配当も自社株買いも、両方できる企業:株主還元に余力がある5銘柄

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高配当株を調べていると、「増配を発表しました」というニュースと「自社株買いを発表しました」というニュースの、どちらか一方しか見かけない会社が意外と多いことに気づきます。配当を増やす年は自社株買いを見送り、自社株買いをする年は配当を据え置く。どちらも株主還元には違いないのですが、片方を立てるともう片方が引っ込む、という構図です。

一方で、同じ年に増配と自社株買いを同時に発表し、それを何年も続けている会社も存在します。今回は、その「両方できる企業」を数字で拾い出してみました。

配当と自社株買いは、同じ財布から出ている

当たり前の話ですが、配当も自社株買いも原資は同じです。稼いだ利益と、手元にある現金。この一つの財布から、配当という形で現金を配るか、自社株買いという形で株数を減らすかを選んでいるにすぎません。

だから「両方やる」というのは、単に還元が手厚いという話ではありません。配当を払ったうえで、まだ自社株買いに回せるだけの余力が残っているということです。逆に言えば、配当性向がすでに70%や80%に達している会社は、どれだけ株主還元に前向きでも自社株買いには手が回りません。

そしてもう一つ。自社株買いは配当と違って、やらなくても「減配」とは呼ばれません。だからこそ、業績が苦しい年に真っ先に削られます。何年も続けて実施できているという事実そのものが、その会社の余力を示す情報になります。

「両方できる」を見分ける3つの条件

今回の銘柄選びで使った基準は、次の3つです。

  • 配当利回りが2.5%以上(2026年8月21日終値ベース)
  • 過去10年で一度も減配していない(分割調整後の年間配当を1年ずつ並べて目視で検算)
  • 直近1年以内に自社株買いを決議または実施している(各社の適時開示で確認)

2つ目の条件が、実際にはいちばん厳しく効きました。利回りが高く自社株買いにも積極的な会社でも、配当を10年さかのぼると1回や2回の減配が見つかります。今回スクリーニングしたなかでは、コマツが2020年3月期と2021年3月期に連続で減配(110円→94円→55円)、日本郵政が2019年3月期に57円から50円へ、キヤノンが2021年3月期に160円から80円へと、いずれも過去10年のどこかで配当を減らしていました。

配当性向にも目を配りました。セイコーエプソンは利回り2.61%で減配歴もありませんが、2026年3月期の配当性向が130.3%と、利益を超える配当を出している状態です。この水準では自社株買いを継続する余力があるとは言いにくく、今回は見送っています。

減配していない年数の数え方については、こちらで詳しく書いています。

「累進配当」の看板を疑え:減配しない企業を見抜く3つの基準

配当も自社株買いも両立している5社

以下の株価・利回りは2026年8月21日終値、配当性向は2026年3月期の実績です。自社株買いの内容は各社が開示した取締役会決議に基づいています。

トヨタ自動車(7203)― 上限1兆円の枠を、8月に決議

株価3,132円、配当利回り3.19%、2027年3月期の予想年間配当は100円。配当性向は32.1%と、まだ半分にも届いていません。

年間配当は分割調整後で2017年3月期の42円から100円まで、10年間一度も減らさずに増やしてきました。そのうえで2026年8月4日、上限5億株・1兆円の自社株買いを決議しています。取得期間は2027年8月4日までの1年間で、取得分のうち2億株(発行済株式総数の1.37%)を消却する方針も同時に示されました。

「機動的な自己株式取得により資本効率の向上を図る」というのが会社側の説明です。決議日から3週間ほどしか経っていない、まさに進行中の枠になります。

三井住友フィナンシャルグループ(8316)― 買った株を、全部消す

株価6,606円、配当利回り2.72%、予想年間配当180円、配当性向38.0%。年間配当は分割調整後で50円から180円へと、10年で3.6倍になりました。

2026年5月13日に、上限4,000万株・1,800億円の自社株買いを決議。注目したいのは、この取得で買い付けた自己株式を全株消却すると同時に決議している点です。消却予定日は2026年8月20日。買った株を金庫に置いておくのではなく、その場で消してしまう建て付けになっています。

なお同社は2026年10月1日付で1株を2株に分割する予定です(基準日は9月30日)。上記の株価と配当は、いずれも分割前の数字です。

SOMPOホールディングス(8630)― 還元の内訳まで開示している

株価6,757円、配当利回り2.96%、予想年間配当200円。配当性向は21.4%で、今回の5社のなかでもっとも低い水準です。年間配当は30円から200円へ、10年でおよそ6.6倍になりました。

2026年5月20日に、上限1,700万株・690億円の自社株買いを決議。取得期間は6月2日から11月18日までで、7月末時点で約127億円を取得済みと開示されています。この690億円の内訳は、基礎還元354億円と追加還元336億円と明示されました。

同社の還元方針は「修正連結利益(直近3年平均)の50%」を基礎還元とし、これに政策保有株式の売却損益(税後)の50%を原則として上乗せするというもの。自社株買いの金額が、方針からそのまま逆算できる形になっています。過去の実績を見ても、2023年6月からの250億円を皮切りに、770億円、1,550億円、1,050億円と、毎年途切れることなく実施されてきました。

積水化学工業(4204)― 累進配当と総還元性向50%を、方針として掲げる

株価2,643円、配当利回り3.06%、予想年間配当81円、配当性向43.6%。年間配当は35円から81円へ、10年で減配なしの増加です。

同社は利益配分の基本方針として、連結配当性向40%以上、自己資本配当率(DOE)3.5%以上、そしてネットD/Eレシオが0.5以下の場合は総還元性向50%以上を掲げ、中間・期末の年2回で累進配当を行うと明記しています。

2026年4月28日には、上限400万株・120億円の自社株買いを決議(取得期間は2027年3月31日まで)。あわせて2,500万株、発行済株式総数の5.81%に相当する自己株式の消却を5月25日付で実施しました。自社株買い自体も2023年5月に約78.3億円、2023年12月に約83.4億円、2025年5月に約99.9億円と、繰り返し行われています。

鹿島(1812)― 買い切って、消すまでを1年で完了

株価4,747円、配当利回り3.08%、予想年間配当146円、配当性向38.4%。年間配当は40円から146円へと10年で3.65倍になっています。ただし2027年3月期の予想配当は146円で、前期と同額の据え置きです。増配は止まっていますが、減配もしていません。

自社株買いは2026年5月14日に上限900万株・400億円で決議し、7月13日に取得を終了、8月4日に消却を発表という流れをたどりました。決議から消却まで3か月弱です。前年の2025年7月にも自社株買いの取得終了を開示しており、単発ではなく毎年の運用になっています。

5社を横に並べる

銘柄(コード)株価利回り配当性向10年の年間配当直近の自社株買い
トヨタ自動車(7203)3,132円3.19%32.1%42円→100円上限1兆円(2026年8月決議)
三井住友FG(8316)6,606円2.72%38.0%50円→180円上限1,800億円・全株消却
SOMPO HD(8630)6,757円2.96%21.4%30円→200円上限690億円(実施中)
積水化学工業(4204)2,643円3.06%43.6%35円→81円上限120億円+5.81%消却
鹿島(1812)4,747円3.08%38.4%40円→146円上限400億円・取得完了

配当性向はすべて21%から44%の範囲に収まっています。利回りが3%前後ありながら配当性向が4割前後というのは、裏を返せば利益の6割近くが配当以外の使い道に残っているということです。その余りが自社株買いに向かっている、という構図が数字で見て取れます。

配当性向の水準から増配余地を読む考え方は、こちらでまとめています。

配当性向で選ぶ「伸びしろ株」:VIG的な発想の増配期待5銘柄

それでも、自社株買いを過大評価しないために

ここまで自社株買いを肯定的に書いてきましたが、投資判断に使ううえでの注意点も3つ挙げておきます。

一つ目は、自社株買いは約束ではないということ。配当は「予想」として会社が数字を出し、下げれば減配と報じられます。自社株買いにその縛りはありません。今年1兆円の枠を設定した会社が、来年ゼロでも何も起きません。継続性は結果として確認するものであって、将来を保証するものではありません。

二つ目は、上限額は実行額ではないということ。開示されるのは「取得し得る株式の総数」と「取得価額の総額」、いずれも上限です。枠を使い切らずに期間が終わることもあります。だから今回は、決議の数字だけでなく、取得状況や取得終了の開示まで見るようにしました。

三つ目は、消却されるかどうかで意味が変わるということ。買い付けた自己株式を保有したままなら、将来それが市場に戻る可能性が残ります。消却まで決議されて初めて、1株当たりの価値が確定的に上がります。三井住友FGや積水化学、鹿島のように取得と消却をセットで開示している会社は、この点が明快です。

そして最後に、還元の原資が本当に手元にあるかという話。配当も自社株買いも、最終的には現金で払われます。

配当は現金で払われる:営業キャッシュフローで選ぶ高配当株5選

まとめ

配当も自社株買いも両方やれる会社は、還元が手厚いというより、還元したうえでまだ余っている会社です。配当性向が4割前後にとどまっているのに利回りが3%出ている、という組み合わせが、その余力をいちばん端的に表しています。

今回の5社は、10年間の配当を1年ずつさかのぼって減配がないことを確認し、そのうえで直近1年以内の自社株買いを各社の適時開示で裏取りしたものです。利回りの高さだけで並べると、この5社より上に来る銘柄はいくらでもあります。ただ、そのなかには過去10年のどこかで配当を減らした会社が、かなりの割合で混ざっています。

気になる銘柄があったら、増配のニュースを見る前に、まず配当の履歴を10年分並べてみてください。そのうえで自社株買いの開示を確認すると、その会社が「両方できる」側なのか、「どちらか一方で精一杯」なのかが、わりとはっきり分かれます。

増配のペースそのものを数字で比べる方法は、こちらで解説しています。

5年で配当が1.7倍以上に:年平均増配率で選ぶ高配当株5選


※本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。株価・配当利回りは2026年8月21日終値に基づくもので、日々変動します。自社株買いの内容は各社の適時開示に基づく決議時点の情報であり、上限額の全額が実行されるとは限りません。配当予想は各社の会社予想であり、今後修正される可能性があります。


著者プロフィール

クアット。90年代生まれ、東海地方出身。20代を世界各国で過ごし、4ヵ国語を操りながら多国籍な環境でキャリアを積む。2017年より投資を開始。現在は日本株・米国株を主力に運用し、アッパーマス層(資産4,000万円以上)に到達。海外での経験から「言葉や感情は揺らぐが、数字だけは嘘をつかない」と確信。趣味の域を超えた銘柄分析を、ポエムや感想を排除した「ロジック重視」の視点で発信中。

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