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建設業界で「人手不足が深刻」というニュースを見るたび、私は正直、少しだけニヤリとしてしまいます。「大変そうだな」ではなく、「これはむしろチャンスかもしれないな」と。ひねくれていると言われればその通りなのですが、投資の世界では、みんなが「危ない」と思っている場所にこそ、放置された宝が転がっていることが少なくありません。
人手不足、残業規制、資材高。確かに建設業界は逆風の只中にあります。でも、その逆風は強いゼネコンにとっては「利益を守り、増やす追い風」に変わっています。人手が足りず、仕事のほうが溢れているからこそ、採算の悪い案件は堂々と断り、条件の良い仕事だけを選び、強気で価格交渉ができる——いわゆる「選別受注」が現実になっているのです。
今日は、この2024年問題を逆に利益へと変えつつある、受注残高1年分・配当利回り4〜5%の「鉄壁のゼネコン3社」を紹介します。派手さはありませんが、地味に強い。私が高配当株投資で一番好きなタイプの銘柄たちです。
なぜ今、建設株が「お宝」なのか
2024年問題の「光」:人手不足が利益率を押し上げる
これまでの建設業界は、「受注はあるのに利益が残らない」という薄利多売の構造に長く苦しんできました。ところが、2024年問題(時間外労働の上限規制)を経て、その構造が大きく変わりました。物理的にこなせる仕事量に限りが出た結果、企業は仕事を選ばざるを得なくなったのです。
- 人手不足で、キャパを超える仕事は受けられない。だから仕事を選ぶ
- 低単価・無理な工期の案件を排除し、採算重視の営業へ切り替わる
- 労務費や資材高を、発注者へ価格転嫁しやすい環境が生まれる
その結果、多くのゼネコンで営業利益率やROE(自己資本利益率)が改善に転じています。これは一時的な景気の波ではなく、「安売りをやめて、しっかり儲ける」という構造そのものの変化だと私は見ています。
受注残高という「貯金」:減配リスクへの防波堤
建設株を見るとき、私が真っ先にチェックするのが「受注残高」です。これは「すでに契約済みで、これから確実に売上になる仕事のストック」のこと。言い換えれば、会社の「貯金」です。
今回紹介する3社は、いずれも売上高の1年分前後という豊富な受注残を抱えています。極端に言えば「明日から一切営業をしなくても、1年以上は食べていける仕事が手元にある」ということ。この見通しの良さが、相場が荒れても配当を維持し続けるための防波堤になります。高配当株投資で一番怖いのは減配ですから、この「貯金」の厚さは何より安心材料になります。
東証の圧力:PBR1倍割れは「増配」への特急券
ゼネコンは伝統的に現預金を厚く持ち、財務がとても保守的です。その裏返しで、多くの企業がPBR(株価純資産倍率)1倍前後の割安なまま放置されてきました。ところが今は、東証による「資本コストや株価を意識した経営」への強い要請があります。溜め込んだ現預金を眠らせたままでは、市場から「経営努力が足りない」と見なされる時代になったのです。
- 溜め込んだ現預金の活用(成長投資・還元)
- 増配やDOE(自己資本配当率)の導入
- 自社株買いによる株価対策
こうした株主還元の強化は、もはや経営陣の善意ではなく、市場で生き残るために「やらざるを得ない宿題」になっています。低PBRの建設株にとっては、これが増配への追い風になるわけです。
PBR1倍割れの銘柄をどう選ぶかについては、こちらの記事でも詳しく解説しています。
建設株の「買い時」と「避けたい局面」
建設株で失敗しないためには、目先の配当利回りだけでなく「稼ぐ力が続くかどうか」を見る必要があります。私が建設株を見るときに意識している、買い時のサインと避けたい局面のサインを整理しておきます。
買い時のサイン:絶好の仕込み時
次の条件が揃う局面は、長期保有に向けた理想的なエントリーポイントだと考えています。
- 受注残高が1年以上ある……景気が悪化しても、手元の仕事で業績と配当を維持できます
- 営業利益率・ROEが改善トレンド……安売りをやめ、選別受注が現場まで浸透している証拠です
- PBR1倍前後 × 高配当……東証の是正圧力もあり、株価の下値リスクが限定的です
- 還元方針が明文化されている(DOE・累進配当など)……利益が振れても、配当の下限が読みやすくなります
今回紹介する3社は、これらの条件を高い水準で満たしています。
避けたい局面:注意信号
逆に、以下のサインが出始めたら、一度立ち止まって分析し直すのが賢明です。
- 受注残高が急減している……数年後の売上の「種」が尽き始めているサインです
- 利益率が低下している……コスト高を価格転嫁できず、再び無理な受注に戻っている可能性があります
- 配当方針が「配当性向」のみで、業績連動が強すぎる……一時的な減益が、そのまま大幅な減配に直結しやすくなります
- 特定の大型案件に依存しすぎている……その案件が終わった後の「反動減」がリスクになります
「潤沢な受注残 × 安定した還元方針」——この2つの土台が揃っている限り、ゼネコン株はポートフォリオを支える強力なインフラになってくれます。
厳選3銘柄の徹底解説
① 大末建設(1814):収益改善が止まらない「中堅の雄」
マンション建設を核に、近年は物流倉庫分野でも存在感を高めている中堅ゼネコンです。私がこの銘柄を面白いと思うのは、「選別受注が数字にはっきり表れている」点です。ROEは改善が続き、直近では15%台まで到達。中堅とは思えない稼ぐ力を身につけつつあります。
配当・財務の安定性:株価3,490円に対し、配当利回りは約5.33%(会社予想)。過去10年の配当実績を確認したところ、20円→40円→60円→99円→183円と一貫して増配のみで、減配は一度もありません。「総還元性向50%以上かつDOE4.0%以上」という攻めの還元方針を掲げ、売上高の約1.3年分という豊富な受注残がその原資を支えています。自己資本比率は42.3%です。
リスク・懸念点:①建設業は景気敏感で、不動産市況が冷え込めばマンション・物流倉庫の受注が反動減となるリスクがあります。②資材価格や労務費のさらなる高騰を価格転嫁しきれない場合、改善してきた利益率が再び圧迫される可能性があります。
② 淺沼組(1852):還元に振り切った「高配当の代名詞」
物流施設や工場建設に強く、EC拡大や半導体工場、都市再開発といった国策に近い需要を取り込んでいる準大手ゼネコンです。面白いのは、株主還元への振り切り方。「連結配当性向70%以上」という、業界でも際立った還元方針を明文化しています。稼いだ利益の7割を株主に返す、という潔さです。
配当・財務の安定性:株価854円に対し、配当利回りは約5.27%(会社予想)。過去には株式分割・併合を複数回はさんでいますが、分割調整後で見ると減配は確認されていません。受注残高は約1.1年分と豊富で、PBRは1.39倍。自己資本比率は42.1%です。
リスク・懸念点:①「配当性向70%以上」は裏を返せば業績連動が非常に強いということです。利益が大きく落ち込んだ年は、配当額もそれに応じて下がりやすい構造なので、「利回りの高さ」だけで飛びつくのは禁物です。②物流施設・工場建設は設備投資サイクルに左右されるため、企業の投資意欲が冷えると受注が振れやすい点にも注意が必要です。
③ 松井建設(1810):日本最古のゼネコンが放つ「低PBR × 高配当」
1586年創業、2026年で創業440周年を迎える「日本最古のゼネコン」です。神社仏閣などの社寺建築で唯一無二のニッチを持ち、寺社の改修・再建という、景気に左右されにくい息の長い需要を抱えています。正直に白状すると、私も最初は「一番古い会社が一番手堅い高配当株だった」という事実に、思わず唸ってしまいました。
配当・財務の安定性:株価1,409円に対し、配当利回りは約4.97%(会社予想)。過去10年の配当実績では、2021年にコロナ禍で25円→23円という小幅な調整が一度あったものの、無配や大幅な減配はなく、近年はむしろ大幅増配に転じています。特筆すべきはPBR0.70倍という割安さと、自己資本比率65.1%という鉄壁の財務です。受注高が完成工事高を上回り、売上高に匹敵する繰越工事高(約1年分)を安定的に確保しています。厚い純資産こそが、この会社の本当の「貯金」であり、東証のPBR改善要請の観点でも伸びしろの大きい一社です。
リスク・懸念点:①時価総額が3銘柄の中で最も小さく、出来高が少ない日には株価が大きく動きやすい点に注意が必要です。②社寺建築という強みは裏を返せばニッチな市場であり、一般の建築・土木案件の受注環境が悪化すれば業績が振れる可能性があります。③直近の大幅増配には記念配当も含まれるため、その反動が出る年の配当水準は確認しておきたいところです。
| 銘柄 | 受注残(年数) | 配当利回り | PBR | 還元方針 |
| 大末建設(1814) | 約1.3年 | 約5.3% | 1.43倍 | 総還元性向50%以上・DOE4%以上 |
| 淺沼組(1852) | 約1.1年 | 約5.3% | 1.39倍 | 配当性向70%以上 |
| 松井建設(1810) | 約1年 | 約5.0% | 0.70倍 | 増配基調・自己資本65%の厚み |
まとめ:建設株はポートフォリオの「守護神」になるか
今回の3銘柄を整理すると、①大末建設は選別受注で稼ぐ力を高めた中堅の雄、②淺沼組は還元に振り切った高配当の代名詞、③松井建設は日本最古のゼネコンが放つ低PBR × 高配当——それぞれ個性は違いますが、「受注残という貯金」と「明文化された還元方針」という共通の土台を持っています。
建設株は、もはや「地味で景気敏感なだけのセクター」ではありません。2024年問題を追い風に変えた利益率の改善、受注残がもたらす見通しの良さ、そして東証改革が後押しする高還元圧力。この3つが重なった今、建設株には「高配当・低PBR・高安定性」という、守りを固めたい投資家にとって魅力的な条件が揃っています。
もちろん、建設株だけで固めるのは危険で、あくまでポートフォリオの一部です。私自身は「攻めの成長株」と「守りの高配当株」を組み合わせる二刀流でやっていますが、こうした受注残の厚い建設株は、その「守り」の中核を担ってくれる存在だと考えています。派手に値上がりを狙う株ではありませんが、荒れ相場でも配当を淡々と積み上げてくれる——そういう地味な安心感こそ、長く続けるうえで一番効いてくるものです。
私が実践する「ツルハシ投資法」——国策の恩恵を裏方から狙う視点は、こちらでまとめています。建設株も、防災・国土強靱化という国策インフラを足元で支える裏方として、この考え方と地続きです。
※本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。データは2026年7月時点の情報に基づいており、株価・配当利回りは変動します。
著者プロフィール
クアット。90年代生まれ、東海地方出身。20代を世界各国で過ごし、4ヵ国語を操りながら多国籍な環境でキャリアを積む。2017年より投資を開始。現在は日本株・米国株を主力に運用し、アッパーマス層(資産4,000万円以上)に到達。海外での経験から「言葉や感情は揺らぐが、数字だけは嘘をつかない」と確信。趣味の域を超えた銘柄分析を、ポエムや感想を排除した「ロジック重視」の視点で発信中。