけたあと、9月8日の17時時点では153円81銭まで円高が進んでいます。4営業日で、6円ほど動いた計算です。
この数日で、私の資産は100万円近く削られました。その間、保有している株の株価はほぼ横ばいでした。企業に何かが起きたわけでも、相場が崩れたわけでもありません。為替が動いただけです。
円安のときは「為替のおかげ」でニヤニヤし、円高のときは「為替のせい」でうなだれる。どちらも私の実力とは何の関係もないのに、気分だけはしっかり振り回されています。ちなみに東京市場のドル円は、9月18日の17時時点で157円49銭まで戻しています。為替は、落ち込む暇もあまり与えてくれません。
でも、私が暮らしているのは円の国です
資産画面だけを見ていれば、円安は「ありがたいもの」です。ところが、生活の場面に移ると、話がまったく変わります。
私は海外生活が長かったので、日本の物価高は、ニュースで見て知っているくらいでした。実感が伴ったのは、一時帰国したときです。おにぎりの値段が200円近くになっていて、思わず二度見しました。
学生時代や20代の頃、おにぎりは100〜120円くらいで買えるものでした。パンも同じような印象です。「私の記憶が古すぎるだけでは?」と思い、公的な統計を確かめてみました。総務省の小売物価統計調査では、東京都区部の品目ごとの平均価格が毎月公表されています。
| 品目 | 2015年8月 | 2026年8月 |
|---|---|---|
| おにぎり(鮭入り・1個) | 116円 | 188円 |
| あんパン(100g) | 89円 | 137円 |
| 食パン(1kg) | 427円 | 566円 |
おにぎりは11年で約1.6倍です。私の「100〜120円だったのに、200円近くになっている」という体感は、統計の数字とかなり近いところにありました。記憶が正しかったのはうれしいのですが、うれしがっている場合ではありません。
もちろん、おにぎりやパンの値上がりには、お米や小麦の価格、人件費など、円安以外の理由も大きく関わっています。円安だけが犯人ではありません。それでも、輸入に頼る原材料やエネルギーを通じて、円安が生活のあちこちにじわじわ効いているのは、感覚としても分かります。
旅行では、円安の効き方がもっと分かりやすくなります。数年前にヨーロッパを旅行したときは、少し高めの食事をしても、クレジットカードの請求は4,000円くらいでした。最近は、同じような食事で5,000〜6,000円になります。ユーロの国への旅行は、正直かなり気合いが必要になりました。
先月は、台湾にも行ってきました。数年前に訪れたときは、日本より少し安いくらいの感覚でした。今回も、朝ごはんの屋台のように手ごろなものはありましたが、円に換算して値段を眺めていると、日本とほぼ変わらない、むしろ少し高いと感じるものが増えていました。
台湾旅行で気づいたことは、こちらの記事に書いています。
資産は円安で増えるのに、おにぎりと旅行の請求書は円安で重くなる。資産画面の前では円安の味方、レジの前では円安の被害者です。同じ人間の中で、毎日立場が入れ替わっています。
円安は、国の力の表れなのか
では、この円安をどう受け止めればいいのでしょうか。ここからは、あくまで私個人の見立てとして書きます。
私は、国の力は、長い目で見ると通貨の力に表れてくるものだと思っています。
その考えを確かめる材料として、日本銀行が公表している実質実効為替レートを見てみました。ドルだけでなく、さまざまな国の通貨との関係や、各国の物価の違いまで考慮して、円の総合的な実力を示す指数です。
この指数(2020年=100)は、1995年4月の194.05が最も高い水準でした。その後は長い目で見て下がる流れが続き、2026年7月には65.24と、データがある1970年以降で最も低い水準になっています。最新の2026年8月も66.02で、ピーク時のおよそ3分の1です。
もうひとつ、私が気にしているのが人口です。総務省の人口推計によると、2026年9月1日現在の日本の総人口(概算値)は1億2265万人で、1年前より約54万人減っています。
為替は、金利の差や貿易の状況など、さまざまな要因で動きます。人口だけで決まるものではありません。それでも私は、人口が減っていく日本の円は、残念ながら長い目で見ると弱くなる方向に進むのではないか、と考えています。これは予想というより、私の見立てです。
正直に言うと、この見立ては半分くらい外れてほしいと思っています。外れてくれたほうが、おにぎりも旅行も安くなるので。
喜んでいるのではなく、備えている
ここまで書いて、最初の問いに戻ります。私は、日本の衰退を喜んでいるのでしょうか。
しばらく考えた末の答えは、「喜んでいるのではなく、備えている」です。
資産の8割を米ドル建てにしているのは、円安に賭けてひと儲けしたいからではありません。円安が進んでも、生活が崩れないための保険のつもりです。円の価値が下がって、おにぎりも旅行も高くなる。そのときに、ドル建ての資産が円で見て増えてくれれば、生活へのダメージをある程度は打ち消せます。
保険なので、使わずに済むならそれがいちばんです。火災保険に入っている人が、火事を待ち望んでいるわけではないのと同じです。……と、資産画面の前でニヤニヤしている自分に言い聞かせています。
ただ、本音を書くと、もうひとつの気持ちもあります。日本で円建ての生活をしている以上、少しの円安なら構いません。でも、急激な物価上昇につながるような円安は、正直あまり来てほしくありません。できれば日本の力が少しでも戻って、円にも一定の強さを保っていてほしいと思っています。
ドル建ての資産で円安に備えながら、心のどこかでは円が強くなることを願っている。保険をかけながら、保険金が出ない未来を願っているようなものです。矛盾しているのは自分でも分かっています。
それでも、もし円安が進んだときに、米ドル建ての資産で生活をカバーできるように投資を設計しておく。そのうえで、円安が進まない未来も素直に歓迎する。今のところ、この矛盾ごと抱えておくのが、私にはいちばん落ち着く折り合いのつけ方です。
あなたの資産は、何の通貨でできていますか
最後に、読んでくださっている方にも、ひとつだけ問いかけさせてください。
あなたの資産は、何割が外貨建てですか。そして、あなたの生活費は、何の通貨で払っていますか。
資産がすべて円建てなら、円安はそのまま生活コストの上昇として効いてきます。給料を円でもらい、銀行に預金だけする人は、円に全額投資(フルインベストメント)していることに変わりません。
逆に、外貨建ての割合が大きければ、私のように円高の局面で資産が大きく揺れます。どちらが良い・悪いという話ではなく、自分がどちらの揺れに弱いのかを知っておくだけでも、為替のニュースの見え方が少し変わると思います。
為替が大きく動いたときの向き合い方は、こちらの記事で整理しています。
円安と円高、どちらに動いても配当収入が崩れにくい組み合わせの考え方は、こちらです。
まとめ:資産画面で喜び、レシートで落ち込む
今回の話をまとめると、こうなります。
・資産の8割が米ドル建てなので、1円の円安・円高で、資産が数十万円単位で動く
・一方で、生活費は円なので、おにぎりも旅行も円安で高くなっている
・ドル建ての資産は、円安に賭けるものではなく、円安でも生活が崩れないための保険のつもり
結局、「円安を素直に喜べない」問題に、きれいな答えは出ませんでした。
円安のニュースで資産が増えてニヤリとし、スーパーのレシートを見て静かに落ち込む。今のところ私は、この二重生活を続けています。いっそ資産画面とレシートを同じ日に見ないようにしようかと、半分本気で考えています。根本的な解決には、まったくなりませんが。
おにぎりが120円に戻る日(たぶんもう来ないでしょうが…)と、私の資産が円高で目減りする日。どちらを願えばいいのか、私はまだ決められずにいます。
※本記事は情報提供および筆者個人の経験・見解を目的としており、特定の投資手法や資産配分、通貨の選択を推奨するものではありません。為替についての記述は筆者個人の見立てであり、将来の為替相場を予測・保証するものではありません。記事内の為替の影響の試算は、資産4,000万円のうち8割が米ドル建てという仮定に基づく計算で、筆者の実際の資産額ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。データは2026年9月時点の情報に基づいています(ドル円相場は2026年9月18日まで、実質実効為替レートと小売価格は2026年8月まで、総人口は2026年9月1日現在の概算値)。
著者プロフィール
クアット。90年代生まれ、東海地方出身。20代を世界各国で過ごし、4ヵ国語を操りながら多国籍な環境でキャリアを積む。2017年より投資を開始。現在は日本株・米国株を主力に運用し、アッパーマス層(資産4,000万円以上)に到達。海外での経験から「言葉や感情は揺らぐが、数字だけは嘘をつかない」と確信。趣味の域を超えた銘柄分析を、ポエムや感想を排除した「ロジック重視」の視点で発信中。