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かつての私のスマホは、1日に何度も株価の通知が鳴っていました。「〇〇が指定価格まで下がりました」「△△が前日比マイナス3%」——ポケットの中で、スマホがひっきりなしに震えるのです。当時の私は、狙っている高配当株が30個くらいあって、そのすべてに株価アラートを設定していました。
一見、情報をこまめにチェックする、真面目な投資家に見えるかもしれません。でも実は、この30個のアラートこそが、私をじわじわと苦しめていたのです。今日は、その通知を、ある日を境に全部切った話をします。そして、情報を減らしたら、むしろ投資がうまく回り始めたという、少し逆説的なお話です。
30個のアラートが、私を縛っていた
そもそも、なぜ私はアラートを設定していたのか。理由は明確でした。高配当株の保有銘柄を増やしたかったからです。狙っている銘柄が、自分の決めた「買いたい株価」まで下がってきたら、すかさず買う。そのために、30個ほどの候補すべてにアラートを仕掛けていたのです。
戦略としては、たしかに機能しました。アラートのおかげで買い場を逃さず、保有銘柄数を着実に増やすことに成功したのです。ここまでは、狙い通りでした。
ところが、副作用のほうが、だんだん大きくなっていきました。アラートが鳴るたびに株価が気になり、アプリを開いてしまう。「せっかく開いたのだから」と、ほかの保有銘柄の株価まで確認してしまう。結果として、1日に何度も株価をチェックするようになっていました。おまけに、ウォッチリストに並ぶ銘柄が増えすぎて、その管理そのものが負担になっていったのです。
あるとき、ふと気づきました。銘柄を増やすための道具だったはずのアラートに、いつの間にか自分のほうが振り回されている。手段が、目的化していたのです。株価を管理しているつもりが、株価に管理されている——そんな状態でした。
ある日、通知を全部切りました
ある日、私は思い切って、アラートを全部切りました。30個、ひとつ残らずです。ついでに、ふくれあがっていたウォッチリストも、大胆に絞り込みました。優待狙いの3銘柄と、財務優良の高配当を狙う2銘柄。30個あった監視対象を、たった5個まで減らしたのです。
正直に言うと、最初はとても不安でした。「アラートを切ったら、絶好の買い場を逃してしまうのではないか」。長年、通知に頼って買い場を捉えてきただけに、その恐れは決して小さくありませんでした。
ところが、実際に切ってみると、恐れていたようなことは何ひとつ起きませんでした。買い場を逃して大損した、なんてことは一度もなかったのです。それどころか、四六時中スマホの通知に気を取られることがなくなり、驚くほど心が軽くなりました。「あの通知は、いったい何のためだったのだろう」と、拍子抜けしたほどです。
株価の「評価額」を見ないようにしている話も、同じ引き算の発想です。あわせてご覧ください。
見なくても回る「仕組み」をつくった
とはいえ、「意志の力で株価を見ないようにする」のは、実はとても難しいことです。人間は、気になるものをつい見てしまう生き物だからです。そこで私は、意志ではなく仕組みで解決することにしました。見なくても投資が回るように、行動のルールを組み替えたのです。具体的には、3つです。
仕組み1:買い増しは、個別の株価を見て決めない。 その代わり、日経平均などの指数が大きく下がって、「暴落」というニュースがネットやテレビに上がってくるような局面で、狙っていた銘柄をまとめて買います。個別株価とにらめっこするのではなく、相場全体が大きく崩れたときだけ動く、というシンプルな判断に切り替えました。
仕組み2:株の確認は、月に一度だけ。 毎日どころか、毎週も見ません。月に一度、決まったタイミングでまとめて確認するだけです。これだけで、株価に触れる時間が劇的に減りました。
仕組み3:その月1回の確認では、株価より「減配・無配転落がないか」を重点的に見る。 ここが、高配当株投資家にとって一番大事なポイントだと思っています。私たちにとって本当に重要なのは、日々の株価の上下ではなく、配当が維持されているかどうかだからです。だから月1回の点検では、株価をざっと眺めたあと、保有企業に減配や無配転落の兆しがないかを、じっくり確認します。この仕組みにしてから、株価に振り回される時間が激減し、心が驚くほど穏やかになりました。
足し算ではなく、引き算の投資
この経験を通じて、私はひとつの確信を得ました。投資というのは、つい「足し算」をしたくなるものだ、ということです。情報を増やし、銘柄を増やし、アラートを増やし、チェックする回数を増やす。より多く知り、より多く見ているほうが、有利に戦える気がしてしまうのです。
でも、実際はどうでしょうか。増やせば増やすほど、心は乱れ、判断は雑になっていきました。行動経済学の世界にも、選択肢や情報が多すぎるとかえって判断を誤るという「選択のパラドックス」が知られています。24種類のジャムより、6種類のジャムのほうがよく売れた——という有名な実験もあるほどです。情報過多は、人を賢くするどころか、決断を鈍らせてしまうのです。
私の投資がうまく回り始めたのは、「引き算」を覚えてからでした。情報を減らす。通知を切る。確認を月1にする。減らすことで、かえって本当に大事なこと——配当が続いているかどうか——に、意識を集中できるようになったのです。そもそも高配当株は、頻繁に売買せず、長く持ち続けるのが前提です。金融庁も長期・積立・分散を資産形成の基本として挙げているとおりで、頻繁に売らないのなら、頻繁に見る必要もない。「引き算」の発想は、長期の高配当投資と、驚くほど相性が良かったのです。
情報を減らすほど、投資はシンプルになる
アラートを切り、ウォッチリストを絞り、確認を月1回にする。こうして情報を思い切って引き算したことで、私の投資は、むしろうまく回り始めました。皮肉なようですが、道具を減らしたら、道具に振り回されなくなったのです。
「たくさんの情報を見ているほど、真剣な投資家だ」——私たちはつい、そう思い込みがちです。でも、本当はその逆かもしれません。少なくとも私の場合は、見るのをやめたことで、大事な一点に集中できるようになりました。あなたのスマホは今日、何回、株価の通知を鳴らしましたか。もしその通知に、少しでも心を乱されているのなら、思い切ってひとつ切ってみるのも、悪くないかもしれません(かくいう私も、切るまでに何年もかかった、筋金入りの通知中毒だったのですが)。
情報や流行に振り回されて失敗した私の実体験は、こちらの記事で正直に書いています。
※本記事は情報提供および筆者個人の経験・見解を目的としており、特定の投資手法や銘柄を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。データは2026年7月8日時点の情報に基づいています。
著者プロフィール
クアット。90年代生まれ、東海地方出身。20代を世界各国で過ごし、4ヵ国語を操りながら多国籍な環境でキャリアを積む。2017年より投資を開始。現在は日本株・米国株を主力に運用し、アッパーマス層(資産4,000万円以上)に到達。海外での経験から「言葉や感情は揺らぐが、数字だけは嘘をつかない」と確信。趣味の域を超えた銘柄分析を、ポエムや感想を排除した「ロジック重視」の視点で発信中。