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台風が来るたびに、堤防の決壊や土砂崩れのニュースが流れます。地震が来るたびに、古い橋梁や建物の被害が報じられます。そのたびに思うのは、「日本のインフラはこのままで大丈夫なのか」ということです。
国土交通省の予防保全に関するページによれば、建設後50年以上が経過する橋梁は2033年時点で全体の約63%に達する見込みです。上下水道管路の老朽化も深刻で、更新費用の試算は33兆円超とも言われています。「老朽化」はスローガンではなく、毎年現実の事故として現れています。
こうした背景を受け、政府は2026年秋に「防災庁」を発足させ、5年間20兆円超の国土強靱化実施中期計画も動き出しています。大型インフラ投資の波が来るとすれば、鹿島や大成建設のような大手ゼネコンはすでに株価に織り込まれています。投資妙味があるのは、その「川下」に位置する中小型の専門工事・素材・ICT企業——いわゆる「ツルハシ銘柄」です。
防衛・AIデータセンター・国産エネルギーに続く、Stock Lab「ツルハシシリーズ」第6弾。今回は国土強靱化をテーマに、時価総額3,000億円以下の中小型5銘柄を発掘します。
防災庁設立で20兆円が動き出す。恩恵を受けるのは誰か
2026年3月6日の閣議決定を経て、「防災庁」設置法案が国会に提出されました。日本経済新聞の報道によれば、2026年秋の発足が目標とされており、首相を組織の長に置き、防災相には各府省庁への勧告権が付与されます。2026年度予算では防災庁関連経費として202億円が計上されており、前年(内閣府防災担当146億円)から約38%の増額となっています。
それと並行して動いているのが「第1次国土強靱化実施中期計画」(2026〜2030年度)です。2025年6月に閣議決定されたこの計画は、5年間の事業規模を20兆円超に設定しています。内訳は、ライフライン(上下水道・道路・橋梁・防災施設)の強靱化に約10.6兆円、防災インフラ整備・管理に約5.8兆円が充てられます。詳しくは内閣官房の国土強靱化ページで確認できます。2026年度の国交省関連予算は前年度比21%増の4兆3,950億円と、すでに増額が始まっています。
重要なのは「誰が施工するか」です。大規模工事の元請けは大手ゼネコンですが、実際の橋梁補修・法面工事・護岸整備・ICTシステム構築は、専門性の高い中小型の専門工事会社や素材メーカーが担います。こうした「川下」企業は、受注増加が業績に直結しやすく、かつ株価にはまだ十分に織り込まれていない可能性があります。
防衛分野のツルハシ銘柄については、こちらの記事もあわせてご覧ください。
選定基準:4つの条件を全て満たす銘柄のみ採用
今回の選定では、以下の4条件を全て満たす銘柄のみを採用しています。
- 時価総額3,000億円以下:大型株は情報が織り込み済みのため、中小型に絞る
- 国土強靱化の重点分野との事業連関が明確:IR・受注実績で確認できるもの
- 配当利回り2.0%以上、または増配トレンドあり:インカムも得ながら保有できること
- 直近決算で黒字:業績の裏付けがあること
採用5銘柄 一覧
| 銘柄名(コード) | テーマ | 時価総額 | 配当利回り | 一言 |
|---|---|---|---|---|
| ショーボンドHD(1414) | 橋梁・構造物補修 | 約2,700億円 | 約3.5% | コンクリート補修の国内最大手専業 |
| 日特建設(1929) | 法面・斜面・土砂防災 | 約460億円 | 約4.5% | 麻生G系、FY2026営業利益+58% |
| 不動テトラ(1813) | 護岸・消波・地盤改良 | 約440億円 | 約4.2% | 消波ブロックと地盤改良の両輪 |
| 応用地質(9755) | 防災ICT・地盤コンサル | 約690億円 | 約3.7% | 地質調査と防災情報システムを展開 |
| 東京鐵鋼(5445) | 耐震鉄筋・建材 | 約460億円 | 約5.4% | ネジ節鉄筋で国内シェア50%超 |
※時価総額・配当利回りは2026年5月時点の調査値。株価は変動します。
①ショーボンドホールディングス(1414):橋梁・トンネル補修の国内最大手専業
国土強靱化のツルハシとしての役割
ショーボンドHD(1414)は、橋梁・トンネル・道路などのコンクリート構造物の補修・耐震補強を専門とする会社です。新しいインフラを作るゼネコンとは異なり、「すでにあるインフラの劣化を診断し、直し、延命させる」ことに特化しています。ショーボンドHDのIRページでは受注動向・業績データを確認できます。
国土強靱化計画のライフライン強靱化(10.6兆円)のうち、道路・橋梁の老朽化対策費用が大きな割合を占めます。ショーボンドはまさにこの「維持補修」市場のど真ん中に位置する企業です。公共工事の受注比率が高く、国土強靱化関連予算の増額が直接的な受注増につながりやすい構造を持っています。
業績・財務の安定性
2026年3月期第3四半期は、売上高が前年同期比1.7%の微減だったものの、営業利益は1.8%増の165.91億円と底堅い推移を見せています。一時的な受注タイミングの影響はあるものの、通期予想は増収増益を維持しています。配当利回りは約3.4%で、安定したインカムも期待できます。
リスク・懸念点
①配当性向が60%前後と高めです。業績が悪化すると減配リスクが生じる水準のため、今後の業績推移には注意が必要です。②大型公共工事の受注タイミングによって四半期業績が変動しやすく、短期的な株価の乱高下がある点も留意が必要です。また時価総額が約2,700億円と3,000億円に近く、機関投資家の監視も及びやすい水準です。
②日特建設(1929):法面・斜面保護・土砂災害防止の専門工事会社
国土強靱化のツルハシとしての役割
日特建設(1929)は、法面(のりめん)工事・アンカー工事・地盤改良・斜面補強を専門とする特殊土木の会社です。麻生グループに属しています。山間部の道路脇の斜面崩落防止、堤防背後の地盤強化、豪雨・地震に備えた斜面補強工事など、目立たないが代替不可能なポジションを担っています。
台風・豪雨シーズンに多発する土砂崩れや道路崩壊の復旧工事においても、日特建設の得意領域が直接問われます。防災・減災工事の需要は、国土強靱化計画の推進とともに増加傾向にあります。
業績・財務の安定性
2026年3月期の通期決算は、売上高837.97億円(前期比+24.7%)、営業利益58.27億円(同+58.4%)という大幅な増収増益となりました。防災関連工事・大型案件の進捗が寄与した結果です。配当利回りは約4.5%と高水準で、次期(FY2027)は「防災・減災や社会インフラ老朽化対応需要の取り込みを進める」方針を示しています。
リスク・懸念点
①FY2027(次期)は大型案件の一服感から、減収減益を見込む計画が出ています。今期が「ピーク」の可能性があるため、業績の持続性を確認する必要があります。②大型案件に依存する部分があり、1案件の工期ずれが業績に影響を与える構造である点も注意が必要です。
③不動テトラ(1813):護岸・消波ブロック・地盤改良の専門会社
国土強靱化のツルハシとしての役割
不動テトラ(1813)は、テトラポッドに代表される消波ブロックの製造・施工と、地盤改良工事を主力とする専門建設会社です。海岸・港湾の護岸整備、河川堤防の補強・嵩上げ、液状化対策などの地盤改良が事業の柱です。
国土強靱化計画における「海岸・港湾の防災強化」「河川堤防の強靱化」は重点分野の一つです。気候変動による海面上昇・高潮リスクへの対応として、護岸・消波工事の需要は長期的に高まると見られています。消波ブロックは護岸工事における代替不可能な製品であり、技術・製造設備の参入障壁も高い領域です。
業績・財務の安定性
2026年3月期第3四半期累計は、売上高600.41億円(前年同期比+18.4%)、営業利益50.51億円(同+112.4%)という際立った業績改善を達成しています。自己資本比率は53.3%と財務体質も健全です。配当利回りは約4.2%で、時価総額は440億円と発掘感のある水準です。
リスク・懸念点
①海岸・港湾工事は気象・海象条件に左右されやすく、天候不順が工期遅延・コスト増加につながるリスクがあります。②消波ブロックの製造コストはセメント・鉄筋などの資材価格に依存するため、資材インフレが続く局面では採算性が圧迫される可能性があります。
④応用地質(9755):防災ICT・地盤コンサルタントのパイオニア
国土強靱化のツルハシとしての役割
応用地質(9755)は、地質調査・防災コンサルティング・計測監視システムを手掛けるコンサルタント系企業です。道路・ダム・トンネルの地盤調査から、崩壊地・斜面の計測監視システム、防災情報システムの構築まで幅広く対応しています。応用地質のIRページでは事業内容・受注状況の詳細を確認できます。
防災庁設立後に強化される「デジタル防災・早期警戒システム」の分野は、応用地質の得意領域です。国土強靱化計画には「デジタルなど新技術の活用」予算(約0.3兆円)も含まれており、センサー・ICT・データ活用による防災高度化の担い手として需要が見込まれます。工事は行わず「頭脳」で価値を提供するため、資材コスト上昇の影響を受けにくい体質も魅力です。
業績・財務の安定性
時価総額は約690億円、配当利回りは約3.7%(2026年12月期予想配当110円)です。社会インフラ・地震・災害・環境アセスメントにまたがる多様な事業ポートフォリオが、業績の安定に寄与しています。防災関連の公共投資が増加する局面では、調査・コンサル段階での受注が先行して増えるため、業績への恩恵が相対的に早く現れやすい特徴があります。
リスク・懸念点
①コンサルタント業は人材依存度が高く、専門技術者の確保・育成が収益の制約要因になりえます。②官公庁からの発注タイミングに業績が左右されやすく、年度末や予算配分の変化によって四半期業績が変動する点は留意が必要です。
⑤東京鐵鋼(5445):耐震鉄筋のニッチチャンピオン
国土強靱化のツルハシとしての役割
東京鐵鋼(5445)は、建設用鉄筋の中でも「ネジ節鉄筋」に特化した電炉メーカーです。ネジ節鉄筋は従来の鉄筋に比べて圧接(溶接)が不要で、工期短縮・施工品質向上に貢献します。この分野で国内シェア50%超を持つニッチチャンピオンです。
耐震補強工事や橋梁・建物の建て替えにおいて、鉄筋は必須の建材です。国土強靱化計画の「耐震化」「ライフライン更新」が進めば、ネジ節鉄筋の需要増加が見込まれます。自社で工事は行わず「素材を供給する」ポジションであるため、受注量に依存しにくい安定した収益構造を持っています。
業績・財務の安定性
時価総額は約460億円、配当利回りは約5.4%と高水準です。自己資本比率78%と財務体質は非常に健全で、借入依存度が低く、配当の継続性を支える基盤があります。直近のQ1は鉄筋需要の一時的な低迷により売上が前年同期比11.4%減となりましたが、営業利益の落ち込みは2.8%減と限定的でした。
リスク・懸念点
①鉄筋需要は建設投資の波に左右されます。民間建設投資が低迷する局面では、公共工事向けの増加でどこまで補えるかがポイントです。②製造コストのうち鉄スクラップの価格依存度が高く、スクラップ価格が急騰すると採算が悪化するリスクがあります。高い配当利回りの維持には、収益の安定が前提となります。
まとめ:インフラ老朽化は20〜30年単位で続く構造テーマ
今回ご紹介した5銘柄を振り返ります。
- ショーボンドHD(1414):橋梁・コンクリート補修の専業大手。公共工事の維持補修需要に直結
- 日特建設(1929):法面・斜面保護・土砂防災工事の専門家集団。FY2026は大幅増益
- 不動テトラ(1813):消波ブロックと地盤改良の両輪。護岸・河川工事で高い専門性
- 応用地質(9755):防災ICT・地盤コンサルの上流を担う。デジタル防災推進の恩恵
- 東京鐵鋼(5445):ネジ節鉄筋で国内シェア50%超。自己資本比率75%の財務健全体
日本のインフラ老朽化は、2030年代・2040年代にかけてさらに加速します。これは単年度の予算テーマではなく、20〜30年単位で続く構造的な課題です。防災庁設立と国土強靱化計画は、その「入口」にすぎません。梅雨・台風シーズンを迎える今、改めてこのテーマと向き合う価値があると感じています。
AIデータセンター建設ラッシュを支えるツルハシ銘柄については、こちらの記事もあわせてご覧ください。
※本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。データは2026年5月27日時点の情報に基づいており、株価・配当利回りは変動します。
クアット。90年代生まれ、東海地方出身。20代を世界各国で過ごし、4ヵ国語を操りながら多国籍な環境でキャリアを積む。2017年より投資を開始。現在は日本株・米国株を主力に運用し、アッパーマス層(資産4,000万円以上)に到達。海外での経験から「言葉や感情は揺らぐが、数字だけは嘘をつかない」と確信。趣味の域を超えた銘柄分析を、ポエムや感想を排除した「ロジック重視」の視点で発信中。