※当記事には広告・プロモーションが含まれます。
米国のETFに「VIG」(Vanguard Dividend Appreciation ETF)という、少し変わった性格のものがあります。このETFは、配当利回りの高さで銘柄を選びません。選定の基準は「10年以上にわたって連続で増配してきたかどうか」。しかも、利回りが極端に高い銘柄はむしろ除外する設計になっています。
その結果、VIGの利回り自体は2%前後と、決して高配当とは言えません。それでも根強い人気があるのは、増配を続けられる企業は業績も伸びていることが多く、配当の成長と株価の上昇の両方が期待できるからです。「今いくらもらえるか」ではなく「これからどれだけ増えるか」を買う——そういう発想のETFだと私は理解しています。
今日は、この考え方を日本株に応用してみます。着目するのは配当性向の低さです。利回りの高さではなく、「まだ増配できる余地をどれだけ残しているか」という視点で5銘柄を選びました。
利回りより、「伸びしろ」を見る
配当性向とは、稼いだ利益のうち何%を配当に回しているかを示す割合です。たとえば1株あたり100円の利益を出している会社が30円を配当に充てていれば、配当性向は30%になります。
ここが今日の肝なのですが、配当性向が低いということは、まだ配当を増やす余力を残しているということです。利益の3割しか配れていないなら、4割、5割へと引き上げる余地があります。しかも利益そのものが伸びていれば、「配る割合」と「配る元手」の両方が増えるので、増配のペースは加速します。
逆に、配当利回りが高くても配当性向が80〜90%に達している銘柄は、注意が必要です。利益のほとんどをすでに配ってしまっているので、これ以上絞り出す余地がありません。業績が少しつまずけば、増配どころか減配のリスクが出てきます。今の利回りが高い銘柄より、今は低くても伸びしろのある銘柄——VIGの発想を借りるなら、こちらを選ぶことになります。
ちなみに配当性向は、配当利回り × PERという掛け算でおおよその値を出せます。利回り3%でPERが10倍なら配当性向は約30%、という具合です。銘柄を眺めるとき、私はこの計算をよく使っています。
なお以前、自己資本比率という「財務の鉄壁さ」を軸に高配当株を選ぶ記事を書きました。あちらが貸借対照表の体力を見る話だったのに対し、今回は配当性向という利益還元のゆとりに注目する、という違いがあります。同じ高配当株でも、当てる光を変えると見えてくる銘柄が変わります。
財務の鉄壁さで選ぶ高配当株については、こちらの記事で紹介しています。
今回の選定基準
- 配当性向がおおむね30%以下……増配の余地が大きいことを示す、今回の主指標です
- 配当利回りは2%以上……高利回りを狙う記事ではないので、この水準で十分としました
- 過去10年で減配・無配転落がない……年度ごとの配当を1年ずつ前年と見比べて確認しました
- 利益が伸びている……配当性向が低いまま利益が伸びれば、増配ペースは加速しやすくなります
正直にお伝えしておきたいことがあります。この条件で日本株を探してみたところ、該当する銘柄は想像していたより、はるかに少なかったのです。25銘柄以上を一社ずつ確認しましたが、4つすべてを厳密に満たしたのは3社だけでした。東証の要請を受けて各社が還元を強化した結果、配当性向30%以下という会社自体が減っているのだと思います。
そこで今回は、30%以下の3社に、30%台前半の2社を加えた5銘柄という構成にしました。日本企業の配当性向は30〜40%程度が中心ですので、30%台前半でも相対的には低め——つまり伸びしろが残っている水準だと考えています。テーブルに配当性向をそのまま載せますので、どこまでを「伸びしろあり」と見るかは、ご自身の物差しで判断してみてください。
増配余地のある5銘柄・一覧
| 銘柄(コード) | 配当利回り | 配当性向 | 増配の実績 | 業績トレンド |
| オープンハウスG(3288) | 2.35% | 約19% | 10年連続増配 | 増収増益 |
| スズキ(7269) | 2.49% | 約26% | 10年減配なし | 売上過去最高 |
| SPK(7466) | 3.05% | 約30% | 10年連続増配 | 増収増益 |
| 豊田通商(8015) | 2.06% | 約33% | 10年連続増配 | 増収増益 |
| 豊田合成(7282) | 3.56% | 約36% | 10年減配なし | 大幅増益 |
各銘柄の詳細解説
① オープンハウスグループ(3288):配当性向19%という圧倒的な余地
なぜ”伸びしろ”があるのか:戸建て住宅の販売を主力とする不動産会社です。今回の5銘柄で最も配当性向が低く、約19%。利益の8割を手元に残している計算で、増配余地という点では群を抜いています。しかも直近の中間決算は売上高が前年同期比7.1%増、営業利益が14.4%増と好調で、ROEは20.1%。利益が伸びているうえに配当性向が低いという、今回の狙いにぴたりと合う一社です。
増配の実績:過去10年の配当を年度順に並べると、25円→32.5円→49円→63円→80円→112円→129円→164円→166円→178円→200円(予想)。一度も前年を下回らず、10年で8倍になっています。
リスク・懸念点:①住宅需要は金利上昇に弱く、住宅ローン金利が上がる局面では販売が鈍る可能性があります。②自己資本比率は38.1%と、今回の5銘柄では低めの水準です。積極的な用地取得を続ける事業モデルのため、市況が反転したときの在庫リスクには注意が必要です。
② スズキ(7269):インド市場を抱えながら配当性向26%
なぜ”伸びしろ”があるのか:軽自動車とインド市場に強い自動車メーカーです。配当性向は約26%と低く、PERも10倍台。売上収益は6兆2,930億円と過去最高を更新し、純利益も増益を確保しています。成長市場を抱えながら還元がまだ控えめという点で、増配の余地は十分に残されていると考えています。自己資本比率51.0%と財務も安定しています。
増配の実績:配当は11円→18.5円→18.5円→21.25円→22.5円→22.75円→25円→30.5円→41円→46円→51円(予想)と推移しています。据え置きの年はあるものの、前年を下回った年は一度もありません。
リスク・懸念点:①インド市場への依存度が高く、現地の景気や競争環境、為替の変動が業績に直結します。②営業利益は前期比で減益となっており、原材料価格や諸経費の増加が利益率を圧迫している点は注視が必要です。
③ SPK(7466):地味に増配を積み上げる自動車部品商社
なぜ”伸びしろ”があるのか:自動車の補修用部品を扱う専門商社です。時価総額281億円と小型ですが、配当性向は約30%にとどまり、利回りは3.05%と今回の中では高め。直近も売上高が前期比9.5%増、営業利益が8.4%増と着実に伸びています。自己資本比率61.0%、PBR0.93倍と、財務・株価水準の両面で無理がありません。
増配の実績:15.75円→16.25円→16.75円→18円→18.5円→20円→22円→25円→30円→36.5円→41円(予想)と、10年間一度も減配せず、毎年増やし続けています。地味ですが、まさにVIG的な性格を持つ一社です。
リスク・懸念点:①補修部品はEV化が進むと部品点数が減る可能性があり、長期的な構造変化の影響を受けます。②時価総額が小さく出来高も限られるため、売買時に株価が動きやすい点には注意が必要です。
④ 豊田通商(8015):10年で配当が5倍以上に
なぜ”伸びしろ”があるのか:トヨタグループの総合商社で、アフリカ事業に独自の強みを持ちます。配当性向は約33%と、30%はやや超えるものの、商社としては低めの水準です。収益は11兆5,619億円と前期比12.1%増、当期利益も3,705億円と伸びています。利回りは2.06%と控えめですが、増配の勢いを考えると「今の利回り」で判断するのはもったいない銘柄だと思います。
増配の実績:23.33円→31.33円→33.33円→36.67円→37.33円→53.33円→67.33円→93.33円→105円→120円→125円(予想)。10年間で5倍以上、減配は一度もありません。
リスク・懸念点:①自動車関連の比率が高く、トヨタグループの生産動向に業績が左右されます。②資源価格や新興国の為替変動の影響を受けやすく、自己資本比率37.0%と商社らしく借入も活用した経営である点は理解しておく必要があります。
⑤ 豊田合成(7282):大幅増益で還元強化の局面
なぜ”伸びしろ”があるのか:エアバッグや樹脂部品を手がける自動車部品メーカーです。配当性向は約36%と今回で最も高いのですが、注目したいのは利益の伸び方です。直近は売上収益が前期比8.2%増、営業利益が32.9%増、当期利益に至っては70.7%増。利益が急拡大している局面では、配当性向が同じでも配当額そのものが大きく増えます。自己資本比率57.3%、PBR1.01倍と水準も無理がありません。
増配の実績:53円→56円→60円→60円→60円→60円→60円→95円→105円→138円→175円(予想)。60円で据え置きの時期が長く続きましたが、減配は一度もなく、直近3年は一気に増配ペースを上げています。
リスク・懸念点:①トヨタグループ向けの比率が高く、主要顧客の生産計画に業績が連動します。②配当性向は今回の5銘柄で最も高く、利益が伸び悩む局面では増配ペースが鈍る可能性があります。
まとめ:今の利回りより、これからの伸びしろ
今回の5銘柄を配当性向の低い順に並べると、オープンハウスグループ(約19%)、スズキ(約26%)、SPK(約30%)、豊田通商(約33%)、豊田合成(約36%)となります。いずれも過去10年で減配がなく、利益も伸びている会社ばかりです。
調べてみて意外だったのは、低PERで低配当性向の銘柄を探すと、自動車関連が自然と多くなったことです。株価が割安に評価されがちで、かつ還元がまだ控えめなセクターだから、という事情があるのだと思います。この偏りは、投資する際には意識しておきたいところです。
VIGが教えてくれるのは、「今いくらもらえるか」だけが高配当株の価値ではない、ということです。利回り4%でも配当性向90%の銘柄と、利回り2.5%でも配当性向20%の銘柄。10年後にどちらが多くの配当を届けてくれているかは、案外わからないものです。利回りランキングを眺めるとき、その隣に配当性向も並べてみる——それだけで、見える景色がずいぶん変わると思います(もっとも、伸びしろのある銘柄を見つけても、増配を待つ数年間はやっぱり地味なのですが)。
増配率を加味すると配当がどう育つかは、こちらでシミュレーションしています。
※本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄や特定の金融商品(ETFを含む)の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。データは2026年7月31日時点の情報に基づいており、株価・配当利回り・配当性向は変動します。
著者プロフィール
クアット。90年代生まれ、東海地方出身。20代を世界各国で過ごし、4ヵ国語を操りながら多国籍な環境でキャリアを積む。2017年より投資を開始。現在は日本株・米国株を主力に運用し、アッパーマス層(資産4,000万円以上)に到達。海外での経験から「言葉や感情は揺らぐが、数字だけは嘘をつかない」と確信。趣味の域を超えた銘柄分析を、ポエムや感想を排除した「ロジック重視」の視点で発信中。