利回りが高い株ほど、実は減配していました:40社の増配発表を調べた結果

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この夏は、増配のニュースをよく見かけました。第1四半期の決算発表とあわせて、配当予想を引き上げる企業が相次いだからです。8月に入ってからも、ほぼ毎日のようにどこかの会社が増配を発表していました。

増配というニュースは、素直に嬉しいものです。ただ、そのニュースだけを見て買いに向かうのは、少し危ういのではないかとも思っています。

というのも、過去に減配した企業が、今回たまたま増配しただけというケースが混ざっているからです。ニュースの見出しには「増配」としか書かれません。その会社が5年前に配当を半分にしていたかどうかは、見出しからは分かりません。

今日は、この夏の増配発表を、私なりの基準で絞り込んでみます。結論から言うと、思っていたよりずっと少ない数しか残りませんでした。

増配発表は、それだけでは判断材料になりません

増配の発表は、たしかに業績が好調だったことの証明ではあります。会社が「今期は配当を増やせる」と判断したわけですから、少なくともその時点では調子がいいということです。

ただ、そこには落とし穴があります。一度減配してから水準を戻しただけでも、「増配」と発表されます。配当100円だった会社が50円に減らし、その後80円に戻したとします。前年比では30円の増配ですが、5年前の水準にはまだ届いていません。ニュースの見出しは、この違いを教えてくれません。

もう一つは、業績連動型の配当方針を採る企業です。「配当性向◯%」という基準を掲げている会社は、業績が良ければ配当を増やし、悪ければ減らします。これは方針どおりの動きであって、悪いことではありません。ただ、長く持って配当を受け取り続けたい私のような投資家にとっては、性格が違う銘柄だということになります。

だから私が確認するのは、増配の事実そのものではなく、その会社がこれまでに一度でも配当を減らしたことがあるかという点です。これは以前、年平均増配率について書いたときと同じ考え方です。あのときも「一度減配してから戻しただけでも、増配率は高く出る」という落とし穴を指摘しました。今回の増配発表も、まったく同じ目で見る必要があります。

増配率という数字にも同じ落とし穴があります。こちらの記事で詳しく書きました。

5年で配当が1.7倍以上に:年平均増配率で選ぶ高配当株5選

絞り込みの基準

今回は次の4条件で絞りました。

  1. 2026年7月下旬〜8月に、配当予想の増額を発表していること……業績の上方修正だけでは対象にせず、実際に配当を増やすと発表した企業に絞りました
  2. 過去10年で一度も減配・無配転落がないこと……今回の主役となる条件です
  3. 配当利回り2.5%以上
  4. 直近で赤字でないこと

2番目の条件では、Yahoo!ファイナンスの配当情報をもとに、各社の年間配当を年度順に並べ、前年と1年ずつ比較しています。手作業ですが、この確認だけは省けません。

絞り込んだ結果:残ったのは4社でした

結論を先に書きます。8月に配当の増額を発表した企業を40社以上リストアップし(決算・配当修正の情報は株探の市場ニュースなどで確認しています)、そのうち利回りや事業内容から10社ほどを詳しく調べました。その結果、すべての条件を満たしたのは4社だけでした。

落ちた企業の多くは、過去10年のどこかで減配していたという理由です。しかも興味深いことに、配当利回りが高い銘柄ほど、減配歴を持っている傾向がありました。今回調べたなかで最も利回りが高かった銘柄(5%超)は、過去10年で3回も配当を減らしていました。40%近い減配を経験した年もあります。

業種にも偏りがありました。電子部品の商社、自動車部品といった市況の影響を受けやすい業種が中心です。これらの企業を責めるつもりはありません。市況が悪化すれば利益は減りますし、その時に配当を調整するのは経営判断として自然です。ただ、「増配発表」という同じニュースでも、その裏側はまったく違うということです。

この夏の増配発表で、減配歴のなかった4社

銘柄名(コード)今回の増配配当利回り時価総額配当の安定性(過去10年)
東京建物(8804)105円 → 126円(21円増)3.69%約7,094億円10年連続増配
三洋貿易(3176)28.5円 → 40円(11.5円増)3.59%約647億円10年連続増配
アイカ工業(4206)138円 → 144円(6円増)3.53%約2,756億円10年連続増配
スターゼン(8043)43円 → 52円(9円増)3.42%約891億円2020年に8.4%減→その後2.8倍に
※増配は前期の実績配当と今期の会社予想の比較(東京建物は2026年12月期、三洋貿易は2026年9月期、他2社は2027年3月期の予想)。株価・利回り・時価総額は2026年8月時点のYahoo!ファイナンスの数値です。

東京建物(8804):10年で配当が約5倍に

何をしている会社か・なぜ増配できたのか:三菱系の総合不動産会社です。オフィスビルの賃貸を軸に、マンション分譲や物流施設の開発も手がけています。都心のオフィス市況が堅調に推移していることと、保有物件の売却益が業績を押し上げました。今回、年間配当を105円から126円へ21円引き上げると発表しています(同社IR)。

配当の推移:26円→30円→35円→41円→46円→51円→65円→73円→95円→105円→126円(予想)。10年間、一度も減らすことなく増え続けています。10年で約4.8倍という伸びです。配当利回りは3.69%。

リスク・懸念点:自己資本比率26.0%と、不動産業の特性上レバレッジが高い構造です。金利上昇は借入コストの増加に直結します。②物件売却益が利益に含まれるため、期によって業績が振れます。売却が一巡した年の反動には注意が必要です。

三洋貿易(3176):11.5円という大幅な引き上げ

何をしている会社か・なぜ増配できたのか:ゴム・化学品や自動車部品、産業資材を扱う専門商社です。単なる仲介ではなく、メーカーと組んで用途開発まで踏み込むスタイルに特徴があります。今回は年間配当を28.5円から40円へ、11.5円の大幅な引き上げを発表しました(同社IR)。1株あたりの絶対額は小さく見えますが、40%を超える増配率です。

配当の推移:12.25円→14.75円→16円→18.5円→18.75円→19.5円→20円→21.5円→27.5円→28.5円と、10年間ずっと増配を続けています。配当利回り3.59%、自己資本比率62.9%と財務も健全です。

リスク・懸念点:①商社は取扱商品の市況に業績が左右されます。とくに自動車関連の比率が高く、この分野の生産動向の影響を受けます。②時価総額647億円と小型で、株価の値動きが大きくなりやすい点にも注意が必要です。

アイカ工業(4206):地味に増やし続けて10年

何をしている会社か・なぜ増配できたのか:メラミン化粧板や接着剤を手がける化学メーカーです。住宅設備や建材の内装材で高いシェアを持ち、東南アジアにも展開しています。2027年3月期の第1四半期は売上高が前年同期比19.4%増、営業利益が44.9%増と好調で、配当も138円から144円へ引き上げられました。

配当の推移:85円→92円→103円→106円→107円→108円→109円→112円→126円→138円→144円(予想)。減配は一度もありません。2021年から2023年にかけては1円ずつという地味な増配でしたが、それでも減らさなかったところに姿勢が出ていると思います。配当利回り3.53%、自己資本比率58.4%。

リスク・懸念点:①化学メーカーとして原燃料価格の変動を受けます。②建材事業は住宅着工や設備投資の動向に左右され、国内市場は人口減少という構造的な逆風も抱えています。

スターゼン(8043):食肉大手、ただし小幅な減配歴あり

何をしている会社か・なぜ増配できたのか:食肉の加工・卸売を手がける大手です。牛・豚・鶏を扱い、量販店や外食向けに供給しています。2027年3月期の第1四半期は売上高が9.7%増、営業利益が43.6%増と好調で、加工食品事業が伸びました。配当は43円から52円へ9円の増額です(同社IR)。

配当の推移:正直にお伝えします。16.67円→20円→20円→18.33円→21.67円→21.67円→25円→26.67円→36.67円→43円→52円(予想)と推移しており、2020年3月期に8.4%の小幅な減配があります。ただしその後は一度も減らさず、減配前の2.8倍まで増えました。今回の4社で唯一、減配歴のある企業です。

リスク・懸念点:①食肉相場や飼料価格、為替の変動が仕入れコストに直結します。②2020年の減配が示すとおり、環境が大きく変われば配当を調整する可能性はあります。

増配発表の「その後」を見るために

最後に、増配のニュースと付き合ううえで私が気をつけていることを書いておきます。

増配を発表した企業が、来期も同じ水準を維持できるとは限りません。とくに業績の上方修正にともなう増配は、業績が元の水準に戻れば配当も戻る可能性があります。今回の4社にしても、増配の背景には好調な業績があります。その好調がいつまで続くかは、誰にも分かりません。

だから私が本当に確認したいのは、増配の金額ではなく「配当方針」のほうです。累進配当(減配せず維持か増配のみ)やDOE(自己資本配当率)を掲げているのか、それとも配当性向◯%という業績連動型なのか。この違いで、業績が悪化したときの振る舞いが変わります。

増配のニュースは一過性の情報ですが、配当方針は会社の姿勢そのものです。私はニュースより方針を見るようにしています。そして方針を掲げているだけで安心せず、実際にそれを守ってきたかを配当の履歴で確かめる——今回やったのは、まさにその作業でした。

まとめ:増配のニュースは、入口にすぎません

この夏、たくさんの企業が増配を発表しました。そのこと自体は、日本企業の株主還元が前進している証拠でもあり、素直に歓迎したいと思っています。

ただ、「増配」という同じ言葉の裏側には、10年間一度も減らさずに積み上げてきた会社と、減らしたり増やしたりを繰り返してきた会社が混在しています。今回、40社以上の増配発表から条件に合う企業を探して、残ったのは4社でした。この数字が、すべてを物語っているように思います。

あなたの保有株は、増配のニュースの裏で、過去に減配したことはありませんか。証券会社のページで配当履歴を10年分さかのぼるだけで、案外はっきり見えてきます(私も今回の作業で、自分の保有株を何銘柄か確認し直すことになりました。知らないほうが幸せだった、とまでは言いませんが)。

累進配当を掲げる企業が本物かどうかを見抜く基準は、こちらで解説しています。

「累進配当」の看板を疑え:減配しない企業を見抜く3つの基準


※本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。増配の発表内容は各社の適時開示に基づくものであり、今後変更される可能性があります。データは2026年8月時点の情報に基づいており、株価・配当利回りは変動します。


著者プロフィール

クアット。90年代生まれ、東海地方出身。20代を世界各国で過ごし、4ヵ国語を操りながら多国籍な環境でキャリアを積む。2017年より投資を開始。現在は日本株・米国株を主力に運用し、アッパーマス層(資産4,000万円以上)に到達。海外での経験から「言葉や感情は揺らぐが、数字だけは嘘をつかない」と確信。趣味の域を超えた銘柄分析を、ポエムや感想を排除した「ロジック重視」の視点で発信中。

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